死を選んだ父に、娘が思うこと
祖父は東北の田舎に広大な土地を所有している地主だった。父は長男で実家を継ぐ立場だが、勘当され、後に5人兄弟の末っ子が実家を継いだ。
父が結婚後、月緒と兄弟たちを連れて、実家を訪れたことで、祖父と父の関係は改善された。
「休みのときによく、おじいちゃんの家に遊びに行った記憶があります。だからおじいち ゃんとお父さんの関係は悪くなかったはずです。だけどお父さんは素直になれない性格で したからね。母もそうなので、歯車が狂ってしまい……。結局は愛情確認ができない家族でした。そういうのも父がああなった原因のひとつなのかな」
月緒の考察だ。
 祖父は経済的にも余裕があり、実家も豪邸だった。それでもお金がなくなった父は実家
の敷居をまたぐことができなかった。
親への反抗心。男としての誇り。さまざまなものが父の胸には去来したであろう。結局、父は実家近くでの死しか選べなかった。
警察での検死の後、葬儀となる。葬儀の日も月緒は風俗店に出勤していた。
 実は、失踪した3月から毎日14時過ぎに実家に無言電話がかかっていた。かけていたの
は、きっと父だったのだろう。
「若いときはお父さんのに衝撃を受けて、悲しいときもありました。でも『生きるも 死ぬ死ぬも個人の自由』なんで、お父さんはたまたまそれを選んだだけです。その悲しみも、体を使って現金に変えました)。お金があれば大丈夫です」
軽口をたたくが、父が選んだ死は20代の月緒に暗い影を落としたことは間違いない。
(第2回に続く)
【著者プロフィール】
松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。雑誌記者、出版社勤務を経て、フリー編集者&ライターに。人物インタビュー、ルポ、医療など幅広いジャンルで執筆・編集を手がける。近年は失踪や孤立といった社会的テーマに注力。著書に『泥酔夫婦 世界一周』(オークラ出版)、『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)などブックライターとしても多数の作品に関わる。趣味は旅とワイン。