昨年末、尹錫悦元大統領弾劾デモのステージに立ち、〈私の友達はみんな貧乏です/この貧しさについて考えてみてください/それはそのうち あなたにもふりかかるでしょう〉と歌った映像が国内外で注目を集めたように(『オオカミが現れた』)、独り言が時に歌になり、小説やエッセイになる彼女の言葉は、なぜこうも心に届くのかと不思議になるほど、率直で衒いがない。
1960年生まれの母・金卿衡は1956年生まれの父・李石と結婚し、1983年に長女李瑟を、1986年に次女李瀧を、1988年には身体/視覚障害を持つ長男李浣を出産。なぜ3人も産んだのかと聞くと、母は〈何も考えてないから産んだ〉と即答し、〈両親の感情のゴミ箱〉として育つことになった著者は高校を自主退学して18歳で家を出る。一方、自身も精神病を抱える姉は特別支援教師として働き、家計を支え、祖母の介護からも逃げない〈長女病〉だった。
「これは『アヒル命名会議』という小説集にも書きましたけど、いつ帰るかわからないお母さんを15階建てアパートの屋上に出る階段のところで待っている風景が私の記憶にはあって、今でいう育児放棄ですね。だけど子供は親を愛さない方法を知らないし、そんなお母さんを私はもっと知りたくてインタビューした。
するとお母さんやそのお母さんにも狂女になるように追い込んだ歴史があって、同じ家族が全然違う記憶を持っていたりするし、私はなぜ今の私になったのか、何とか生きてる間にパズル合わせをしたいと思ってる。
作品を作る時はいつもそう。なぜ自分がその感情を抱き、その独り言を呟いたのかがわからなくて、常に探している途中なんです」