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新型コロナウイルスの影響で旅客は不振が続くが貨物は好調(イメージ、時事通信フォト)
日本の命綱は航空貨物、だが成田がハブ空港になれなかった損失は大きい
 日本航空とANAホールディングスが発表した2021年4~12月期連結決算によれば、どちらも赤字幅は縮小、いずれも国内線の旅客需要が年末にかけて回復したことと貨物事業の好調のおかげだという。新東京国際空港(成田空港)の2021年実績をみても、総旅客数は前年比50%減であるのに対し、国際航空貨物量は5万961回という発着回数も貨物量259万1255トンも前年より約3割増加で過去最高を記録した。コロナ禍、航空貨物の需要は世界で急速に高まっている。俳人で著作家の日野百草氏が、航空貨物需要の高まりと日本の国際空港が置かれている現実についてレポートする。 * * *「いまや航空貨物が命綱です。うちでも単価の高い小口の商品やアフターパーツなら航空便でもペイできます。船(コンテナ船)なんて待ってられません」 複数の商社マン、バイヤーが異口同音に話す航空貨物という生命線、コロナ禍の世界的な港湾の混乱と日本の「買い負け」、としてコンテナ船やコンテナすら「取り負け」と連戦連敗が続く日本のロジスティクスにおける「命綱」が航空貨物だ。2021年の成田国際空港(以下、成田空港)の貨物量は259万1255トンで過去最高を記録した。海が駄目なら空、日本だけでなく世界の空港も貨物便が急増している。「でも航空便が高くつくのは確かです。うちの場合はコロナ前より4倍、下手すると5倍の運賃が掛かってます。クライアントには受け入れてもらうしかありません」 中堅電子部品メーカーの営業マンが成田空港の現状を嘆く。一連の「買い負け」と経済の「安全保障」(もちろん「食の安全保障」も加わる)の取材の中で「航空貨物」という切り口もまた日本の危機をはらんでいると考え、取り上げさせていただくこととした。彼は電子部品といっても電子材料だけでなく包装資材、産業資材、合成樹脂など多岐にわたり取り扱っている。「クライアントから(提示額が)『強気だねえ』なんて言われることもありますが、高いのは事実ですから。まとまった数を確保するだけでも大変なのに、難しいですね」もう少しまともな空港が日本にあれば ここでは一例として電子材料を挙げるが、半導体、基盤、電池、液晶、成形材料、フィルムなど産業に欠かせないこうした部材の数々も「買い負け」の憂き目を見ている。個人消費者の話とするなら新車の納期が車種によってはありえないほど長期に渡るのも、PCパーツが値上げの一途をたどるのも電子材料の高騰と日本の「買い負け」が一因にある。「やっぱり中国には勝てません。差は広がるばかりです」 最大の買い占め国家はもちろん中国。金に糸目をつけず、国を挙げて世界中の材を集め続けている。それを支えるのは豊富な資金と、徹底したロジスティクス戦略である。近年の日本は調達リスクを分散する傾向が強く、筆者はこれも収益性の低下の要因と考える。またコロナ禍のような災害ともなれば一気にそっぽを向かれてしまう危険性がある。もちろん調達の分散は中国企業のように札束攻勢をかけられればメリットもあるが、ただでさえ国内のデフレや対外的な円安で買い勝つだけの金が用意できない日本企業、買い負けは必然である。「でももう少しまともな空港が日本にあれば、と思うんですけど。小さいですよね。仁川くらいの規模があれば、うちもバックオーダーばかり積む必要もないのですが。24時間じゃありませんし」 実は航空便の要である空港も日本は「敗北」を喫している。筆者は『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』『なぜポテトはSのままなのか 日本の港がコンテナ船にスルーされる現実も』では主に食の安全保障と日本の買い負け、そして『コロナ禍でも圧勝のアマゾン 「買い負け」日本との差はどこにあるか』で自前の空港や航空機まで手にする新時代のロジスティクス王、アマゾンについて書いてきた。日本の港が世界ランキングの圏外に沈み、コンテナ線がアメリカと中国のドル箱路線ばかり運行する惨状と同様に、日本の空港もまた中国、アメリカ、そして韓国の後塵を拝している。韓国はともかく、やはりコロナ禍でも経済を回し続けた米中がここでも先んじたな、という印象である。 それを象徴するかのように2021年の国際空港評議会(ACI)速報値(2020年分)でついに日本の空港は世界の貨物取扱量のトップ10から転落した。1位メンフィス、2位香港、3位上海、4位アンカレッジ、5位ルイビル、6位仁川、7位桃園、8位ロサンゼルス、9位ドーハ、10位マイアミと港同様に中国とアメリカの二大国や韓国、台湾、UAEといった国策でハブ空港を進めた国が入っている。そう、日本にはハブ空港がない。成田空港はハブ空港になるはずだったが、なれなかった。それでも一時は世界一位の貨物取扱量を誇ったが他の空港、とくに韓国の仁川国際空港というハブ空港に取って代わられた。日本の国力の衰退もあるが、主因はやはり空港の規模、あと24時間運用でないこと。「当時は正義だと思ってました」 その主因ともなったある活動に参加した70代男性が語る。「冷戦時代、共産主義革命を日本で起こそうって、当時の私たちは本気で思ってたんです。それを正義だと思ってたんです」 筆者はこの件を書くにあたり、成田が小規模な骨抜き空港にされ、ハブ化の阻害となった根本原因、「成田闘争」に触れずにはいられなかった。幸い、周囲に当時の活動家や運動員、多少なりとも若き日に関わった人も含め知り合いの先輩方は多い。彼もその一人である。いまは年金暮らしで趣味に興じているが、彼らはかつて成田空港の建設、そして拡大の阻止に手を貸した。「三里塚闘争」とも呼ばれるが、いまや「あれは何だったのか」と左派の多くも黒歴史化している。もうほとんど報じられることはないが、いまも数件の居住世帯と活動家が残って成田空港そのものに反対し続けている。「50年も前の話です。最初は住民がかわいそうだ、政府は許せないって純粋な思いだったんです。最盛期には日本幻野祭とか、反体制のミュージシャンやバンドはもちろん、それを目当てに普通の若者も集まりました」 経緯はとても長いのでごく簡単にまとめるが、千葉県の成田周辺に国際空港を計画するも一部の地元住民の反対で頓挫、紆余曲折を経て代執行で空港建設を強行する国と住民が長きに渡り衝突、左派団体の多くが住民に味方したが機動隊員3名殉職、管制塔を占拠し破壊、京成スカイライナーを放火、土地を売った農家も裏切り者として放火、あげくに内ゲバと呼ばれる仲間同士の暴力抗争の果てに、反対勢力は急速に一般国民の支持を失った。C滑走路ができれば少しはマシになると思う 成田空港から先に「芝山千代田」という謎の駅がポツンとあって「芝山鉄道」が成田空港と芝山千代田のみを1時間に1~3本運行しているが、この鉄道は一連の住民への補償の一環である。先の経緯からかつては車内には警察官が乗っていた。こうした結果、「不便」で「小さい」、日本の玄関口とは思えない空港になってしまった。「なんだったんでしょうね。いまから思えばよくわからないのです。空港建設反対で機動隊の方々を殺して、それを悩んで自殺した人もいました。かと思えば警官を『討ちとった』と自慢げに語る、ただ暴れたいだけなんだろうなという連中もいて。人を殺しておいてそれはないでしょう。いつのまにかみんな参加しなくなって自分の仕事に戻ったり、就職したりしました。私も就職しました。バブルのころは忙しくて、仕事で成田空港も使いましたよ」 なんと彼もまた現役時代は商社マン。合併でその商社は消滅したが、そんな国際貿易の仕事についたからこそ、よりいっそう空港の重要性を感じただろう。過去をあげつらいたくはないが、多くの死者と国損を積み重ねて、本当になんだったのか。「ソ連が消滅とか、中国が市場経済になるなんて考えられない、そんな時代の話です。もちろん間違っていたと個人的には思ってますよ」 限りがあるのでここまでとするが、日本にハブ空港がない、という歴史的規模の損失を生み出したことだけは確か。A滑走路(4000m)とB滑走路(2500m)のたった2本の滑走路でよくやっているが、おかげで離陸待ちと着陸機待ちで大渋滞、冒頭の営業マンの話に戻す。「C滑走路ができれば少しはマシになると思いますが、いつのことなんでしょうね。海上コンテナがあてにならない現状では、空港貨物がほんと頼みの綱なんですけど、仁川みたいにもっと便が増えるとよいのですが」 2021年末のマクドナルドのフライドポテト不足の際も同社はポテトを空輸した。アマゾンも高単価、かつ急ぎの場合は航空便だ。成田空港の貨物量は過去最大、日本航空も専用貨物機を共同運行するという。いちはやく貨物機ビジネスにシフトした大韓航空はコロナ禍の乗客離れをよそに過去最高を記録、日本も遅ればせながら生き残りを賭けて動き始めている。しかしC滑走路は2028年末の供用を目指すという、時間も掛かる上に件の反対派住民と関係ない箇所に伸ばすので規模は期待できそうにない(国土交通省の計画図を見る限り、既存滑走路と並行に設置できていないのも不安)。米中韓との空港格差はさらに広がりそうだ。 日本は世界の20位にも入らない小さな港ばかりの「海洋国家」になって久しい、しかしそれ以上に空港はお粗末で、みなさんご存知の通りの規模、世界的に小規模な空港が点在している。ハブ空港として集約もできず、政治利権のために一日何本も飛ばない田舎の空港を作りまくった。鳴り物入りだった茨城空港などコロナ禍の2021年、ついに国際線がゼロとなってしまった。「やっぱり成田なんです。羽田や関空もありますけどやはり国際便のメインとしては限定的です。成田はとても設備がいいし信頼できます。だからこそなんだかんだで踏みとどまってるんだと思います。貨物機や空港の方々には感謝してます」 成田空港はSKYTRAXの「世界で最も清潔な空港」で1位となった。確かに筆者はコロナ以前の旅行だけでなく、コロナ禍にもたびたび取材で成田空港を訪れているが、世界でこれほど綺麗な空港を見たことはない。はっきりいって各国のハブ空港は大きく立派だがいろいろと汚い。それぞれのお国柄もあるのだろうが、成田空港のように美しい空港が当初通りの大空港、発展してハブ空港になっていたなら、と思うと残念でならないし、事情は十分知ってはいるが成田闘争の結果的な無意味さ(世界的にも住民交渉の失敗による国家の損失という点で研究されている)がもったいない。また先に取り上げたACIのランキングだが、おそらく他社の調べを見る限り2021年分では成田空港はトップ10に返り咲くだろう。それほどまでに成田空港の貨物取り扱いは好調だ。 コンテナ船の取り負けに起因する部分もあるので素直に喜べないし、この流れが進むと高コストの航空便、さらに値上げラッシュとなるだろう。それでも貿易という戦争を勝てないまでも防戦するには空港や航空各社に対するよりいっそうの国家的バックアップが必要だ。何でも安く手に入るのが当たり前、という染みついた国民意識もみんなで変える必要がある。それが貿易や物流の現場という最前線で戦う日の丸企業戦士たちに対する私たち銃後の消費者の務めだと思う。 何度も書くが、ロジスティクスの軽視こそ敗戦、亡国の導因であることは歴史が証明している。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。
2022.02.13 16:00
NEWSポストセブン
「元日の紙面を見て、新聞はもう変わってしまった…」という声も
新聞業界の変化を象徴 元日紙面からスクープが消えた舞台裏
 日本の新聞に、何が起きているのか──。新聞の総発行部数はコロナ禍の2年間で500万部近く落ち込み、広告収入は激減、各社はネットに活路を求めてサイトが乱立し、記者たちはネット配信用の原稿と自分のSNSで名前を売ることを求められ、紙面も大きく変わった。 新聞の変化を象徴的に示したのが今年の元日紙面だ。朝日は「未来予想図 ともに歩もう」という見出しの企画もの、読売は「米高速炉計画 日本参加へ」、毎日は「露、ヤフコメ改ざん転載」を1面トップで報じた。 大手紙のベテラン社会部記者がいう。「今年元日の紙面を見て、新聞はもう変わってしまったと思った。とくに朝日。もともと元日のトップ記事は新聞記者の誰もが狙うスクープが載るもの。特捜部ネタや政治ネタなど、多少強引でもその1年を予感させるような特大ネタを深謀遠慮を重ねながら仕込む。大晦日の夜10時に入稿するが、他紙に後追いされないように早刷りには載せずに最終版だけに出すかっこよさを記者なら誰もが憧れてきた。それが、今年の朝日はドリカムの吉田美和のインタビューがトップでしたからね」 歴史に残る元日スクープといえば、読売が1995年に報じた、オウム真理教の宗教施設がある山梨県上九一色村でサリン残留物が検出されたという特報が有名だが、最近では、朝日が2019年に「昭和天皇の直筆原稿見つかる」とスクープするなど各紙とも元日のトップ記事には力を入れてきた。しかし、今年の元日紙面で話題になったのは、日刊スポーツの「深田恭子が年内にも結婚へ」という“芸能スクープ”くらいだ。 その理由の一つが、紙面よりネット配信重視という編集姿勢の変化だ。大手紙の第一線記者が言う。「『速報を出せ』という指示は年々強くなっています。従来は朝刊の記事を日中にネット配信という順序だったが、いまはとにかくネットが先。新聞の部数が年々減るなか、各社ともものすごくネット志向を強め、ネットの有料会員を増やすために速報性を重視する方針になっている。だからわれわれ記者は会見場にパソコンを持ち込んでその場で原稿を書いて送るし、次の日にこんな発表があると事前にわかっている場合、予定稿を用意して会見が始まった段階ですぐネットニュースに流すのがルーティンになった。 ドラマの『新聞記者』のような調査報道は時間をかけてじっくり取材したうえで記事にする。取材方法のスピード感が正反対で、あんな調査報道はなかなか難しくなった」 ネット配信で先行する日経では、いまや「日経電子版」がメインだ。「以前は朝刊の締め切り、夕刊の締め切りと1日に何回かに分けて締め切りがあったんですが、いまは記事ができればすぐにネットに上げる体制で、昼間に取材して夜に記事を書くなんて無理。ネット中心になり、スクープ主義ではなくなった。どんな記事を出しても1~2時間、引用なら数十分で他社が後追いしてくるからスクープでは読者は取れないんです」(元記者) 新聞社内でも紙の新聞は「旧聞」を載せるものとして扱われるようになった。そのかわりにネット版には「速報」「独自」と付けた記事がやたらに多い。「PV(ページビュー)を稼ぐため」(ネット版デスク)という理由だ。※週刊ポスト2022年2月18・25日号
2022.02.13 07:00
週刊ポスト
北海道知内町を通過する北海道新幹線(時事通信フォト)
人口3000人の北海道沼田町が提起した「鉄道ルネサンス構想」は廃線危機を救えるか
 営業管内2400kmのおよそ半分にあたる1200kmについて、自社単独で維持していくことは困難であるとJR北海道が発表してから5年以上が経った。それ以来、バスへの転換や、列車運行と施設保有の分離などについて沿線自治体と交渉を続けている。さらに北海道新幹線の2030年度札幌延伸に伴い、並行在来線・函館本線(小樽-長万部間)のうち余市-長万部間のバス転換が決定された。その話し合いがすすめられていた一方で、北海道沼田町は2021年9月に「鉄道ルネサンス構想」と題した、北海道全体の鉄路を守るための提案を公表した。ライターの小川裕夫氏が「鉄道ルネサンス構想」が狙うものについてレポートする。 * * * 2016年、北海道新幹線が新青森駅から新函館北斗駅まで延伸開業した。2031年には札幌駅までの延伸開業が予定されている。貨物列車が運行するため、新幹線開業後も新函館北斗駅-長万部駅間の在来線が残ることは決まっている。しかし、新幹線と並行しない区間の今後は決まっていなかった。このほど、長万部駅-余市駅は新幹線開業と同時に廃止が確定的になり、余市駅-小樽駅も廃止の方向で議論が進められている。 北海道は、毎年のように積雪で道路が通行止めになる。鉄道も積雪で運休することはあるだろうが、リスクヘッジの観点からも移動手段の選択肢が多いにこしたことはない。そのため、道内の市町村は交通インフラの確保に努めてきた。新幹線が開業するからといって、沿線の市町村は在来線の廃止を簡単に受け入れることはできない。 JR北海道は線路を残したいとする自治体にも負担を求める。しかし、人口減少やコロナ禍による観光客の減少といった要因が重なり、自治体の財政は苦しい。金銭的な負担と在来線の存続を天秤にかけ、諦める市町村が目立つようになっている。 そうした中、一石を投じた小さな自治体がある。それが北海道沼田町だ。「北海道は第一次産業と観光業で成り立っています。鉄道は農産物などの貨物輸送にも不可欠なインフラです。また、観光客にとっても鉄道は必要です。観光なら鉄道じゃなく、レンタカーでいいじゃないかという意見もありますが、鉄道で道内を周遊する観光客は多いのです。現状を放置していたら、札幌近郊しか鉄道は残らなくなります。そんな危機感から、鉄道を残そうという声をあげました」と話すのは、北海道沼田町産業創出課JR留萌本線対策室の担当者だ。オール北海道で鉄道を残すための取り組み 現在、沼田町はJR留萌本線の存廃問題で揺れている。深川駅-留萌駅を結ぶJR留萌本線は、2016年に留萌駅-増毛駅間が廃線に追い込まれた。しかし、末端部分を廃止しても留萌本線の収支が改善することはなく、今度は路線全体の存廃が俎上に上っている。 沼田町は、留萌駅-増毛駅間の廃止議論の際にも廃止反対を表明していた。同区間が廃止されても、特に沼田町には影響が出るとは思えない。それでも沼田町が鉄路の存続を訴えているのは、先述したように鉄道は北海道の基幹産業でもある第一次産業と観光業に大きな影響を及ぼすと考えているからだ。 第一次産業と観光業が衰退すれば、それは北海道そのものの存亡にも関わる。鉄道を守ることは、単に移動手段を守るというだけにとどまらず、北海道民の生活を守るということでもある。「鉄道が廃止されることに伴う負の影響は、沼田町だけの話ではありません。仮に沼田町を走る留萌本線が廃止を免れたとしても、ほかの路線が廃止されてしまえば北海道全体が縮小していきます。沼田町だけのことを考えているのではなく、オール北海道で鉄道を残すための取り組みとして”鉄道ルネサンス構想”を提唱したのです」(同) 沼田町が打ち出した“鉄道ルネサンス構想”の内容は多岐にわたるが、肝心な鉄道を支える金銭面の仕組みとして、鉄道会員制度フリーダムパスポートの導入を提案している。 同パスポートは、一人が8000円を支払うことで道内のJR線が1年間乗り放題になるというものだ。これを全道民で購入して財政的な基盤をつくり、道外からのビジネス客・観光客の売り上げで収益をあげる。こんな収支シミュレーションを描いている。 鉄道ルネサンス構想を打ち出した沼田町は、石狩沼田駅が玄関駅。かつて石狩沼田駅は、札幌とを結ぶ札沼線の終着駅だった。つまり、石狩沼田駅には留萌本線と札沼線の2路線が乗り入れていたわけだが、1972年に札沼線は石狩沼田駅-石狩橋本駅間を廃止。さらに、2020年には北海道医療大学まで短縮した。 北海道医療大学駅までの沿線には大学が多く点在している。そのため、日々の通学利用者は多い。その区間だけを見れば、札沼線は道内でもピカイチの稼ぎ頭となった。 仮に、その先の鉄路が存続していれば、沿線に大学や企業を誘致できた。過疎化を抑制し、経済的な疲弊も緩和できただろう。日本全国で人口減少が加速している中でも、鉄道によって活気が生まれた自治体はある。その代表例が、近年になって人口増が顕著な自治体として注目を浴びる千葉県流山市だ。 流山市は、2005年につくばエクスプレスが開業したことで東京都心部と直結。アクセス面のよさから、30代を中心とするファミリー層が多く流入してきた。ファミリー層の増加を受け、行政も子育て支援に力を入れ始める。それが、さらなる人口増に拍車をかけ、地域は活性化。好循環につながっている。こうした事例からもわかるように、鉄道は単純に収支だけで判断できるものではない。鉄道の有用性を働きかけたい 札沼線から切り捨てられた苦い記憶、そして現在は留萌本線の存廃で揺れている沼田町だからこそ「鉄道を残さなければならない」と声をあげることができたわけだが、人口3000人の小さな町が発したメッセージは簡単に大きくならない。広がりを欠けば、シミュレーションした金銭的な支え合いの仕組みにも綻びが出てしまうだろう。なによりも、グズグズしているうちに鉄道がどんどん廃止されてしまう。一刻の猶予もないのだ。「鉄道ルネサンス構想における金銭面でのシミュレーションは、細かく詰めたものではありません。しかし、北海道の鉄道は厳しさを増しています。まず声をあげて、賛同の輪を広げることが先決だと考えたのです。昨今は脱炭素が注目されるようになっているので、その点でも鉄道の有用性を働きかけられるようにしていきたいと考えています」(同) 新幹線の開業で、並行在来線が経営危機に瀕する事態は北海道だけの現象ではない。全国各地で起きている。 今秋には、九州新幹線の長崎駅-武雄温泉駅間が開業を予定している。同区間は西九州新幹線と呼ばれ、まだ部分開業でしかないが、今後は九州新幹線の新鳥栖駅まで延伸する計画だ。 西九州新幹線が開業すれば、ここでも並行在来線である長崎本線、長崎本線が切り離されることによって佐世保線や大村線にも影響が及ぶ。これらの存廃問題が浮上することになるだろう。そうした事態を見越し、沿線市町村の一部からは在来線特急でも所要時間が変わらないことを理由に西九州新幹線に対して反対が出ていた。 地方都市は多くがマイカーで移動するため、地域住民の鉄道利用は少ない。在来線の利用者は主に高校生で、しかも朝夕のみ。それが、ますます鉄道の維持は非効率という声を強くする。しかも、少子化により高校生の人数は年を追うごとに減っているので、バスで十分という声は強くなる。 沼田町が提起した鉄道ルネサンス構想は北海道に限定した話だが、同じような立場に置かれている市町村は少なくない。個々の市町村で鉄道を維持することは難しくても、北海道や九州といった広範囲で自治体が連携すれば、新しい可能性が生まれることもあるだろう。 果たして、沼田町に続いて声をあげる市町村は現れるのか?
2022.02.12 07:00
NEWSポストセブン
定食やビュフェなど大衆向けの中華料理店が増えている(イメージ)
東京の街に「中国資本の激安大盛り中華料理店」が増え続けている事情
 香港証券取引所に上場もする中国最大の火鍋チェーンと言われる「海底撈火鍋」が2021年11月、世界で展開する1600店舗のうち300店舗を閉鎖すると発表して大きな話題を集めた。池袋や新宿など日本の店舗はまだ閉じていないが、積極的に出店させてきた巨大中国企業でも新型コロナウイルスの影響は免れないのかと話題になった。巨大チェーン中華料理が苦境にある一方、コロナ禍と自粛に疲弊する日本の街には、なぜか中国資本による新たな形態の中華料理店が増え続けている。俳人で著作家の日野百草氏が、急増する中華料理店をとりまく事情を探った。 * * *「空きが出たらだいたい中国の人が入るね、コロナになってからは特に」 豊島区を中心に賃貸不動業を手掛ける営業マンに話を伺う。池袋、大塚、巣鴨といった山手線沿線とあって近年はテナント賃貸が大半を占めるという。あくまで彼のケースであり個々別の事情、業態により様々だが、2020年のコロナ禍に増えた中国資本とその関係者、相談も含めると日本人より多くなったと語る。「条件や場所にもよるけど、中国人は言い値でテナントに入ってくれる。とくに居抜きなら文句は言わないよ」 池袋もまた時間の問題だったか――筆者は彼に話を伺う前に池袋を歩いたが、コロナ禍で従来の日本人の店舗、とくに飲食店は疲弊しているのがわかる。 かつて池袋は新宿歌舞伎町の次に「夜の街」バッシングを被った。なるほど中華料理店が増えている。それも、これまでのいわゆる中華街的な高級および中流クラスではなく中国本土と同じような大衆店、定食屋の類だ。もう皆さんお馴染みかもしれない、それほどまでにコロナ禍に増え続けている。5、6年前にも中華料理屋が増えたのだが、それともまた違う新たな「増殖」である。「大陸の中国人だけど台湾料理と名乗ったりね。味つけが濃いので私は好みだけど」 筆者も今回のことも兼ね、池袋に限らず都内各所で新たに出店した中華料理屋に入ってみたが確かに味つけは濃い。そして量も多い。店内はシンプルな定食のみかバイキングが主流、また短期間で店名をコロコロ変える場合もある。それにしても画一的、これまでの各店独自色豊かな中華料理店とは一線を画する感じだ。激安大盛りは客を集められるかもしれないが客単価は低い。人件費はもちろん昨今の物価高、仕入れも考えればそれなりの資金も必要だろうに、いったいどんな中国人が出店しているのか。「バックの資本があるね。あとは手引きする会社がある。このご時世、言い値で入ってくれるからありがたいけど、経営者自体が中国人の間でコロコロ変わったりしてる。それ以上はわからないね、契約する人のお金がどこから出てるか、なんてこっちに関係ないし」愛国心が強い「変な中国人」 先に触れた通り2020年、筆者は最初の緊急事態宣言下の新宿歌舞伎町で廃業店舗が中国人経営者の店になる経過を取材している。その時も「言い値で、面倒なことを言わない」とテナント仲介会社は語っていた。なにしろ当時は補償も心もとなく(いわゆる協力金第1弾)緊急事態宣言による撤退や廃業で疲弊していた時期、もう忘れた人もいるだろうが、小池百合子東京都知事まで「夜の街」バッシングを煽るような言動で物議を醸していた。経験のない疫禍とはいえ都の初動は最悪だった。これをきっかけに外国人、とくに中国資本に変わった店もある。旧コマ周辺の一等地すら派手な中国系の店が増えた。「まあ池袋に限らず都内あちこち増え続けてますね。とくに池袋は中華街計画もあったので中国人には馴染みやすいんでしょう」 もう10年以上も前の話だが、インバウンド需要を目的に池袋では「中華街」を作ろうという話が持ち上がり、当初の計画通りの規模とはいかなかったが「池袋リトルチャイナ」と認知されるようになった。なので今さら感もあり筆者は池袋に触れて来なかったのだが、コロナ禍に雨後の筍のように増殖する中華系資本の店舗はその10年以上前のそれともまた違う。まるで何かの指示があるかのように一斉に、突如といった感がある。 次に池袋ではないが都内で長く中華雑貨店を営む在日中国人店主の話、文章化するにあたり一部の日本語をこちらで補っている。「わからない。私たちが来た当時とは違う人たちです。若い人が多いけど家族で雇われて日本で店を開くと聞いてます。交流もありません」 日本の在留中国人は2020年末の時点で77万8112人(出入国在留管理庁)と、いまや福井県や高知県の人口より多い。同胞とはいえすべてと交流があるわけでもないし、あくまで彼の周りの話でしかないが別の都下の中華料理店の華人(日本国籍をとった中国人)も「よくわからない中国人が増えた」と笑いながら話していた。コロナ禍に帰国、あるいは他国への移住も含め、在留中国人そのものは約4万人減ったにも関わらずだ。「中国のほうが景気もいいし仕事も多い。コロナも気にせず暮らせるからと帰った人は多いです」 確かに、日本にいる中国人もすっかり様子が変わったように思う。1990年代までは貧しい出稼ぎ中国人ばかりで密航者も多かった。いわゆる「蛇頭」が暴れていたころだろうか。2000年代に入るとIT大国として徐々に力をつけ、いまやアメリカと太平洋どころか世界の覇権を争う超大国となった。主要な太平洋航路は「アメリカと日本」から「アメリカと中国」に変わった。これまで日本で稼いだ中国人はすでに帰国した人もいる。筆者の知る中国人も仕送りの必要がなくなった、あるいはお金を貯めたと帰った。個人的な感想で構わないので、それらと入れ替わりで増えている新たな在留中国人は何が違うのか教えて欲しい。「故郷は好きですが中国共産党は好ましく思っていません。もちろん普段は口にしません。日本に渡るしか無かった昔の世代はそうでしょう。天安門事件もありました。それにやっぱり貧しかった。でも日本で商売をしようと最近来るような若い中国人や家族は中国共産党を誇りに思うというか、愛国心が強いように思います。私からすると、変な中国人なんです」 中国人のすべてではないが、基本的に中国人は国を信用しない。徹底した個人主義であり、中国人は中国人をもっと信用しない。ただし利害の一致する相手、もしくはお金をくれる人のためには全力で尽くす。案外とアメリカと貿易でうまくやっているのはお互い似た者同士な部分もあるのだろうが、現代の覇権的なグローバリズム経済にはシンプルに適っている。それにしても「中国人に愛国心」とは。「若い世代は中国が途上国だった時代を知りません。仕方ないです。古くからの在日同胞も面白いね、と言っています」 彼も大陸を愛しても中共の支配する国そのものは愛していない。反体制とはいかないまでも、いまの50代後半の在留中国人の中には激動の時代に青春を送り、日本に渡らざるをえなかった人がいる。「いまどきなのでしょう。幹部の子でもないしコネもないのに中国共産党を心から支持する人たちです。(コロナ前から)語学学校にいっぱいいるでしょう」 その新たな在留中国人、中国資本や協力する日本のブローカーの噂は耳にするが、筆者の知る限りいまだに貧しいままの中国東北部や四川の農村部、漢民族以外の中国籍の人々が来ている。もしかして国策で取り組んでいるのではないか。「それはわかりません。でも日本人が『そんなことまで』という分野まで細かく取り組んできたのが中国共産党です。ありえないとは言えないです。党はとても怖い存在です。一般人でも容赦なく捕まえます」もうかなわないよね、お金もってるし 貿易戦争に連戦連勝、世界の穀物や半導体を金の力で買い占める超大国は貪欲で容赦がない。日本の種子や水どころか牛の精子まで手に入れた。海外で当たり前のように見かける和食店の多くも中国資本で、いまや日本人を雇って大々的に展開している。冒頭の不動産営業マンの談。「これは前からだけど潰れたコンビニとか使う場合もあるね。居抜きじゃないけど広いし他に使いようもないって物件も多いからさ。都心じゃ少ないけど都下や関東あたりには多いでしょう」 確かに筆者の住む多摩も元コンビニの中華料理店は点在する。どこも極めて庶民的で安い。この件でいくつかの店舗にあたってみたが、全員口が堅いのか無視するかやんわり拒否されてしまった。これまで中国人のお店の人はおしゃべりで、どこから来たとか身の上話含め聞いてもいないことまで話す人が多い印象がある。言い方は難しいがこれまでと違う印象、いずれも話したがらない。日本人との接客以外の接触を避けているようにも思える。「(中国資本の)オーナーに雇われてるだけだろうね。オーナーは本国にいるかもしれない。でも中華料理屋が目立つけど知らないだけで、最近の出店テナントは中国資本多いよ」 日本の店でも中国資本というのは最近の傾向、人気の韓国系コスメショップも韓国人でなく中国資本だったりする。豊島区の飲食店主に聞くと、このような感想もあった。「どうやって利益出してんだろって思うくらい安いんだ。どれも500円とか、凄いとこはその金額でバイキングの食べ放題だよ」 日本国内でいったいどうやって稼いでいるのか、別に稼ぎがあるのか、先入観抜きにどこか変なのだ。先の古くからの在日中国人が不思議がるのも無理はない。「コロナでどんどん増えてるね。都心は協力金もらったってペイできないとこばかりだから、日本人には厳しいよ」 それにしても、まるで何かの号令があったかのように短期間で増えたように思う。他国でも中国資本のこうした激安飲食店は多いのだが、コロナ禍の自粛と人命重視に疲弊し続ける日本をよそに、中国はさらに世界を席巻するべく攻勢をかけ続けた。おかげで貿易では買い勝ち、アメリカと肩を並べるどころか凌ぐ国力で太平洋の支配を確立しようとしている。謎の中国料理店の増殖という小さな話に思うかもしれないが、小さな事すら全力なのが中国という大国であることはこれまでの事案の数々が証明している。「こんなことまで国がするのか」というのが中国だ。一連のカジノなどの統合型リゾートに関する事件でもその「きめ細やかな」手口とそれに籠絡される日本側の実体があぶり出されたことは記憶に新しい。「でも貸さないわけにもいかないしね、土地だってそうだけど、欲しい人は金さえ出せば誰でも借りられるし買えるのが日本だからさ。コロナでテナント、厳しいからね」 中国人は固定資産税を払いたくないので日本の土地を永続的に持つなんて不合理なことはしたくない。その代わり中国国内のインターネットで日本の土地を短期間に売買している。都心の異常な値上がりは中国国内における日本の土地売買にも起因するのだが、日本に行ったこともない、現地を見てもいない中国人が投機目的で日本の土地をゲームよろしく売買している。中国の名門大学の学生や若手IT経営者などはそれこそゲーム感覚で日本の土地を売り買いしている。「日本人は北京や上海の土地でそれできないからね」 条件や面積にもよるができる国のほうが少ない。許しているのは日本政府だ。日本人は中国の土地は買えない。借りるのすら規制が厳しく面倒だ。不条理だが中国のほうが世界的には当たり前の対応である。国際常識からすれば日本のほうが「間抜け」呼ばわりである。「政府が許してるんだから仕方ない。もうかなわないよね、お金もってるし。日本もコロナ気にせず経済まわしてりゃね」 人命の問題なので致し方ないとはいえ一理ある。もちろん本稿は中国や在留中国人の方を過度に煽るためのものではない。ただ人権意識が高い国のほうが損、という昨今、それにつけこまれることも事実である。目に見えて新たな中国コミュニティが形成され、これまでと違う資本や意図も含めた正体不明の影が見え隠れする。もはや世界の超大国である中国、3兆円以上のODAを止めた2018年の時と同様に、日本の安全保障という点でもこれまでのつきあい方を考え直す機会が訪れている。ちょうど2022年で日中国交正常化50周年、対等な大国として守るべきものは守り、日本も毅然と対峙することこそ共生に繋がる。そのほうが日本で商売をしたい「だけ」の中国人にとっても安心のはずだ。 中国は日本の土地どころかあらゆるものを金で買える、借りられるのに、日本は中国の土地を買えない、借りるにも規制まみれというのは不平等条約のようなものだと思う。2021年、ようやく外資の土地取引規制法が成立したが極めて特殊な場所だけに限定したザル法である。共生とは対等であるからこそ成り立つと考える。ゆずること、おもねることを共生とは言わない。コロナ禍に疲弊する日本の小売りに替わって増殖する新たな中国資本の店舗、中華料理店はその一例だが、さらに加速するであろうその勢い、注視していく必要があるように思う。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題やと生命の倫理の他、日本の「食の安全保障」などロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。
2022.02.10 16:00
NEWSポストセブン
夏季五輪とは何が異なる?(イメージ)
冬季五輪の用具開発メーカーに旨み少ない? 勝利が収益に結びつかない構造
 北京五輪でメダル獲得を目指すアスリートたち。華やかな舞台の裏には、選手を陰ながら支えてきた「用具職人」たちの地道な努力がある。 スピードスケート、ショートトラック、アイスホッケーなどはスケートシューズが重要なカギを握る。かつては大手スポーツメーカーもスケートシューズを製作していたが、次々に撤退。現在、日本国内でブーツやブレード(刃の部分)などスケートシューズを一から製作できる数少ないメーカーが、長野県に本社を置く「エスク」だ。SSS(サンエス)のブランドで知られ、平昌五輪でマススタートの初代女王に輝き、北京五輪で2連覇の期待がかかる高木菜那が使用していることで知られる。「我々がやるのは『ロック』と呼ばれるブレード全体の角度の調整ですね。ブレードは一直線ではなくわずかに湾曲しています。このアーチを『ロック』といい、選手によって違います。研いだり使用したりするうちにこの湾曲がゆがんだり、真ん中だけがへこんだ2段ロックになると、滑りに影響する。『ロック』をリセットし、もう一度微調整の研磨をします。 ブレードは選手が希望するロックに合わせて削るだけですが、ブーツのほうがシビアです。石こうで足形を取って作るんですが、履いてみて硬く感じる部分があれば素材を変えたりします。滑っては調整し、調整しては滑る。そうやって1年ほどかけて調整します」(ブーツ担当の吉田健二氏)売り上げには直結しない 用具の開発には時間も費用もかかるが、夏季五輪と異なり「旨み」は少ないという。スケートシューズを製作する前出の「エスク」の吉田氏は苦笑いを浮かべる。「トップ選手に使用してもらえて名誉には思いますが、販売に直結はしないです。シルバーかゴールドでロゴのマークを入れてあるんですが、小さくて目立たないうえ、シューズカバーをする選手が多いんですよね。それにテレビとかでは上半身が映る。なかなかシューズのアップというのはないですからね」 夏季五輪は競技人口が多いスポーツが中心なので、ウェアやシューズなどの売り上げ増に結びつく。しかし冬季五輪は、ジャンプしかりスピードスケートしかり、同じウェアでもギアの要素が強く、値段も高額で競技人口も少ないため、なかなか収益には直結しない。 もちろん、各メーカーはそうしたなかでも工夫を凝らし、PRのためにロゴの入れ方を工夫している。メダル獲得が期待されるカーリング女子日本代表「ロコ・ソラーレ」の選手が着用するオフィシャルユニフォームには、ジャケットとゲームシャツの右胸、パンツの左太ももとスネにミズノのマークがあしらわれる。「冬季五輪は各企業が報道される写真やテレビ中継の映像を分析し、どこにロゴを入れると露出度が高いかを研究している。ショットする選手はストーンを投げるデリバリーで必ずアップで映るので、目立つような位置にロゴがあります」(スポーツ紙記者) 売り上げに直結しなくても、五輪でブランドアピールできることは、企業のイメージアップに繋がる。開発に携わったメーカー各社の担当者や技術者たちの技と思いは、そうして結実していく。五輪の主役はアスリートだが、縁の下で支える日本の技術にも要注目だ。※週刊ポスト2022年2月18・25日号
2022.02.10 07:00
週刊ポスト
夏季五輪とは何が異なる?(イメージ)
スキーやスノボ競技のワックス 勝ってもメーカーが実績をPRできないワケ
 北京五輪でメダル獲得を目指すアスリートたち。華やかな舞台の裏には、選手を陰ながら支えてきた「用具職人」たちの地道な努力がある。スキーやスノーボードでは「ワックス」も大事なアイテム。雪の状態に合わせたワックスをかけられるかどうかで、競技結果が左右される。 宮城県仙台市に本社を置く競技用ワックスメーカー「ガリウム」は、スキージャンプ、スノーボードハーフパイプ、ノルディック複合、クロスカントリーなどの日本代表チームにワックスを供給している。同社の佐藤純一営業部長は、こう説明する。「我々は選手をサポートする担当者に指示されたワックスを供給するのが仕事です。北京五輪のチームにも当社から1人が加わっています。100種類以上の原料を組み合わせた複数のワックスを持ち込み、その日の湿度や気温を確認しながら、雪質に合わせた原料を加えたワックスを調合。その日のその時間帯のコンディションに合わせたワックスを、限られた時間内に調合して担当者に渡すという仕事です」 知識と経験が求められるだけに、結果が出た時に“ウチのこのワックスの調合で勝利に導いた!”と大々的にPRしたくもなるはずだが、それはご法度なのだという。「ワックスは競技結果を左右するため公言できないんです。たとえばAというワックスがすごくよかったとして、それを公言すると他国の選手がそのAを手に入れようとする。日本チームに勝ってもらいたいとサポートしているのに、私たちがPRすると、日本チームのアドバンテージがなくなってしまいます。 だから五輪などでの実績を内外にアピールできないんです。知名度や売り上げが上がることよりも、データを集めることがメリットだと捉えています」(佐藤氏)※週刊ポスト2022年2月18・25日号
2022.02.09 07:00
週刊ポスト
スキーウエアは空気抵抗をどんどん減らす方向に進化
スキー日本代表を支えるデサント イルカからヒントを得たウェア開発秘話
 北京五輪には、メダル獲得を目指す日本のトップアスリートたちが次々と登場する。そうした世界が注目する華やかな舞台の裏には、選手を陰ながら支えてきた「用具職人」たちの地道な努力があった──。 安藤麻らの活躍が期待されるスキー・アルペン競技。デサントは、イルカの皮膚からヒントを得た、表面に縦の溝が入った「ドルフィンスキン」と呼ばれる空気抵抗を抑えたレーシングジャケットの製作を担当している。同社のPR推進課はこう説明する。「空気抵抗の削減も重要ですが、天候や気温、ゲレンデの状態により選手はターンの仕方や姿勢を調整して滑ります。データ上の数値の良し悪しだけでなく、選手の動きやすさやウェアとの相性も重要です。縫製には技術力が求められるため、日本選手分は国内の自社工場で縫製を行なっています」 コロナ禍でのサポートにぬかりはない。「通常はウェアの修理や選手の直前の体形変化にすぐに対応できるよう担当者がミシンを持って現地入りしているが、今回はコロナ対応で制限が厳しく同行できません。北京の自社工場と連携し、できる限りの対応をする予定です」(同前) 2020~2021年シーズンの出場3大会すべてで優勝を飾った戸塚優斗、スケートボードと二刀流の平野歩夢が出場するスノーボード・ハーフパイプのオフィシャルウェアはヨネックスが担当している。日本の複数のスポーツメーカーにとって、冬季五輪は“腕の見せどころ”なのだ。 大阪・守口市に本社がある「マテリアルスポーツ」は、「ID one」のブランドで、人工のコブの急斜面を滑走するフリースタイルスキーのモーグルで使うモーグル板を製造。開幕してすぐに本番を迎えた堀島行真、「上村愛子二世」といわれる川村あんりなど、北京五輪代表の男女8選手のうち7選手が同社の板を使っている。 元々ゴーグルの販売代理店だったが、2000年に藤本誠社長が上村愛子にモーグル板を提供するためにゼロから立ち上げたブランドで、エッジに刻みを入れてしなるクラックドエッジを採用し、理想的な形状やバランスで瞬く間にトップブランドになった。 開発担当の社員のひとりはコロナ禍の影響をこう振り返る。「今までなら五輪や国際大会に社長が帯同していましたが、今回はコロナ禍で誰も現地に行っていません。W杯を転戦していた選手が隔離期間の関係で帰国できなかったので、どうやって板を渡せばいいのか困惑しました。全日本スキー連盟を通じて各メーカーから荷物を集めて現地に持ち込んでもらいました」※週刊ポスト2022年2月18・25日号
2022.02.08 11:00
週刊ポスト
小林陵侑の金メダルを支えた「スーツ」の秘密とは(dpa/時事通信フォト)
小林陵侑らスキージャンプ日本代表を支えるミズノの「スーツ調整」職人の思い
 北京五輪では、2018年の平昌五輪のメダル13個(金4、銀5、銅4)以上を狙う日本代表。その目標を現実のものとするためには、選手の能力だけではなく世界に誇る「日本の技術」が欠かせない。小林陵侑が今大会における日本人選手の金メダル1号を獲得したスキージャンプやこれからメダルラッシュが期待されるスピードスケートは、日の丸メーカーが選手をサポートしてきた。スポーツメーカー関係者がこう語る。「冬季五輪はすべてがギアのスポーツ。夏季五輪も厚底シューズや高速水着が話題になりましたが、冬季は夏季よりその要素が強くなります。用具の性能が競技結果に大きく影響するため、アスリートを支える用具職人たちは、繊細な作業で微調整を繰り返しているのです。 ウェアも重要な用具のひとつ。例えばスピードスケートはいかに空気抵抗を抑えられるかがタイムに影響するし、浮揚力を利用するスキージャンプはスーツの大きさが飛距離に大きく影響する。そのためにレギュレーションが厳しく、やはり職人技での調整が必要になります」 選手と二人三脚でメダル獲得を狙う日本企業の地道な努力を紹介していこう。 冬季五輪出場選手に用具を提供するメーカーの中でも特に目立つのがミズノだ。五輪3連覇が期待される羽生結弦らのフィギュアスケートをはじめ、スピードスケート、ショートトラック、スキージャンプ、ノルディック複合、クロスカントリー、カーリングの7競技をサポートする。冬季五輪の種目はマイナースポーツが多いため、競技人口が少なく市場規模も小さくなる。それを長年にわたって支えてきたのがミズノなのだ。 小林陵侑のノーマルヒルの金メダルで幕を開け、大会後半に向けてはラージヒルや団体でメダル獲得を狙うスキージャンプも、選手たちが着用するジャンプスーツの開発に工夫が重ねられた。担当する尾形優也氏(24)はミズノ入社2年目の元ノルディック複合の選手。入社直後の昨シーズンからW杯で海外を転戦する選手に同行し、選手の体型に合わせてスーツの調整を行なってきた。「ジャンプスーツのルールはとても細かくシビアで、違反となれば即失格となる。そのルールを熟知し、選手の体型に合わせながらも不利にならないように“攻める気持ち”でスーツを調整しています。元選手だからこそ持ち得る感覚が活かせればと思っています」(尾形氏) 女子スピードスケートのエースで複数メダル獲得が期待される高木美帆や小平奈緒らが着用するスーツにも開発に至る数々の工夫があった。ミズノのコーポレートコミュニケーション室の広報担当者がこう明かす。「前回の五輪直後に開発を始め、約3年半かけて空気抵抗を約3%抑えられるレーシングスーツを完成させました。今回から、スポーツ庁の委託事業として日本スポーツ振興センターにも開発に加わってもらいました。 競技場で想定される風を再現した風洞実験を重ね、その実験で最も空気抵抗が小さいとされた生地でも、選手が実際に着用するとフィーリングが合わず、さらに実寸大人形模型による実験を繰り返すことが必要でした。実験で出た数値と選手のフィーリングの両方が良いものにたどり着くのに多くの時間を要しました」現地に同行できないから枚数を多く用意 コロナ禍ならではの苦労もある。 人数制限があるため調整するスタッフが試合に同行できないケースが多く、昨年2月の女子スキージャンプW杯ではスーツの規定違反が続出。高梨沙羅も予選をトップ通過したが、本戦で着た同じスーツの太もも部分が規定より少し大きかったため失格となった。五輪で同じ失敗は繰り返せない。ミズノ関係者が舞台裏を明かす。「これまではスケートスーツの縫製担当者やジャンプスーツの調整を行なう担当者が五輪開催地に同行していましたが、今回はそれができないため、国内で最終仕上げを行ないました。スケートスーツは転倒などで破れてしまうこともあるため、いつもより多めの枚数を納品して対応しています。 スケートスーツの仕上げにあたっては、実際に選手に着用してもらい、滑った直後の声を聞くことが大事なため、どうしても直接やり取りする必要が生じます。その際は人数を2人までに制限しました。また長野市内に設置したスーツの縫製、修理部屋でのフィッティングの際は選手とスタッフの2人以外は作業部屋から離れるなど、選手との接触については細心の注意を払いました」※週刊ポスト2022年2月18・25日号
2022.02.07 16:00
週刊ポスト
HOKUO池袋西口店は、JR池袋駅西口から徒歩2分。同店はドンクに譲渡される店舗ではないため、今後が注目される
小田急電鉄が32年続けたパン屋『HOKUO』を事業譲渡する事情
 小田急電鉄の駅や駅近にある、駅利用のついでに買ってゆくイメージの強いパン屋「HOKUO」が、2022年2月末をもって全店舗の営業を終了、うち10店舗を日本で初めて本格的なフランスパン販売をしたことで知られるドンクへ事業譲渡されると発表されたのが2021年12月。コロナ禍でもパンブームは続いていると言われているのに、なぜ小田急電鉄は30年以上親しまれてきたパン屋を手放すことにしたのか。ライターの小川裕夫氏が、小田急がHOKUO営業終了を決めた理由を聞いた。 * * * 昨年末、小田急電鉄は人気の高いロマンスカー50000形VSEの引退を発表。”白いロマンスカー”で親しまれたVSEは、今年3月で定期運行から退く。そして、2023年秋頃に完全に姿を消す。 小田急電鉄CSR・広報部の担当者は、引退の理由を「VSEの車体はアルミ合金押出形材でダブルスキンという特殊な構造です。古い車両は部品の調達などが困難ですが、特にVSEは部品の調達のみならず修理にも手間がかかってしまうことが引退の理由です」と説明する。 VSEは2005年に登場。まだ17年しか活躍していない。一般的に鉄道車両は30年ほど使用される。それだけに、VSEの早すぎる引退は小田急ユーザーや鉄道ファンを騒然とさせた。公式には特殊な構造が理由に挙げられているが、利用者の激減による経営環境の激変も影響を及ぼしたであろう。 売上減を受け、鉄道事業者が経営体質をスリム化するために無駄の削減に取り組む。今春のダイヤ改正で各社は大幅な減便を発表しているが、人件費や燃料代などの抑制が目的だろう。しかし、それにも限界がある。鉄道各社は所有財産の整理を始めており、これまでシナジー効果を生むとされてきた事業部門や子会社・系列会社にもメスを入れ始めた。「コロナ禍により、小田急のベーカリーショップ『HOKUO』は大幅に売り上げを減少させています。コンビニとの競争も激しく、東京工場や不採算店舗の閉鎖といった構造改革にも着手しました。それでも、コロナが落ち着く様子はありません。今後も事業環境が好転する見込みは立ちません。それらの状況を踏まえ、39店舗のうち10店舗をパン製造・レストラン経営の老舗であるドンクへと譲渡することを決定しました。残り29店舗の今後は、現段階で未定です」(同) 家庭向けの需要が高まり高級食パンブームが起きるなど、パンブームはコロナ禍でも堅調を保っていた。ところが、同じパンでも惣菜パンや菓子パンなどの消費は落ち込んでいる。外出先やオフィスといった、主に昼食や間食で食べられていた消費分が、在宅勤務の増加などで消失したからだろう。HOKUOは外出時の需要に応えていた部分が大きかったと考えられる。 小田急の系列には箱根登山鉄道や江ノ島電鉄といった鉄道事業者が連なるほか、鉄道以外の交通事業でも国内一のネットワークともいわれる神奈川中央交通といったバス会社を擁している。 これら多くの企業はグループ会社という位置付け。小田急グループには小売業を主業とする会社もいくつかある。例えば百貨店事業を手がける小田急百貨店、スーパーマーケット事業を手がける小田急商事などが、それにあたる。HOKUOを運営する北欧トーキョーは小田急の100パーセント子会社となっている。「HOKUOが小田急の100パーセント子会社である理由は、その成り立ちにあります。もともとHOKUOは北海道のベーカリー店でした。小田急は暖簾分けという形で事業を継承してスタートしたのです。それが現在まで続いていたのです」(同) コロナ禍によりHOKUOの売上が減少しているとはいえ、長らく小田急のベーカリーショップとして親しまれてきたHOKUOを手放すことは、相当に熟考を要したことだろう。小田急なら、グループ企業や関連企業に事業を譲渡することだって一案として考えられたはずだ。しかし、小田急はグループ外のドンクへ事業譲渡することを選択。そうした考えに至った理由は、主に3つあると担当者は説明する。「まず、なによりもドンクは1906年創業というベーカリーの老舗であることです。そのブランド力は大変素晴らしいものがあります。そして、譲渡するHOKUOの従業員の一定数をそのまま受け入れるなどの雇用の維持を約束してくれたことも大きな理由になっています。さらに、事業譲渡によりドンクとの関係が強化されます。それによって、小田急が今後に新規に開発する商業施設内への出店が期待できます。商業施設に魅力的な店を揃えることは集客的にも大きく、沿線価値の向上につながると判断しました」(同) 鉄道事業者とベーカリーショップの協業が、沿線価値の向上につながると聞いてもピンとこないかもしれない。しかし、過去には東急電鉄がベーカリーショップ「サンジェルマン」を子会社にしていた。また、現在も阪急電鉄は「阪急ベーカリー」を系列会社にしている。 東急沿線は東京圏で、阪急沿線は大阪圏で絶大なブランド力を発揮している。東急も阪急も、その沿線は住みたい街ランキングの常連だ。たかがパン屋と思われるかもしれないが、毎日のように口にするパンは、まさに沿線文化のバロメーターといえるのかもしれない。それだけに、老舗のブランド力が沿線価値を高めるとの期待が膨らむことは不思議ではない。 このように、鉄道とベーカリーショップは意外にも強固な関係を築いてきた。それは目に見えづらいながらも、沿線のブランド化という効果につながっていた。 小田急がHOKUOをドンクに事業譲渡しても、ドンクののれんにより沿線のブランド価値を保つことはできるのかもしれない。そこは、工夫やどういった連携をするのかといった今後の取り組みによるだろう。 とはいえ、鉄道各社はコロナ禍で経営的な余裕を失っていることも事実だ。これまでだったら赤字の事業、赤字のグループ会社でもシナジー効果があるとして大目に見られてきた。それが、コロナでシビアになっているのだ。 そうした状況は小田急に限った話ではなく、鉄道業界全体に忍び寄る。コロナ禍が長引けば、今後も鉄道各社は事業部門や子会社・系列会社の縮減・譲渡・廃止を打ち出していくだろう。 大逆風の中、鉄道事業者はこれまでのような魅力ある沿線を創出できるのか?
2022.02.07 07:00
NEWSポストセブン
『鬼滅の刃』の人気キャラが機体にズラリ!
ANAに聞いた 『鬼滅の刃』ジェットで「推しキャラ」の近くに座る方法
 日本映画史の興行収入を塗り替えたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。全世界での興行収入は約517億円にのぼり、全世界累計来場者数は4135万人に及ぶ大ヒットとなり、昨年12月からはテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』がスタートし、高視聴率を記録している。原作漫画の連載が完結してからも、様々なかたちでファンの目に触れる機会のある同作だが、今度は「旅客機」にキャラクターたちの姿が描かれることとなり、ファンたちの間で大きな話題を呼んでいる。 ANAは1月31日より、「『鬼滅の刃』じぇっと -壱-」の国内線定期運航を開始した。『鬼滅の刃』のメインキャラクターである炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助をプリントしたラッピング機体が大空を飛び交う。 機体のラッピングだけではなく、機内で提供される飲み物には、鬼滅の刃とANAがコラボした限定デザインの紙コップが使用され、機内ビデオではテレビアニメ『「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編』の全26話が楽しめるという。また、キャラクターによるスペシャルアナウンスも実施される。ファンの心をくすぐるサービスの数々に、20代女性ファンは「早く乗ってみたい」としたうえで、こう続ける。「どうせ乗るなら、ちょうど推しのキャラが描かれた場所の内側の席がいいです。機内から見えないのはもちろん分かっていますけど、せっかくなら“推しのキャラと隣り合う席”で旅したいじゃないですか。私は『善逸推し』なので、型を構えているときの善逸の近くに座りたくて、それが何番の座席になるのか教えてほしいけど、公式情報じゃ出てないみたいなんです」 公開された機体を見ると、この女性が推す我妻善逸のデカール(絵)が配されているのは機体の左側。問題はそれが何列目にあたるかということだが、ANA関係者は「なかなかはっきり断定するのは難しいが……」としながらもこう話す。「ラッピング機体の画像(別掲)とボーイング767-300ERにおける非常口の位置から類推すると、恐らく5〜18列目付近にかけて、炭治郎・禰豆子・善逸・伊之助の順にキャラの顔のアップが配置され、翼の上となるあたりを挟んで28〜37列目付近に、善逸・禰豆子・炭治郎の少し引いた絵柄が配置されているといえます。『型を構えているときの善逸』であれば、窓際のA-28~A-30のあたりがぴったりになるのではないか」 この関係者の指摘するように、別掲の機体の外観と機内の座席配置図から各キャラの位置を推し量っていくということになりそうだ。そうして割り出したうえで、「推しキャラ」の近くに座るために予約時から座席指定をするにはどうすればいいのか。ANA広報部は次のように説明する。「鬼滅の刃のラッピング機体に限らず、一般的なお話ではありますが、航空券をご購入いただく際に事前座席指定というものが可能です。オンラインでの予約やアプリなどを使用すれば、ご自身で座席を指定して予約することができます。空席があれば、自分が好きなキャラクターの近くに座って、機内から“推しキャラ”にそっと語りかけてもらうということも可能かもしれません」 “鬼滅ジェット”の定期便初便は1月31日の7時25分発、羽田発・福岡行のANA241便となった。どの便が鬼滅の機体となるかはANA特設サイトで確認できるという。推しキャラとの空の旅に期待が膨らむ。
2022.02.01 16:00
NEWSポストセブン
日本テレビは「ヤングディレクター」というADの新呼称を発表した(イメージ、時事通信フォト)
テレビ局がADの呼称変更 深刻な人手不足解消狙うも焼け石に水が実態か 
 テレビ業界におけるアシスタントディレクター、ADという略称の方が知られている肩書きは、演出補佐などと呼ばれることもある職種だ。だが一般的には、演出をする人というよりも、バラエティ番組でたびたび出演者にからかわれる下働きのイメージが強いだろう。その「AD」という呼称をテレビ各局が廃止する動きが相次いでいる。ライターの宮添優氏が、呼称変更の本当の目的を探った。 * * *「ADといえば、一番の下っ端、半人前ってイメージですかね。数年前からそれぞれの部署で、ADの呼称を変えようという動きはありましたが、日テレさんは社としてやるんだと。まあ、ふーんという感じですが」 日本テレビを始め、テレビ各局で「AD」という呼称を廃止する動きが出ているという報道を見て、日テレほか都内の複数キー局に出入りし、バラエティ番組制作を担当しているフリーディレクター・小島誠氏(仮名・40代)はフフン、と鼻を鳴らす。「日テレではADでなく『ヤングディレクター』とか、報道だと『ニュースアシスタント』などと呼ぶようですが、仕事内容が変わるわけじゃない。相変わらずの激務薄給。どの局でも似たようなもんで、呼び方だけ変えられてもね……と、呼び名が変わるAD本人たちは冷めた感じ。それに、年を追うごとにADの数が少なくなってきて、本来であれば20代後半で中堅のはずなのに、いまだにADから抜けられない人もいる。ADという呼称をなくすことが話題になっていますが、現実には、もうADの存在自体が希少なわけで」(小島さん) ネット上には「名前を変えるだけ」「本質は何も変わらない」という指摘が相次いでいるが、そもそもADのなり手は減少傾向にあった。会社に泊まり込むほど忙しく、しかし給与は安く、上司には怒鳴り散らされる悪質な労働環境と待遇のイメージが強いからだ。小島さんいわく、「ADの呼称変更」は、負のイメージを払拭して志望者不足解消を狙った取り組みだという。また、ある民放局の情報番組プロデューサー・佐々木直也氏(仮名・40代)も、同様の見方を示す。「10年くらい前までは、テレビ局の仕事はまだ人気だった気がします。ADは激務で辞める奴も多いですが、入ってくる人間もたくさんいた。でも、最近はテレビのブランド価値も低下し、ADから入って頑張ろうという若手も減ったんです。だから現場では、ADの負担を減らしたり試行錯誤したんですが、やはり人が来ない。今いるADに甘くなりすぎて、中堅ディレクターが疲労し、内部がぐちゃぐちゃになったという部署もある」(佐々木氏) そして、安くて簡単にコマ扱いできるAD、変えはいくらでもいるというAD、なんていう弱い立場の存在がないと制作現場がまわらない実態があった、と佐々木氏は正直に吐露する。もちろん、そんな現場の雰囲気は、AD本人が一番理解している。都内の民放キー局で情報番組を担当する元ADで、現在はAP(アシスタントプロデューサー)を務める丸井渚さん(仮名・30代)が絶望感を滲ませる。「ADの給与は手取り15万円程度でボーナスもありませんから、都内に住むにしても、局の近くには住めません。多忙だから、自宅に帰る余裕もなくなり会社に寝泊まりし、食事はほとんどコンビニ弁当。昔みたいに経費で食事ができるなんてこともなくなりました。昔は一番組に何十人もいたADですが、薄給激務に加え、一人のADが何人ものディレクターやプロデューサーの仕事をこなさなければならず、以前にもまして辞めていきます」(丸井さん) そんな待遇でもかつては次から次へと志望者がやってきたのは、しばらく我慢をすれば成り上がれる可能性があったからだ。苦楽をともにして親しくなった若手芸人が売れっ子になり、それとともにかつてのADも番組作りなどの権限を持てる地位になり、仲間と制作会社を立ち上げて活躍する人もいた。今でもそんな未来への希望を抱いていないわけではないだろうが、仕事を始めてしばらくすると、過去の成功パターンを追えるような状況にないと思わせられるらしい。 特に丸井さんが以前と違うと感じているのは、若いAD達が「将来が見えないのでやめる」といって、職場ではなくテレビ業界自体を去っていくパターンが増えたということだ。「若手が減り、中堅以上が増えると、番組構成に若手の意見がなかなか反映されにくいです。局によっては、前途有望な若者を育てようという取り組みもしていますが、はっきり言って焼け石に水状態。テレビ局で働く若いAD自身が『テレビは中高年向けでつまらない』とか、そもそも『テレビは見ないので部屋にない』というADさえいますから」(丸井さん) 丸井さんは他にも、ADになりたい若者も少なければ、現役のADがディレクターになりづらい、という実情についても指摘をする。中堅以上のディレクターが多すぎて、新人ディレクターの席が開かないという、どの会社にも存在する「高齢化問題」だ。中堅のディレクターの上世代も現役で昇進しづらく、かつ決して台所事情のよくない業界となれば、どのポジションにいても、若手だというだけでデメリットを感じるしかない。だから、業界で働く若者ほど「将来がない」と強く感じるのだという。 前出の佐々木氏は、この「呼称変更」を大々的に発表してくるあたりが、テレビ局が若い人々から「無視をされ始めている」証左だと断言する。「現場からは人が減らされ、社員は非正規社員に置き換わり、制作費もギャラも減らされているのに、DX(デジタルトランスフォーメーション)だSDGsだとあれこれ要求され仕事は増える一方。ADまでいなくなって、現場はさらに困窮して、だから番組のコンテンツとしてのクオリティも下がる。若い優秀なADがやってきても、こうした現場に幻滅し『これならYouTubeで個人で発信した方がいい』といってやめていく。若手にも時間とチャンスとお金を与えない限り、このまま無視され続けるのではという危機感はあります」(佐々木さん) たかだかAD、だがされどAD。かつて景気が良かった頃、そして今ほど世の中に「コンテンツ」が溢れていなかったからこそ成立したもの、それがテレビ局のビジネスモデルだった。それらが、音を立てて崩壊する中でのADの呼称変更で「どうにかなる」とテレビ局首脳が考えるのだとしたら……。 現場ADの本音はなにより、給与など「待遇を改善せよ」ということに他ならないはずだが、賃金アップや休暇増よりも先に、テレビ局経営陣が提示したのは「呼称変更」。若い局員やスタッフの減少、AD不足はダイレクトにテレビ局の存亡に関わってくる問題だとしても、両者の思考の差が埋まる頃には、テレビのようなメディアが存在し続けているのだろうか。
2022.01.31 16:00
NEWSポストセブン
反ワクチンというテーマはPVを稼げる(イメージ、AA/時事通信フォト)
「ワクチンは危険」陰謀論を唱えて稼ぐまとめサイト運営者の不埒な言い分
 アフィリエイトブログは言われるほど儲からない。情報商材ビジネスを喧伝する人たちに誘われて副収入を得ようとしたものの、教材代金で赤字となるのがかつては普通だった。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって世の中に広がる不安を利して稼ぐ不埒な輩がいる。ライターの森鷹久氏が、ブログをマイナーチェンジしたことで安定した高収益を確保できていると嘯く、まとめサイト運営者に話を聞いた。 * * * ネット上に拡散された新型コロナウイルスに関するデマや偽情報、いわゆる「陰謀論」と呼ばれる類の情報は極めて限定された数アカウントがその「発信源」となっている。そんな報告が、日米の研究者や識者の分析から明らかになっているが、こうした実情を逆手に取り、金儲けに勤しむ人々が存在する。 筆者は以前、とある「右派系まとめサイト」の匿名管理人を割り出し、電話取材して記事にしたことがある。管理人は北関東在住の30代男性・武田雄二さん。農家兼コンビニ経営という立場だったが、将来への不安などからネット上で販売されていた「情報商材」を購入し、その商材通りに「まとめサイト」を運営していたのだった。 取材や執筆の経験もない武田さんは「金稼ぎ」を目的に、適当な知見で集めたネット上の真偽不明の情報や書き込みをまとめて記事にし、ある程度の利益を上げている、とのことだった。そして、一番儲かるのが「右派向け」のまとめサイトであり、他に「左派向け」のまとめサイトも運営している実態を明かしていた。 取材に対し、一貫して悪びれたり、謝罪することはなく「あくまで金儲けのため」と言い張っていた武田さんだが、実は今「陰謀論」に特化したまとめサイトを運営している。「陰謀論まとめが一番コスパがいいですね。右派左派向けのように、政治的な整合性を気にする必要もないし、感染者が増えれば増えるほどPV(ページビュー)が上がる。一昨年の秋頃から初めて、過去最高の利益が出ている」(武田さん) コスパがよいという意味であれば、右派左派向けのまとめサイト運営においても、似たようなことを言っていた。それを上回るというのか。今は安倍より反ワクチンがPVを稼ぐ そもそも、右派向け、そして左派向けといったまとめサイト運営について、記事を公開しているだけで賛成の人も反対の人も、どちらもがまとめサイトを訪れる、と話していた武田さん。たとえば、左派向けの論調とされる「朝日新聞」を、右派を自認する人がわざわざ買ってまで読むことはないし、逆に右派向けとされる「産経新聞」を、左派を自認する人が買うことも極めて稀であろう。ところが、これが有料の紙面ではなく、無料で読めるネット記事であれば話が違ってくる。 無料で読めるのだから「敵状視察」も簡単、とばかりに、右派の人が朝日新聞のウェブサイトを、そして左派の人が産経新聞のウェブサイトを訪れることも多くなる。まとめサイトも同様で、記事内容に賛成の人も反対の人も、結局はサイトを訪れるから、アクセス数は増え、収入も増えるという格好なのだ。そして陰謀論についても同様のことが言える、と武田さんは断言する。「コロナは風邪、ワクチンは危ないと言った論調の記事は、記事内容に反対の人も賛成の人も見に来る。うちのサイトをデタラメのサイトだ、と指摘してくる人もいますが、そうした指摘によって炎上すれば、さらに見に来る人が増える。コロナ関連は政治ネタよりも身近に感じる人が多く、収益は右肩あがり。罪悪感? ないですよ。結局、誰かの意見をまとめているだけ。マスコミだってそうじゃないですか」(武田さん) 実際に武田さんがどうやって記事を書いているのかといえば、政治ネタを扱っていた時と同様、他人がSNSやブログに上げた記事や書き込みをコピぺし、それらに対する肯定的なSNSの反応をいくつか転載してきてサイトに貼り付けるだけ。冒頭で紹介した通り、陰謀論の根源になり得る日本語圏向けのアカウントは少なく、転載元をあれこれ調べる手間もない。さらに左派向けと右派向けを分けてつくる必要もないので、随分と手間がかからずにコスパが良いというわけだ。 コロナ情報まとめサイト向けにウォッチしているのは、コロナは単なる風邪だと主張する政治団体の代表や、ワクチンに否定的な医師などの医療従事者の投稿で、定期的な観測先は限られているそうだ。そして、燃えそう(炎上しそう)な書き込みがあればすぐさま記事作成に取り掛かる。「まとめサイトへの投稿は2~3日に一本程度と多くありませんが、PV数は増えています。政治ネタのまとめサイトは、安倍(晋三・元首相)が辞任して以降、アクセスは減りました。当時は『安倍』と書いていれば、右派の人も左派の人も見にきてくれました。今は安倍よりコロナは風邪、反ワクチンがPVを稼ぎます」(武田さん) 武田さんの書いた記事をいくつか確認したが、いずれも根拠が薄い内容のものばかり。識者や専門家とされる人々の見解もちらほら散見されるが、やはり「コロナは風邪」そして「ワクチンは危険」というものばかり。そして、右派左派まとめブログが盛況だったときは論争が絶えなかったものだが、陰謀論まとめブログをめぐっても全く同様のことが起きている実態は、特に興味深い現象だ。 たとえば、医学的な知識がゼロのユーザーが自身のSNS上で「ワクチンは危険」とSNS上で主張し、著書なども執筆している実在する医者のコメントを紹介する。このコメント文をよく読むと、危険であるという言葉には根拠がなく、さらに自著を販売したり、有料イベント、有料サロンなどの会員を獲得するための「宣伝行為」に他ならないと容易に類推できる。ところが、ハナから「ワクチンは危険なものだ」という前提で閲覧する人々にとっては、自身のぼんやりとした不安を補強する形で「やっぱり危険なんだ」と感じる衝撃は大きく、SNS上でも反響のリプライが多数、つけられる。 厄介なのはこの先だ。危険であることにばかり注目する人によるSNSへの投稿は、同調した人たちによって形成された一連のリプライ、また元コメントを発信した医者によって「こんなに賛同を得ている」などと紹介されさらに拡散される。すると「このように多くの人に肯定されている」ことがクローズアップされ、真偽の程を確認することよりも、賛同者が多い(ように見えることによって)、真実らしいと受け止める人が増える。Twitterでは、一つのツイートに対して返信ができるアカウントを制限する機能を、近年になって実装した。これは、特に有名人ユーザーなどに罵詈雑言が寄せられるなどのケースが相次いだり、多くのユーザーが不快と感じるシーンが増えたことに対する処置ではあろうが「肯定」しかない空間が生み出されるようなことになれば、どうなるのだろうか。「嘘も100回いえば真実になる」とはナチス・ドイツのプロパガンダを担当したゲッベルスの言葉だと言われているが、それを目の前で見せられているようなものだ。嘘や真偽不明の情報であっても、その内容を肯定する人々達の間でのみ「ワクチンは危険」という答えありきの議論(のようなもの)が展開され、いつしか「事実」として認定される。無責任な人が増えるほど、陰謀論は伸びる「フィルターバブル」とか「エコーチェンバー現象」とメディアでも盛んに言われるようになったが、それは知りたいものしか知りたくない、自分の願望に沿った見解だけが欲しい、そんな人々が増えているという時代の背景に他ならない。それが陰謀論であっても望みの内容であれば積極的に受け取る行動をとるため、テーマにした「まとめサイト」を多くのネットユーザーが訪れている、ということなのだ。だから、武田さんの懐も温まる一方だ。「陰謀論系の本もかなり売れているみたいで、ネット通販サイトのリンクを貼っていれば、それだけで幾らかアフィリエイト収入も入ってくる。あの手の本は書店にはあまり置かれていないですからね」(武田さん) コロナ禍の初期に「陰謀論」系の書籍が書店に平積みされているところを筆者は何度も確認をしている。多くの国民がコロナに対する危機感を抱いていて、書店員もそれなりの売れ行きがあることを認めていたが、最近は書店側もさすがに看過できないのか、陰謀論系の書籍を扱わないか、置いていても書棚の隅にコッソリ、というパターンもあるという。なにより、陰謀論系の書籍は読者にとっても実在の書店で買い求めるのは抵抗があるのか、ネットで購入されるのが常、と話していたことを思い出す。そういえば、収入はどうなっているのか。「以前よりは収益が出ていますよ。似たような傾向のサイトをいくつか持っていればいいだけなので。一定の期間分析して、ある程度の傾向がわかったところでサイトをオープンさせて、また分析しての繰り返しです」(武田さん) 武田さんは、以前取材した時よりも落ち着いているようにも感じられた。当時は、決して悪びれる様子は見せなかったが、正体を暴こうとする筆者に対して攻撃的だった。今の武田さんにはそれがない。淡々と「仕事」をこなしている、そんな雰囲気さえある。農家兼コンビニ経営という立場だったが、今ではコンビニ経営は家族に任せ「陰謀論系まとめサイト」運営が事業として成立してしまっているのかもしれない。 武田さんは、政治向け、そして陰謀論系まとめサイトの運営を通して、次のようなことを感じていると話す。「政治ネタでもコロナネタでも、政治家やマスコミ、公務員や先生など、責任があるゆえになかなか物事を決められない人たちを、無責任な人々が攻撃する、というパターンがは変わらないどころか、エスカレートしていってます。そうした人たちによる争いをみた人たちが、心の中でどう思ってるか、どう思いたいかということを考えれば、人が注目するポイントがわかる気がしている。無責任な人、言説が増えるほど、陰謀論ネタが伸びているんですから」(武田さん) 有責任者に対する無責任者の執拗な攻撃、思い込みに端を発するエビデンスなき反論、こうした醜悪な実態を拡大している勢力の一端に、武田さんの陰謀論まとめブログはある。コスパがよい副業としてよい思いをさせてもらっていると言いながら、金を儲けさせてもらっているはずのネットユーザーに対しての武田さんの見方は冷酷だ。「世の中が分断されているって言いますけど、自分の頭で物事を考えるか、そうでないかの差だと思いますよ。私がやっていることは犯罪でもないし、世の中で起きていることをただまとめているだけ。何度も言いますけど、オタクらマスコミだって同じことをやって金を儲けているわけで、僕らだけが悪者にされちゃたまんないですよ。そういえば、あなた(筆者)もどこからか金をもらって書いてることないんですか? テレビも新聞も絶対やってる、そっちを書かないって卑怯ですよ」(武田さん) 公正な報道などどこにもなく、どの記事も一部の利害関係者から報酬をもらって偏ったものを報じているのではないかという、あまりにも極端な言い分だ。その勝手な言い分はいったん置いておいておくが、陰謀論まとめブログというのは火事場泥棒が火をつけ回って大騒ぎしているようなものではないか、そう筆者が指摘すると、武田さんはそれ以上喋ることはなかった。「オミクロン株」を巡って、単なる風邪だとか依然として危険であるとか、世論はまた二分化されつつある。しばらくは、武田さんのような人々にとって「濡れ手で粟」の状態が続くのか。
2022.01.30 16:00
NEWSポストセブン
2022年の成人式に集う新成人たち(picturedesk.com/時事通信フォト)
若者に増える消費者トラブル被害 成年年齢引き下げで18・19歳は特に注意
 2022年4月より、成年年齢が満18歳に引き下げられる。これまでは親権者などの同意がなければ携帯電話や金融商品の購入などが不可能だった18歳、19歳の若者が、経験と知識の乏しさにつけ込まれ、消費者トラブルが増加することが懸念されている。「この年代は、SNSやネット絡みでのトラブルが多いのが特徴」という。ネット関連のトラブル被害に詳しい、成蹊大学客員教授でITジャーナリストの高橋暁子さんに、なぜ成年に達したばかりの若者がトラブルに遭いやすいのかについて聞いた。 * * * 4月より、成年年齢が満18歳に引き下げられる。これにより、高校生なども消費者トラブルに巻き込まれる可能性が高くなると注意喚起されていることをご存知だろうか。 Instagramなどを見ると、学生をターゲットとした「大学生が月100万円稼いだ方法」「コーヒー飲みながら月200万円稼ぐ大学生」などの甘い言葉があふれている。札束やブランドバッグなどの写真が使われていることもある。このような投稿を魅力的に思い、実際に手を出してしまう学生は少なくない。 学生の間では、SNSやネット絡みの消費者トラブルは普通に起きることと受け止められている。筆者が教員をする大学でも、「儲け話で数十万円騙されたことがある」「友達が情報商材の宣伝をInstagramに投稿していた」などと言っていた受講生が何人もいた。「友達が副業詐欺に引っかかっているがどうしたらいいか」という相談が寄せられたこともある。 そもそも、成人になりたての若者は、未成年の頃より消費者トラブルが大幅に増える。全国の消費生活センターに寄せられた消費生活相談件数は、未成年(18、19歳)の相談件数に比べて、成人になりたての若者(20~24歳)は1.5倍に増えている(国民生活センター調べ)。 成人になりたての若者は、契約に対する知識や経験に乏しく、内容をよくわからないまま契約してしまうことが多い。一人暮らしを始めたばかりなど、周囲に相談できる相手がいないこともある。経験が乏しく警戒心もないのに、成人だからと自分だけの判断でクレジットカードが作れ、ローンや借金も作れるこの年齢の若者は、業者や悪意ある大人に狙われがちな要注意の年齢なのだ。 未成年者が通販の定期購入やエステ、投資などの契約を結んでも、親権者の同意がなければ「未成年者契約取消権」により、原則として取り消すことができる。ところが成人になった瞬間から自分一人で契約が成り立ち、親が承諾していないからと取り消すことができなくなる。つまり、令和4年4月1日に成年年齢が18歳に引き下げられることで、20歳よりも契約についての知識や経験が乏しい18、19歳の消費者トラブルが増えることが危惧されているのだ。SNSのうまい儲け話・投資話に要注意 18歳以上の若者達は、実際にどんな消費者トラブルに見舞われているのか。いまも成年である「20~24歳」と、4月から成年とされる「18・19歳」が遭遇しているトラブルの違いはあるのか見てみよう。 現状、消費生活相談の傾向をみると「18・19歳」「20~24歳」とも、まず、ダイエットサプリメントやバストアップサプリメント、除毛剤などを商材として最初だけ格安、または無料とうたい、2回めから高額になったり、半年間解約できないなどの詐欺的な定期購入商法がある。そして、アクセサリーや洋服などの詐欺・模倣品サイト、アダルト情報サイトや出会い系サイトなど、インターネット通販トラブルが目立つ。「20~24歳」の相談内容を詳しくみると、「18・19歳」に比べて、エステティックサービスや医療脱毛、包茎手術等の美容医療のトラブルが増える。それだけでなく、情報商材、オンラインカジノ、暗号資産(仮想通貨)、投資学習用USBメモリーなどの儲け話のトラブルが多くなるという特徴がある。見た目をととのえたいのは、若者ならば当然の欲求だろうが、儲けることに執着するのはなぜなのだろうか。 20~24歳というと、大学や専門学校など成年したとはいえ学生も多い。彼らは不景気ななかで育ってきた経済的に恵まれているとは言いがたい世代で、漠然と将来の金銭的不安を常に抱いている。アルバイト代を遊興費ではなく生活費にしている学生も珍しくない。そんな経済状態にもともとあったのが、コロナ禍でバイトのシフトなども減らされ、保護者の収入が減って仕送りが減るケースが相次いでおり、苦しい生活を強いられている。100円ショップなどで上手に買い物する、フリマアプリを活用してお得にオシャレするなど、もともとコスパがいいことが好きな世代でもあり、投資や情報商材などで儲けたいという意識も強く、このような誘いにのりやすいというわけだ。 トラブルのきっかけとなるのは、以前は学校や職場の友人、知人など、リアルの交友関係から勧誘されることが多かった。しかし最近は、インターネット・SNSの広告・書き込み等を見てみずから連絡をするケースや、SNSで知り合った人から誘われるケースが目立つ。知りたいことはすべてSNSで検索するこの年齢の学生たちは、SNSの投稿を安易に信じてしまい、SNSで知り合った相手を信じてしまうことが多いのだ。 実際、Twitterで「#儲けたい」「#高収入」などで検索して見つけた投稿から、怪しげな話に乗ってしまう例は多い。相手に「絶対に儲かるから」と言われて、お金がないと断ったが、「消費者金融で借りればいい。すぐに元はとれる」と言われ、消費者金融で数十万円借りてしまった学生がいた。そのお金で情報商材を購入したものの、まったく儲からず、結局借金だけが残ってしまったという。知識・経験不足で、うまい話に弱い若者たち 若者が消費者トラブルに遭いやすい理由はいくつかある。まず、知識・経験不足につけこまれて契約してしまう点だ。契約の内容をよく理解せず、或いはよく確認せずに署名・捺印してしまうことで、不利な契約を結ばされてしまうというわけだ。 契約書も作らず投資し、LINEでのみやり取りしていて、相手にアカウントを消して逃げられてしまった被害者もいた。「LINEでやり取りしてとても信頼できる人だと思ったから」というが、金銭が絡む契約は契約書を残す必要がある。 InstagramやTwitterでつながった後は、秘密裏にできるLINEかDMでのやり取りに引き込まれることが多い。LINEグループにもサクラが仕込まれており、投資に対して乗り気な発言ばかりしていたため、「心配になっているのは自分だけ。みんな大丈夫と思っているのだから大丈夫だろう」と思わされていたケースがあった。SNSの「エコーチェンバー現象」(狭いコミュニティで、同じ意見を見聞きし続けることによって、自分の意見が強化されること)を悪用すると、クロージングが容易になるというわけだ。 うまい話に弱いのも問題だ。おいしい話を理由なく教えてくれるわけがないのに、明らかに大きすぎるリターンの話に乗ってしまうケースが目立つ。世の中でどのようにお金が動くのか、なんとなく分かるようになった大人であれば、その話のおかしさにすぐに気付けるはずだが、学生は「自分だけ特別」と素直に信じてしまう。 若者たちは相手がSNSなどで顔出し名前出しで利用していると信頼性が高いと考えている。実際には実名だろうと匿名だろうと、その内容で判断すべきなのだが、形式だけで若者は判断しがちなので、そこにつけ込むため、ポジティブな雰囲気作りを担当するサクラ役のアカウントも顔出し名前だしで投稿する。そして、札束やブランド物の写真などを投稿していることで、実際に儲かっていると信じてしまう。 迷っている人に向けて契約させるための雰囲気作りもされる。たとえば「今日中なら特別に安く契約できる」などと言われたり、そもそも友達や先輩の紹介が発端だと、断ると言いづらくなる若者は多い。そうやって、断りにくい状況に追い込むのは若者を狙うグループがよくとる手口の一つだ。「お金がない」を理由に断ろうと考える若者も多い。ところが前述の学生の例のように、「すぐにもとが取れる」「分割なら負担が少ない」などと借金やローン、クレジットカード契約などを勧められる。若者は強く言われると押し切られてしまいがちだ。契約前に相談、契約後でも諦めない 20代前半までの若者は、年齢的には成年でも、消費者として見た場合は非常に危うい存在だ。周囲にそのような年齢の若者がいたら、注意して見守ってほしい。 大切なことは、魅力的な話があっても、契約する前に、保護者など信頼できる周囲の大人などに相談することだ。契約内容や相手についてインターネットで検索し、評判を調べるのもいいだろう。 SNSで知り合った相手も信用しすぎず、個人情報を送りすぎたり、免許証データなどを送ったりしないよう、念押ししておきたい。 特定商取引法では、訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引での契約や、特定継続的役務提供(エステティックや美容医療等)の契約では、クーリング・オフができる場合があるので、そのような知識を身につけておくことも必要だ。 契約によっては解約や取り消しができるものもあるので、契約後でも困ったり疑問がある場合は、消費者ホットライン(#188)に相談するよう伝えてあげてほしい。
2022.01.30 07:00
NEWSポストセブン
ホームの延伸工事が完了した舞浜駅は、東京ディズニーリゾートの玄関口(撮影:小川裕夫)
ディズニーの玄関口・JR舞浜駅が混雑緩和のためにとった裏技
 東京ディズニーリゾートの最寄り駅として知られるJR舞浜駅では、2022年1月29日始発から蘇我方面行きは東京寄りに、東京方面行きの電車は蘇我寄りへと停車位置が変わる。混雑のため入場制限がかかることも珍しくなかった舞浜駅の混雑緩和をねらって、ホームを約100メートル延伸したからだ。裏技のような今回のホーム延伸工事が混雑解消のために選ばれた背景をライターの小川裕夫氏がレポートする。 * * * 京葉線の舞浜駅は、東京ディズニーリゾートの玄関駅として知られる。同駅のホームは東京ディズニーランドやパークの閉園時間前後は、大混雑となるのが常だった。 これには、明確な理由がある。同駅のホームは一面2線という構造で、のぼり電車とくだり電車が同じホームを共有している。ゆえに、閉園時はディズニーから帰路に着く利用者が集中するのだ。 駅ホームや駅構内が混雑すれば、事故の発生率が高まる。事故が起きれば輸送障害が起こり、それは他線にも影響を及ぼす。そうした事情もあり、舞浜駅の混雑対策はJR東日本千葉支社や東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、地元の浦安市にとって悩みの種になっていた。 混雑を解消する手段は、いくつかある。例えば、一面2線のホームを2面2線に改造してのぼりとくだりのホームを分離する、現在は10両編成で運行されている京葉線の電車を長大編成化する、といった具合だ。どちらも莫大な費用が必要になることは言うまでもないが、それ以上にこれらの大規模改良工事はダイヤや信号施設などの変更も伴う。京葉線全体ならともかく、舞浜駅だけのために着手することは非現実的だろう。 そうした事情から、JR東日本千葉支社とオリエンタルランドは混雑緩和を別の手段で解決することにした。「大規模な施設改良が難しいという事情から、現在は約200メートルのホームを約300メートルへ延伸しました。ホームが約100メートル長くなったことで、のぼり電車とくだり電車の停車位置をずらすことができます。これにより、乗降客の動線を分散できますので混雑の緩和になると考えています」と話すのはJR東日本千葉支社総務部の広報担当者だ。舞浜駅混雑緩和の最適解を探して 舞浜駅はホームに階段とエレベーターが2か所しかない。コロナ禍により、東京ディズニーリゾートの来園者数は減少し昨年は臨時休園もした。舞浜駅利用者の大部分は東京ディズニーリゾートへの来園者なので、昨年のような状況だったら駅施設を改良せずとも支障は起きない。しかし、コロナ禍が収束すれば、来園者数が以前のように戻る。「ホームの延伸工事は2020年4月に着工しましたが、以前からJR東日本とオリエンタルランド、そして地元の浦安市とも混雑緩和の協議を続けてきました。駅改良にかかる約44億円の工事費は、JR東日本とオリエンタルランドで折半して捻出しています」(同) 駅の混雑は、単に鉄道事業者だけの問題ではない。そして、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドだけの責任でもない。鉄道の駅は、ディズニーへの来園者だけが使うのではなく地域住民なども使うからだ。 地元の浦安市は、2018年度に舞浜駅の混雑対策として、ホーム延伸の調査・検討に1000万円の予算を計上している。 また、京葉線のホームとは別事業だが、南口バスターミナルの整備にも約6000万円の予算をつけている。これはバスターミナルを整備することで、副次的に京葉線ホームの混雑が緩和されることも含まれている。 舞浜駅には北口と南口があり、東京ディズニーリゾートの施設は南口に集中している。当然、混雑するのは南口だ。駅南側に南口以外の出入り口を設ける案も考えられるが「舞浜駅の南口はJR東日本の所有地ですが、すぐに弊社の所有地ではなくなります。所有権の問題もあり、駅の出口を増やすことは簡単ではないのです」(同) のぼり電車とくだり電車の停車位置をズラすためにホームを約100メートル延伸するという奇策は、さまざまな制約のなかでJR東日本千葉支社がたどりついた最適解でもあった。 ディズニーを楽しんだ後、混雑によって長時間も駅で待たされたらストレスに感じるだろう。まして、混雑に起因するトラブルに巻き込まれたら楽しい一日が台無しになってしまう。混雑の解消は、来園者のストレス緩和にもつながる。 コロナ禍という要因もあり、当面の以前のように舞浜駅が混雑することはない。それでも、収束後に多くの来園者が押し寄せることを見越し、今のうちから対策を講じる。しかし、ホーム延伸工事だけで、混雑を緩和することはできるのか?「工事が終了したばかりなので、現段階では今後の様子を見てという感じでしょうか。ホームの拡張や増設といった改良工事の予定は、今のところありません」(同)という。 舞浜駅の開業と東京ディズニーランドの開園した年は異なるが、舞浜駅は東京ディズニーランドとともに歴史を築き、発展してきた。そして、来年に東京ディズニーランドは開園40周年を迎える。 いつコロナ禍が収束するかは予測できないが、永遠に続くことはない。いずれ客足が戻り、ホームは来園者で溢れるだろう。そのとき、事前に駅ホームの延伸工事をしておいてよかったと思えるに違いない。その成果を発揮するにはいつになるのか? 混雑緩和策を講じたものの、東京ディズニーリゾートから帰る人たちで溢れる舞浜駅が戻ってくることを待ち望みたい。
2022.01.29 07:00
NEWSポストセブン
1995年創業のアマゾン・ドット・コムは、世界各地50カ所を超える物流センターを持つ。日本法人は2000年スタート(イメージ、ANP/時事通信フォト)
コロナ禍でも圧勝のアマゾン 「買い負け」日本との差はどこにあるか
 生活支援を必要とするフルタイム従業員が多いなど、雇用や労働環境についてたびたび非難されているインターネット通販大手の米アマゾン・ドット・コム。批判の一方で、世界の覇権を目指すアマゾンの物流システムには驚嘆するしかない。俳人で著作家の日野百草氏が、アマゾンがロジスティックの巨人としての力を発揮する背景と、買い負ける日本が学ぶべき方向性について探った。 * * *「アマゾンフレックス、いろいろ言われてますけど凄いシステムですよ」 関東で一人親方として運送業を手掛けているドライバーが語ってくれた。彼はかつてアマゾンフレックス、いわゆるアマゾンの直接業務委託契約をしていた。そう聞くと、Uber EATSのような仕組みが思い浮かべるかもしれないが、軽貨物車両を所有していることが条件なので法律を無視したグループが参入する懸念はほとんどないとされている。「デフォルトが『置き配』というのがアマゾン最大の武器です。ECサイトにおける売上拡大につながってます。また独自の配送アプリの開発で多くの荷物を短時間に誰でも配る事ができます。人間が配るものなのでセンスと体力次第ですけどね」 通常の宅配は、配達員が届け先に荷物を手渡しするのが基本だが、玄関先や宅配ボックスなど指定の場所に荷物を置いて配達完了とするのが「置き配」だ。最近は多くの通販や宅配業者で採用されている仕組みだが、手渡しが基本で置き配はオプション。まず置き配が選択肢というのはアマゾンならではだ。もちろん批判もある。「いろいろ言われて」という部分は配達員も利用する側も重々承知だろう。それでも全世界で40万人の配送ドライバーがアマゾンの仕事を請け負っている。「アマゾンフレックスは多量の荷物を効率よく配送できます。たまにとんでもないところに連れていかれますが(笑)、国内のあらゆる物流会社がありながら、どこも追いつける気配すらない。システムの進化は 配送員の収入をアップさせます。その環境を創り上げる仕組み、ビジネスデザインの秀逸さですね」 筆者も同感である。アマゾン、本当に凄い。従来の大手宅配業者は基本的に営業所という物理的な拠点を軸に、配達員の手配をしてきた。それを専用アプリひとつで実行し人手と時間を削減している。そして筆者は思うのだ。こうしたアマゾンの戦略は本来、日本がすべきことだったはずと。アマゾンの裏にはアメリカの国を挙げての全面協力がある。官民の露骨なまでの協調、これは中国も同様だ。戦争は綺麗事では勝てない。コロナでも通販体制は完璧に近い 日本は貿易での「買い負け」はもちろん、コンテナ船やコンテナの確保など国際物流で「取り負け」を続けている。あらゆるものが遅延し、品薄や価格高騰が続いている。日本は食料自給率が37%(カロリーベース)、67%(生産額ベース)と他国に食べさせてもらわなければならない国、かつ資源の限られた国である。そのような島国が物流をおろそかにする愚は『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』でこれまでも書いてきた。この日本のロジスティクス軽視は太平洋戦争の敗戦の一因ともなった。 歴史は繰り返すのか――これまでの「金払えば誰かが運ぶだろう」という感覚は、激安国家日本にとって第二の敗戦を招きかねない事態に陥っている。別の大手ECサイトに携わる営業マンの談。「アマゾンね、確かに凄いです。自分のところでコンテナも作ってます」 平易に言うならアマゾンは「他者に頼らない」主義であり、その実現を目指している。もちろん多くの協力企業を使っているが、こと輸送に関する方向性としては「なんでも自分でやる」ことを目指している。ひと昔前に流行ったコストダウンだけが目当ての「なんちゃってアウトソーシング」の流れとは逆行した取り組みだ。「貨物機を何十機も持っていて自社の専用空港まであります。だからコロナでも通販体制は完璧に近い。これ、本当に凄いことなんですよ」 アマゾンは「アマゾン・エア」という自前の航空会社で貨物機を運航している。現在の運用はリース機が中心だが、2021年からデルタ航空やウエストジェット航空から実機を多数購入して整備している。ケンタッキー州には専用の貨物空港「アマゾン・エアハブ」があり、利益率の高い商品はこの自前の航空機で運んでいる。そのアマゾンの空港には東京ドームの2倍近くの広さとされる仕分センターも併設されている。「私としてはコンテナが羨ましいですね。中国で大量に作ってます」 コンテナは物流の要。あの何の変哲もない鉄の箱をいかにかき集められるかが貿易戦争の勝ち負けに繋がる。アマゾンはこの戦争のためにいち早くコンテナを自社生産、これまで中国で数万個は作ったと言われる。今後は情勢に合わせて世界中で作るだろう。他人のコンテナなんか当てにしないということか。それどころか自社の輸送システムの余り分で他社の輸送も引き受けている。旧来の国際輸送大手、FedExやDHLに全面的に頼ったりせず、それどころか競合相手になろうとしている。国内では周知の通り、ヤマト、佐川、日本郵便と購入者への配送を天秤に掛け続け、現在のアマゾンフレックスの構築に至る。その労働条件、働かせ方が気に入らない人も多いだろうが、組織としてのアマゾンの完成度は認めざるを得ない。「混載したくないのでしょうね。自社で港も確保してますし、物流倉庫も増やしています。コロナ禍でも抜かりは無かったでしょう、とくに混載したくないのでしょうね」 複数の荷主の荷物を積み合わせた輸送方法を混載便と呼ぶが、誤配送のリスクや他社の荷物の都合に左右されるなどのデメリットがある。とはいえ、常に混載させない輸送手段を確保するには相応のコストが必要なので、従来の一般的な通販会社の規模で混載を完全に避けるのは難しい。まして現在のようにコロナ禍で不安定な状況では物流インフラ整備にまで手が回らない。そんな中でもアマゾンは入港地を5割も増やし、コンテナ処理能力を2倍に増やしたという。「コロナ禍だからこそです。金使ったほうが勝つって当たり前なんですけど、その当たり前ができないから負ける、使うべきところに使うという点でアマゾンは徹底しています」 大事な現場には金に糸目をつけない。至極当たり前の話だが、金があるほうが勝つ。金があれば他人に頼らずに済む。アマゾンはとにかく自社のものだけ運びたい。徹底した顧客主義、届けることに全力で金を使う。そうしたアマゾンで世界中およそ150万人が働いている。期間従業員を含めない数というのだから大変な数字だ。先の労働問題など山積だがここでは本旨ではないため言及しない。とにかく組織としては勝っている。「本当は日本こそアマゾンのような未来の物流を構築すべきだったんです。物流にお金を使わず、下に見る文化は本当に国を滅ぼしますよ」 営業マンの言う通りだ。今回のアマゾン賛美は本来、日本が国を挙げてこうした物流網を作るべきだったという一点にある。アマゾンは2000年に創業してたった20年で「世界のアマゾン」になった。いや、アマゾンの好きなフレーズで言うなら「地球のアマゾン」だろうか。アマゾンも結局はアメリカという後ろ盾がある 脆弱な日本の港や空港、蚊帳の外の日の丸海運、面倒事ばかり押し付けて金を出し渋る日本企業、30年間の負の積み重ねにより資源、食料、原材料の「買い負け」という事態に陥ろうとしている。米中ルートとハブ港を持つ一部の国、そして資源輸出国には寄っても日本はスルー、コロナ禍でこの流れは本格化している。誰かが運べばいいという浅はかな考えでいたら、いつの間にか誰も運んでくれなくなり始めた。 アマゾンは自前で船やコンテナ、貨物機から空港まで揃え、ついには配達用の電動自動車まで子会社、提携会社で開発している。なるべく自前で揃え、使うべきところに金を使う。日本は必要な現場に金を使わず、いちいち面倒なところに細かい。そんなやり方は日本が強かったとされた時代には通用したが、円も国力も落ちたいま、崩壊寸前だ。「もっと国の後押しが必要です。アマゾンも結局はアメリカという後ろ盾がある。中国政府はもちろん他の成長国は政府が率先して貿易の後押しをしています」(前出の営業マン) アマゾンを筆頭に貿易大国の威信をかけるアメリカと、世界の貿易大国の座を事実上握りかけている中国。日本も官民一体で取り組んできたはずだったが、かつてその中国になぜか民間技術を渡し、種子の流出を野放しにし、土地を自由に買える状態で放置した。これは現実だ。日本人みんなで本気になって物流を考える時が来ている。多くの現役の企業戦士はこの危機を、現場で十分に感じていることだろう。 貿易は戦争、物流は安全保障である。アメリカもアマゾンもそれをよく知っている。物流を他国に握られるというのは血管を他人に握られるのと同じである。流してもらえなくなれば、人間と同様に国も死ぬ。この間も中国はコロナ禍に乗じて官民一体で世界の穀物の約6割を買い占め続けている。日本、残された時間はそれほど多くない。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。
2022.01.25 16:00
NEWSポストセブン

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