共に生きられる方法を話したい

 これは著者固有の経験で、人は育った環境も考え方もそれぞれ違う。また性差や国籍や、同じ人間の中でも心と体はすれ違い、矛盾やズレも生じがちだが、そうした違いを認めつつ誰かと誰かを繋ぐために、本書の言葉は紡がれたかのよう。

「でも作品はみんなそうですよね。全然知らない国の映画を観て泣いたりできるのは私達が人間だからで、私の本が特別なわけじゃない。しかもこの本を読んで共感できるのはそれができる環境に育った人だけで、本当に救われてほしい人はその機会さえないかもしれないのが、本当に心残りで。

 私達はエリートにもバカにも一瞬でなりうる存在だからこそ、私は貧乏で無力でも共に生きられる方法や誰も死ななくて済む方法をみんなと話したい。私の渾名って“磁石”なんです。LGBTQの人や、心や体に障害のある人達と少しでも生きやすい社会を作ろうと活動しているから。韓国には障害者を悪く言う侮蔑語があって、コミュニティの外だけじゃなく内側からも色々と言われます。ランさんはマグネットですね、これ以上、仲間が増えたら大変ですよって(笑)。

 つまり彼らは自分のことをよく知っていて、それをジョークにできるユーモアもあるんですよね。私だって国からいつもブラックリスト扱いされている狂女で、確かにエリートの人ばっかりと働く方がキャリアアップは早くなるかもしれない。でもそれはやっぱり、私には気持ち悪いんです」

 そうしたセンサーのひとつひとつが胸を穿ち、イ・ランという唯一無二の表現者はもちろん、時代そのものと出会い直すような、個人的にも大切な読書体験になった。

【プロフィール】
イ・ラン(い・らん)/1986年ソウル生まれ。「貧困、死、悲しみ、不安、苦しみと向き合い、言葉や歌のあり方を探求するアーティスト」(韓国版プロフィールより)。高校を退学し、検定試験に合格後、18歳で家出。2006年より韓国芸術総合学校映画学科に学ぶ。2017年に韓国大衆音楽賞最優秀フォークソング賞、2022年にアルバム『オオカミが現れた』でソウル歌謡大賞「今年の発見賞」や韓国大衆音楽賞最優秀フォークアルバム賞を受賞。著書は他に『悲しくてかっこいい人』等。

構成/橋本紀子 

※週刊ポスト2025年11月7・14日号

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