見つかった時、父の所持金は32円だった
失踪者の家族はどんな状況に置かれるのか。
「年間、数万人がいなくなるんですよね。その中にお父さんも入っていたんです」
── よく存知ですね。2023年の警察庁発表のデータで約9万人ですね。ただ同じく8万8000人近くは所在が確認されています。それには死亡者も含まれますが……。
「捜索願を出しても、警察はほとんどなにもしてくれません。するとお母さんがテレビの 失踪人を捜索する番組に応募すると言い始めたので、なんとかやめさせました」
── 事件や事故以外だと捜査はしてくれないのが現状ですね。月緒さんは父親がどこにいったと思っていましたか?
「お父さんの郷里は東北なので、その辺りで農家の手伝いをしたり、以前からやりたいと 言っていた焼き芋屋さんをしたりして暮らしているのではと考えていました。そのうち見つかるだろうとも」
7月に入ったある日の朝6時過ぎ、警察から電話があり、母が出た。
↓Yahoo非配信
「あなたの夫がビニールひもで首を吊って亡くなっています」
場所は東北の某県。しかも、父の実家から歩いて数分の距離。その場所で父親はフェンスに首を吊って死んでいた。
↑Yahoo非配信
「お父さんが死んじゃった」
そう叫びながら母が連絡をしてきた。
月緒は、さまざまな思いがこみ上げてきて混乱していた。きっと気が動転していたのだろう。母と兄弟にお金を持たせ父のもとへ向かわせると、自分は五反田の風俗店へ出勤したのだ。
「仕事を休んで、お父さんのところに行けばよかったと思いました」
父の遺体と対面した母は「私が悪いってお父さんがいうのよ」と涙をこぼしていた。享年57歳だった。
父の車にあったレシートから移動の形跡が窺えた。父は失踪後、東京から東北地方、さらに北上し、北海道の摩周湖へと、車を走らせていた。一度、東京に戻ってから、東北某県の実家近くについたようだ。
死を選んだ場所は、実家が見えるほどの近さ。所持金は32円だった。