JR神戸線・新長田駅から線路沿いに徒歩2分の『松岡商店』は心地よく飲める店と評判だ。
「新長田はゴム靴工場と車両製造が盛んな普通の下町。令和なのにどこか昭和っぽいですよ」と3代目店主の松岡弘樹さん(51)。
ここは震災からの復興を象徴する「鉄人28号」の像からもほど近い立地だ。この日も、角打ちがオープンする14時になると待ち構えていたようにお客がやってくる。その中のひとりが、「ここ新長田はええ店がずば抜けて多い、関西角打ちの聖地ですわ。西の酒呑みはみんな注目しとう街やで」と言う。
ここで友人と待ち合わせているという40代の女性客も「この店に初めて来たのは4〜5年前かな。新長田はええ店がようさん(=たくさん、の神戸弁)あるから回ってみようと思ったのがきっかけ。渋くて客の年齢層が高い昔ながらのお店が多いなかで、ここは異彩を放っている。すごい綺麗でスタンディングバーって感じでね」と、当時の様子を楽し気に振り返る。
お洒落で綺麗な店内で、和やかに話が弾みお酒も進む
店主が子どものころは、先代が角打ちを営んでいたという。しばらく休んでいたが10年ほど前に再開した。「ずっと卸と小売りをメインでやっていたんやけど、妻が中心となって立ち飲みスタイルをやってみようと思ったんです」と話す。
角打ちをメインで担当するのは、薬膳コーディネーターでもある妻の晃子さん(51)だ。この店は、客が好きなお酒と、彼女の薬膳アテの組み合わせを楽しめるユニークな飲み処なのだ。
角打ち再開のきっかけは「実は、子供の受験です。『ママも何か勉強するから一緒に頑張ろう』と言った手前、薬膳を学び始めたら面白くてハマって資格を取ったんです。そこから、薬膳もお酒もどちらも楽しめる場所があるといいねという話が出てきました」と彼女は話す。
晃子さんは客の体調をいつも気づかってアテのメニューを考えている。「冬は代謝が低下しがち。だから、体温をキープする食材や体力をつけてエネルギー代謝を高める食材をなるだけ摂ってほしいんです。体を温めるには黒い食材……黒豆、ゴマ、昆布、くるみ、ニラなどがいいですね」といった具合だ。
そのうち、常連客の中で「ここで飲んだ翌日は、かえって調子ええ気がすんねん」(60代)と言う人も出てきた。「その噂を聞いて通うようになったわ」(50代、女性)と、客らの好奇心をそそる声が聞こえてくるようになり、人が集まり始めた。
女性一人でも気軽に来られる。みんなにウェルカムな店と評判の店主、弘樹さん・晃子さん夫妻

