イ・ラン氏が新作について語る(撮影/国府田利光)
幼い頃から不安や恐怖で体の緊張度が高まるとよく感じた〈おしっこしたくなるような気持ち〉や、ストレスが極度にかかると現われる〈心がふわーっと浮き上がるような気持ち〉……。
そんな〈名前のわからないさまざまな感情の中で、私は自分だけの名前づけをコツコツと続けてきた〉と、目下国際的にも高い注目を集めるマルチアーティスト、イ・ランさんは、最新エッセイ集『声を出して、呼びかけて、話せばいいの』に書いている(冒頭「体が記憶している場面たち」より)。
表題は、〈ふだんから私はよく一人で声を出す。その言葉を集めて歌を作る。その言葉を書きとめて日記を書き、本を書く。だけどお祈りはどうやるのかがわからない〉と戸惑う著者に、親友のハンダが言った言葉。実は本書の執筆と前後して著者は3歳上の姉イ・スルを亡くし(2021年12月)、友人M(2016年6月)やDを亡くし(2020年7月)、今年2月には18年間共に暮らした猫のジュンイチまでが逝った。が、なぜここまでと思うほど相次いだ身近な死は、同時に愛や優しさについて教えてもくれたという。
きっかけは、『文藝』2022年春季号に寄せた「母と娘たちの狂女の歴史」。その中に〈お母さんは狂ってて、お父さんはサイテーで、おばあちゃんは二人とも精神病患者〉〈お姉ちゃんは、私が家族だから愛しているのではなく、サバイバーの同志として愛しているんだそうだ〉と書く著者は、まずは母や姉に話を訊き、李家の女性達の歩みを遡ろうとしていた矢先に、姉を亡くす。
「私がこの本を出したのもお姉さんの自殺と凄く関係があって、なんでこんなにみんなが死にたい気持ちで生きているのかについて、ちゃんと調べてみたかった。
そして調べてみたら、家父長制や男児選好思想や朝鮮戦争や歴史と全部繋がっていることがわかってきて、たぶん毎日薬を飲みながら死にたい、死にたいと思って生きている人達も、別に自分の存在が悪いせいじゃない。昔からずっと繋がっている背景があるんだってことに、日本や韓国で今も苦しんでいるみんなに気づいてほしかったんです」
