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高収益企業のキーエンスを一代で築いた滝崎武光氏とは、どんな経営者か(時事通信フォト)
広告宣伝をしないキーエンス “日本一高い給料”を可能にする経営方針
 世界長者番付の2022年版が4月5日、米経済誌『フォーブス』で発表された。電気自動車テスラのイーロン・マスク氏が、アマゾンのジェフ・ベゾス氏(2位)を抜いて初の世界一となったことが話題を集めたが、日本人の顔ぶれにも注目が集まった。 日本人で100位以内に入ったのは3人。ファーストリテイリング(ユニクロ)・柳井正氏(54位)とソフトバンクグループ・孫正義氏(74位)という世界的経営者の間に割って入ったのが、資産額239億ドル(約2兆9400億円)で61位にランクインした滝崎武光氏(76)である。 滝崎氏はセンサーのメーカーであるキーエンスの名誉会長で、米経済情報サービスのブルームバーグが昨年9月に公表した『ブルームバーグ・ビリオネアズ・インデックス』(2021年9月14日時点)では、保有資産で柳井氏を抜いて日本一になったとも報告されている。柳井氏と孫氏がコロナ禍で株価の下落により資産を減らしたのに対し、滝崎氏はキーエンスの株価が大幅に上がったことで、両者を抜き去る結果となったという。 しかし、日本一の富豪と言われても、滝崎氏は柳井・孫両氏に比べると知名度が低く、人物像もほとんど知られていない。 キーエンスは、1974年に滝崎氏が兵庫県尼崎市に設立した会社で、自動車や精密機器、半導体などの工場で生産工程を自動化するファクトリーオートメーション(FA)にかかわるセンサー類を開発・製造するメーカーである。 2020年度の売上高は5381億円で、対する営業利益は2968億円。営業利益率は51.4%に達している。東証プライム企業の平均的な営業利益率は7~8%とされているので、同社は突出して高い。ゆえに株価を押し上げ、時価総額(2022年4月12日現在)は13兆2000億円。トヨタ自動車、ソニーグループ、NTTに次ぐ4位である。 過去5年間の社員平均年収は1930万円。業績に連動するため年ごとに差があるが、東証プライム企業のなかでも図抜けて高く、“日本一給料が高い会社”と呼ばれている。 キーエンスの特長を、経済ジャーナリストの有森隆氏はこう語る。「工場を持たず開発に特化し、設備投資を最小限に抑えている。そして、センサーをはじめとする利ざやの大きな製品にラインアップを絞り、卸問屋を一切使わない直販体制で中間マージンを省き、値引きを禁止することで、極めて高い利益率を実現しているのです」 顧客が抱える問題を営業社員が見つけ出し、それを解決する製品を開発して提供するスピードが極めて速いのが同社の強みだという。基本的に取材は受けない では、この高収益企業を一代で築いた滝崎氏とは、どんな経営者なのか。 兵庫県立尼崎工業高校を卒業後、外資系のプラント制御機器メーカーに勤めた後、20代で二度起業したが失敗し、三度目の正直で27歳のときにリード電機(現キーエンス)を起業した。当初は大手が手がけないニッチ製品を製造していたが、自動車工場などで使う検出センサーの大ヒットでジャンプアップし、センサー業界のトップへと同社を導いた。 キーエンスは日本有数の企業であるにもかかわらず知名度が低いのは、製品が一般消費者と無縁の工場向けで、テレビでCMを流す必要がなく、広告宣伝は要らないと割り切っているからだ。それが営業利益率の向上にも寄与している。 企業のイメージアップのために、滝崎氏がメディアに露出することも滅多にない。そのため滝崎氏については、人物像が謎に包まれているが、1990年代に滝崎氏にインタビューをした元『フォーブス日本版』編集長の小野塚秀男氏は、当時の印象をこう振り返る。「基本的にマスコミの取材を受けないスタンスの方で、“冷徹な合理主義者”という評判も聞いていたのですが、大雪で取材が一回飛んだにもかかわらず、『あの日は大変でしたね』と労っていただき、取材に対しては物腰柔らかく、非常に丁寧に対応していただいた」 滝崎氏の経営方針は独特である。キーエンスの元営業社員(1987年入社)で、中小企業診断士の立石茂生氏は、社員時代をこう振り返る。「社員全員の負荷を同じにするという考え方が貫かれていました。営業所は全員の目が行き届く20~30人に抑え、パーティションなどの仕切りもなかった。サボるのを許さない一方、本社も営業所も全員、残業するんですが、21時でみな帰っていた。そういう意味でも“同じ負荷”なんです」 日本一高いとされる給与も、独自の給与システムから生み出される。「私が入社した当時は20代で400万円、30代で500万円くらいと、一般的な中小企業より少し高い程度でしたが、残業代は勉強会であろうと研修であろうと、しっかり支払われた。前に倒産させた会社で、残業代の支払いで社員と揉めたことへの反省があったのかもしれません。 その後、キーエンスの社員が高給になったのは、給与とボーナスの他に、毎月決算をして、営業利益から会社に入る分を差し引いた残りが全社員に分配される業績手当があり、業績がダイレクトに収入に反映される形になったからです」(立石氏)※週刊ポスト2022年4月29日号
2022.04.21 06:00
週刊ポスト
サラリーマンもエネルギー補給のためにより良いお米を求めるため国産米のほうがウケは良いのではないか
吉野家「生娘をシャブ漬け」不適切発言の常務 「即解任」以外の選択肢がなかった理由
 牛丼チェーン大手・吉野家の役員が、4月16日に早稲田大学の社会人向け講座に講師として登壇した際に女性蔑視発言をした件が波紋を広げている。吉野家ホールディングスはこの件で、同社執行役員で、子会社である株式会社吉野家の常務取締役だった伊東正明氏を4月18日付で解任したと発表。問題発言からわずか2日での解任劇だった。 吉野家側は解任を伝えるリリースの中で、解任理由として〈同氏は人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があった〉と記述。〈本日以降、当社と同氏との契約関係は一切ございません〉と突き放した。 同氏は早稲田大学が運営している社会人向け講座「WASEDA NEO」の「デジタル時代のマーケティング総合講座」の中で、若い女性向けの自社の戦略を「生娘をシャブ漬け戦略」と表現。さらに、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢・生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、絶対に食べない」などと発言したことが明らかになっている。 すでに指摘されているようにこれは明らかな女性蔑視発言で、女性をモノとして扱うような不適切な発言だったことは間違いない。早稲田大学もすぐに講座担当から降ろすことを決断。このような人権・ジェンダー意識が欠如した発言では、吉野家側も、事実上“即解任”したのは当然の判断だったと言える。 伝えられている通り、吉野家は女性客をいかに取り込んでいくかに腐心していた。今回の件で女性の既存顧客や潜在顧客層が離れてしまうのは吉野家にとって大きなダメージとなるから、解任以外に選択肢はなかったはずだ。女性管理職割合は「24.3%」 加えて、吉野家にはもう一つ“即解任”を決断する要因があった。同社の事情に詳しい経営アナリストが語る。「吉野家は、社員の“女性活躍推進”を掲げていました。その看板だけ聞くと、どこの会社もやっている当たり前のことだと思うかもしれませんが、吉野家にとって女性社員は戦略上どんどん重要になっているのです。 外食産業はどこも人手不足の状況で、女性などの働き手の採用を強化しています。しかも会社として女性客を増やしていきたいという段階にあり、それには女性社員ならではの視点や発想が必要だった。そうした中で、女性社員のモチベーションや愛社精神を著しく傷つけるような発言は看過できません。“降格”や“減給○か月”といった甘い判断では、社内に説明ができない状況でした」 吉野家の採用サイトでは、「女性社員の割合30%!」「女性管理職の割合30%!」への取り組みとして、「女性採用担当者を配属」「キャリアへの意識改革」「男性社員への理念浸透活動」などに注力していることを説明。さらに、女性社員ならではの相談や悩みを共有できるネットワークとして「吉野家女子会」を発足させている。 同社の経営戦略を説明するサイトでは、「グループ女性管理職比率24.3%」という数字が示されている。「目標とする30%には届いていませんが、帝国データバンクの2021年の調査によると、女性管理職の平均割合は8.9%。過去最高の数字ではあるものの、まだ10%にも達していない。政府も女性管理職割合を30%に引き上げる方針を示しているが、日本企業では遅々として女性の登用は進んでいません。 その中で吉野家の24.3%はとても高いと言えます。何をもって“管理職”とするかの定義の問題はありますが、少なくともそうした社内の女性幹部たちから今回の発言に対して強い批判が起きたことは間違いありません」(同前) 吉野家では、女性店長を増やすことや復職支援、育児支援にも力を入れている。そうした中で、「生娘をシャブ漬け」発言に対し曖昧な形で決着させるという“日本的”な処分は許されなかったのだ。 女性の消費者、そして女性社員たちから、組織としての信頼を取り戻せるか。正念場だ。
2022.04.19 19:05
NEWSポストセブン
有楽町駅前の吉野家
吉野家 不適切発言の常務が語っていた「ビジネスに活きた高校時代の部活」
 牛丼チェーン『吉野家』を展開する吉野家ホールディングスの執行役員で、子会社である株式会社吉野家常務取締役だった伊東正明氏が、4月18日付で役職を解任されたことが発表された。 同社はリリースの中で、「当社は、昨日開催いたしました臨時取締役会において当社執行役員および子会社である株式会社吉野家常務取締役の伊東正明氏の取締役解任に関する決議を行い、2022年4月18日付で同氏を当社執行役員および株式会社吉野家取締役から解任しました」と報告し、「本日以降、当社と同氏との契約関係は一切ございません」と続けている。 解任理由については「同氏は人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があった」と記した。また、伊東氏が講義をした早稲田大学も「教育機関として到底容認できるものではありません」と表明し、当該講師について「講座担当から直ちに降りていただきます」と発表した。 伊東氏は、早稲田大学で行われた社会人向け講座で「デジタル時代のマーケティング」について語った際、「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」と前置きしつつ、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」といった趣旨の発言をしていたとして問題に。受講者による証言がSNS上で拡散され、「女性差別だ」と批判が殺到していた。大物マーケターとして知られた存在だった 早稲田大学で講義を担当するだけあって、伊東氏のビジネスパーソンとしてのキャリアは実に華々しいものだ。伊東氏は新卒でP&Gジャパンに入社し、食器用洗剤「ジョイ」や洗濯洗剤「アリエール」などのブランドを再建したとされる。2018年1月に独立。メディア出演も多く、マーケティング研修プログラム「伊東塾」を日本各地で開催するなど、大物マーケターとして名の知れた存在だった。 2018年10月に吉野家の常務に就任した伊東氏は、マーケターとして様々な施策を展開。新サイズにあたる「超特盛」「小盛」、健康志向メニュー「ライザップ牛サラダ」などのヒットを飛ばした。当時、原材料高などで苦境に立っていた吉野家だが、2019年3月以降、既存店の売上高が大きく改善していた。 自身の考えを周囲にわかりやすく伝えるためなのか、伊東氏はたとえ話をよく用いる。 吉野家のマーケティング戦略について『東洋経済オンライン』(2020年2月)の取材に、〈特別なことはしていないが、唯一使っているのが「引き出し理論」という考え方だ。人間の頭の中に引き出しがあるイメージで、その引き出しを開けたときに手前にあるものを買うのが購買行動だ〉と答えることも。一方で、マーケターと各種ツールの関係を「料理人」と「包丁」にたとえたこともあった。〈今は柳刃包丁に限らず、何百種類の包丁が売られている時代。それによって包丁をいっぱい揃えることに満足して、料理人であることを鍛えていない人が増えているように感じるのです〉(「アジェンダノート」2019年7月掲載のインタビュー) こういった言語感覚は、伊東氏が高校時代に落語研究会に所属していたことも関係していたのだろうか。落語の経験がビジネスに活かされている部分もあるらしく、伊東氏自身は同メディアのインタビュー(2020年4月掲載)でこのように語っている。〈普通に誰かと話しているときにも、相手の目や表情から、今は理解してもらえていそう、興味持っていそうということを読み取りながら言い方を変えているんです。それは落語という部活動で練習したからできていることなんです〉 もちろん、落語を経験した多くの人は彼のような女性蔑視発言をするわけではなく、落語にはまったく罪はない。伊東氏は場を盛り上げようとして問題発言をしたのかもしれないが、残念ながら本当の意味でその経験は活きなかったようだ。吉野家を利用する女性たちの声 実際に吉野家を利用する女性たちは、今回の騒動をどのように受け止めているのだろうか。店から出てきた女性客に声をかけたところ、このような答えが返ってきた。「吉野家は便利なので一切利用しなくなることはありませんが、やっぱり差別的というか、バカにされたような気持ちにはなりました」(30代女性)「ニュースを見て、古い人なんだなと思いました。でも時間がないときにパッと食べられて便利ですし、これからも吉野家を利用はします」(20代女性) 今回の騒動により、女性たちは大なり小なり複雑な感情を抱えながら牛丼を食べることになってしまった。創業120年を超える吉野家。4月19日からは開発に10年かけたという力作の親子丼が発売開始したが、広報活動を自粛し、発表会も中止になった。ただ純粋においしい料理を提供しようとしていたスタッフたちの胸中は──。
2022.04.19 17:40
NEWSポストセブン
電気自動車(EV)の充電を体験する小泉進次郎環境相(当時)。2020年10月21日、横浜市(時事通信フォト)
結局、日本の中高年はガソリンエンジン車とともに「逃げ切る」ことになるだろう
 スイカがモチーフのヘルメットをかぶり、オーバーオール姿で電動の原付バイクで旅するバラエティ番組『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)の見どころのひとつは、バッテリー残量が0%になったときに充電をさせてくれる近辺の民家や店舗などを探し回るところだろう。その慌てた様子はバラエティ番組なので楽しんで見られるが、自分が電動バイクや電気自動車を普段使いするかといえばどうなのか。SDGsに貢献する取り組みのひとつとして国策にもなり、各メーカーが急ピッチで開発をすすめるBEVを現在のガソリン車ユーザーはどう見ているのか、俳人で著作家の日野百草氏が聞いた。 * * *「BEVねえ、よくわかんないけど、電気でしか動かないんだろ。そんな大量の電気なんてどこで入れんのよ」 都心から50kmほど離れた関東近郊、ガソリンスタンドで缶コーヒーを飲みながらテレビを見ている高齢男性に話しかけてみる。着の身着のままで軽トラのオイル交換待ち、農家も多いこの辺で軽トラは都会のママチャリ感覚だ。「家で電気入れて、途中で止まったら大変でしょ、近所で入れさせてもらうわけ?」 実に素朴な疑問、この「入れる」は充電の意味だ。もちろん、このガソリンスタンドに専用の充電設備はない。BEVとはバッテリーの電力のみで動く電気自動車。日本では約8000万台の化石燃料車(HV・PHV含む)が走っている。いまやHV(ハイブリッド車・ガソリンと電気の併用・HEVとも)やPHV(外部充電できるハイブリッド車・PHEVとも)など珍しくもないが、純然たる電気自動車であるBEVとなるとその中のわずか数万台といったところ。将来的には内燃機関による自動車を全廃し、このBEVによって、ガソリンを使わず電気のみで脱炭素を目指すとしている。「テレビで見たな、スクーターで田舎走って『電気入れさせてください』ってやつ、あれ面白いな」 その番組は『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』ではないかと話すと「そうそう、でも自分じゃやりたくないな」とのこと。確かに人気番組で有名タレントだからこそ成立する話で、「充電させて」と言って「どうぞ」という家も少ないだろう。またフル充電でも実用距離は20kmくらい(乗り方、地形にもよるだろうが)だろう。「昔は家に『トイレ貸して』なんてのも来たけど、いまじゃおっかねえしな」充電設備じゃスタンドは食えないよ 筆者の生まれ故郷も負けず劣らず関東の田舎だったのでよくわかる。1970年代、幼少のころは「トイレ貸してください」と何度か大人の人が来た。昔は当たり前のように案内したが、さすがに都会も田舎も関係なく、現代ではおいそれと赤の他人を家には入れないだろう。それはともかく、日本政府(菅義偉内閣)は2021年の衆議院本会議の施政方針演説で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明した。それが本当ならあと10年ちょっとでガソリン・ディーゼルの新車は(もちろんHV・PHVも、理由は後述)順次、消えることとなる。外に出てスタンドの店主にも話を聞く。「充電設備じゃ食えないよ、いまだってカツカツなのに」 レギュラーガソリンは170円後半、補助金の効果はいまのところない様子。「いろいろあるからね、補助金出たから下がるわけじゃないんだ。複雑なんだよ」 本旨ではないのでここまでとするが、充電設備の計画はあるか。BEVやPHVを販売するディーラーの多くは充電設備を拡充している。「ないよ。全額補助してくれたって嫌だね。あっても電気じゃ単価が安くて儲からない。30分とか充電なんて回転率も悪すぎる」 バッテリーにもよるが急速充電でも30分から40分はかかる。家庭用コンセントなら10時間くらいだろうか(設備、車種にもよる)、BEVについてとにかく言及されるのが、この充電時間の長さである。「まあ、ガソリン給油するのと同じ5分とか10分で充電完了になるくらい技術が進めばいいけど、俺が現役のうちにそうなるかね」 BEVとは違うがFCV(水素で走る燃料電池車・FCEVとも)なら数分で済むがどうか。「水素ステーションにする金なんかないよ」 笑われてしまった。確かに水素ステーションなんて都心ですらレア、費用も数億円は掛かる。そもそもFCV自体が将来的にはともかく、現状は相当なレアキャラだろう。 別の日、同じく関東近郊の中古自動車店のオーナー(個人経営)に話を聞く。「リーフ(日産のBEV車)を引き取ったことはあったけど、うちでは手に負えないから業販に流しちゃったよ」 2021年の乗用車販売台数は239万9862台、そのうちBEVの販売台数は2万1139台と100分の1もない。ましてその2万台のうち日産が約1万台、あとはテスラを始めとする外国車がほとんどである。後発のトヨタやホンダは約700台という現状だ。「とにかく充電する場所が少ないからね。この辺は砂利駐も多いからさ、そんなところに充電器はなかなか置いてないよね、まして200Vだろう?」 都市部のマンションや施設の一部にはBEV用の200V充電設備が導入され始めているが、今でもこの地域にかぎらず都市部以外は砂利駐、いわゆる砂利を敷いただけの駐車場や空き地を利用したロープを張っただけ、舗装しただけの青空駐車場も多い。「マンションや団地だってこの辺じゃ充電設備なんて少ないよ。東京じゃ増えてるんだろうけど、車を一番使うのは田舎だからね、距離も乗るし」 充電設備を設置するとなると「誰が負担するか」という問題が発生する。補助金で対処できるはずなのだが、ごく一部のBEVユーザーのために設置するとなると地権者はもちろん管理組合、全住民の理解を得るのはなかなか難しい現実がある。「高速のサービスエリアと、あとはショッピングモール、ディーラーなら充電設備はあるけど、まだまだだね。個人的には距離がとにかく不安だな」 距離の問題は技術の進歩と普及率が解決するのだろうが、前述のリーフでフル充電した際の可走行距離は400km(試験走行時)、十分じゃないかと思う人は都会の人か至便な場所に住む人だろう、北海道はもちろん雪国や山間部の住人もBEVで、というのは酷な話、暖房を使えば先の可走行距離は当たり前だが縮む。2020年12月、新潟県の関越道上り線で2000台以上が巻き込まれた立ち往生の大騒動は記憶に新しいが、BEVの場合ガソリンのように持ってきてすぐ給油、とはいかない。単独のガス欠ならぬ「電欠」もそうだろう。いまの40代から上はガソリンエンジン車で逃げ切りでしょう「まあ国が決めたことだし、何十年後とかには全部電気(自動車)になるんだろうけど、俺はそのころ生きてないだろうし、生きてる間は普通にガソリンエンジンの中古車売るよ」 非常に正直な意見で、先のガソリンスタンドのオーナーも「俺の代で終わりだから、このまま灯油とガソリン売るよ」と言っていた。石油や天然ガス、石炭などの化石燃料の廃止および長期契約禁止は各国、各地域によりばらつきがあるがおおよそ2040年から2049年ごろを予定している。都心の高齢者サークルで聞いても同様の回答だった。「軽で十分よ。そこまで生きないし、生きてても免許は返納してるでしょうよ。いまだって免許をそろそろ返したらって娘がうるさいのに」 そう言って笑う女性は70代半ば、確かに現状はガソリンエンジン車、せいぜいトヨタのプリウスに代表されるHVで済む話。別の60代男性もこう語る。「いちいち不便な電気自動車にする必要なんかないですよ。それが便利になるころには私たちはあの世だ」 もちろん冗談で笑い合うような雰囲気だったが、これは他人事ではなく筆者も今年で50歳、まあいつまで生きるかは知らないが、加齢による免許返納を加味してもガソリンエンジン車で生涯を終えるだろう。これが実のところ国内のBEV普及の最大障壁になるのではと思うのだが、「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」とする政府方針とは裏腹に、仮に80歳前後で寿命、もしくは免許返納とするなら現在の65歳以上の運転免許所有者2000万人そのものは消える。2049年とするなら筆者も入ってしまい、おおよそ4000万人の運転免許所有者が消えることとなる(令和2年度版、運転免許統計から独自に算出)。もっと長生きするかもしれないが、それこそ90代まで運転というのは現実的ではないし、例の池袋の事故ではないが控えるべきだと思う。 また、ただでさえ30歳未満の自動車保有率は半数前後、二輪に至っては国産車新規購入ユーザーの平均年齢が54.7歳(日本自動車工業会・2019年度二輪車市場動向調査)という「中高年しか乗り物を買わない」という現状にあって、その中高年の大半がBEVの世に消えてしまう。もちろんこれはBEVに限った話ではなく、これから迎える内需を脅かす急速な人口減の話にもつながるが、2021年の出生率は84万人、彼らが免許を取得する2040年代、国内メーカーが現在の自動車ユーザーの主要世代とその数を収益面でリカバリーできるとはとても思えない。国内自動車メーカーの元エンジニアにこれらの話をしてみると笑って答えてくれた。「いや、もっと簡単に考えましょうよ。ガソリンはあちこちで給油できるし数分で終わる、ガソリン車のほうが選択肢は多いし中古で安く買える車種もある、軽だってある。車検や修理、整備士も含めていまだにガソリン車が前提、日本の大半が地方で車は趣味より生活の足、そう考えると、ぜんぶ逆のBEVを選ぶ人っているんですかね、BEVの超高級外車はともかく、国産の安いので補助金あっても最低200万とか300万はするでしょ、買いますか?」 確かに200万、300万出すならガソリン車(HV・PHV含む)のほうが現状は魅力的な車種がよりどりみどり。エコというだけでわざわざ面倒で選択肢も限られ、電気インフラそのものも未整備なBEVを選ぶというのはそうとうに意識の高い人、もしくは新しもの好きの人に限られるだろう。幸いにして日本の自動車メーカーは世界を制した丈夫で高性能なガソリンエンジン(内燃機関)を有している。すべてにおいて質も高い。私たちもその恩恵にあずかっているわけだが、このアドバンテージすら消えるのはとても怖い気がする。「BEV車ばかりになれば充電待ちも増えるでしょう。HVは国内的に理想的ですが、あれも結局のところガソリン(もしくはクリーンディーゼル)使ってますからね」 自動車における化石燃料の全廃となればHV(PHV含む)も消える。欧米や中国といったBEV先進国はHVにも否定的であり、実際にEUのガソリン車販売禁止(2035年を予定)にはHVも入っている。EUの方針が国際基準として通るなら、日本が唯一アドバンテージを持つとされるHVも消える。日本メーカーのBEV、FCV開発の挽回に期待したいところだが、欧米はもちろん中国、韓国は国策による強引ともいえるインフラ政策も手伝って遥か先を行っている。とくに中国の電気自動車メーカーの躍進はめざましく、SGMW、BYDといった日本では馴染みのない新興企業が世界市場の上位にいる。もちろん圧倒的な首位はイーロン・マスク率いる米テスラだ。「資源のない日本にとって脱炭素って不利だと思いますよ。仕方のない話ですが、さっきお話していた国内のインフラ面も含めて遅れたためにHVでいくしかなかった。旧来の日本車が優秀過ぎたのもあったと思いますし、国内の人口減が決定的な状態で既存顧客を捨てられないというのもあると思います。いまの40代から上の方々はガソリンエンジン車を生涯使っても問題ないでしょうからね、逃げ切りというか」 幸い、と言っていいかわからないが、寿命にしろ免許返納にしろ、現在の中高年から上はBEVとそれほど付き合わずに済むだろう。そもそも言い方が難しいが、BEVも含めた「2050年カーボンニュートラル」を宣言する内閣の平均年齢そのものが61.8歳、それでも次世代のために尽くしているのだ、と考えたいが「今だけ金だけ自分だけ」が跋扈して久しい近年の政治を見るにつけ正直、信用しづらい。「環境関係の補助金や助成金は美味しいですからね。それはBEVも同じでしょう。政治の道具にもなっているようにも思います」 これは本旨ではないため割愛するが、とにかくBEVという命題に絞って考えれば車種の充実や補助金よりも脱化石燃料の社会を前提にしたインフラの整備、それに移行することに対する国民の理解と安心を確保することが先なのではないか。「日本は電力も不足していますからね、今後さらに不足するのに脱原発、火力発電もいずれ禁止になるかもしれない、それですべてを電気自動車って、どうするつもりなのでしょうね」 資源もなく、脆弱な日本の電力事情で将来的に完全な脱化石燃料、BEVを進められるのか。イギリスはこれから原発を8基、フランスに至っては14基(!)計画しているが日本はどうするのか。ロシアのウクライナ侵略が長引けば、資源の乏しい日本はさらなる買い負けと資源の高騰に苦しむだろう。この戦争により欧州のグリーンディール路線もさっそくあやしくなってきた。主義主張で電力は賄えない。BEVが増えても肝心の電力が不足しては本末転倒だ。広大な国土はもちろん資源大国でもある中国はBEVやFCVでも構わないのだろうが、日本にとってはディスアドバンテージでしかない気がする。せっかくの世界に誇るガソリンエンジン技術も捨てざるを得ないとは。「でも企業は政治家なんかより先を見てますよ、日本の自動車メーカーがBEVで立ち遅れたくないのは海外で売るためですから、国内需要なんて将来的な柱には入ってないでしょう」 なるほど、2050年でもうひとつ付け加えるなら日本の人口は1億人を切る。そのうちの約60%は65歳以上の高齢者である。日本の自動車メーカーはユーザーそのものが減り続けることの決まっている国内より、国外で生き残りを賭けている、ということだろう。 なんだかもう、BEVがどうこうでない気がする。実のところ、化石燃料禁止と脱炭素に懐疑的な人たちは大きな観点で日本の将来を不安視しているのかもしれない。お国によって事情は様々なはずなのに、何でも世界に、とくに欧州に迎合することが、本当に資源の乏しい日本のためになるのだろうか。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.04.17 16:00
NEWSポストセブン
渋谷駅前で観光案内所として機能していた「青ガエル」。2020年に秋田県大館市へと引き取られた
鉄道車両の余生 塗り替えなしに地方を走ることも増加
 お馴染みだった鉄道車両が引退したあと、余生の過ごし方は様々だ。歴史的なものとして展示されたり、地方の鉄道を走ることもある。再び走ることになった場合、これまでは、その地方鉄道が指定する色に塗り直されることも多かった。ところが、最近は往時のカラーリングのまま走っている例が増えている。ライターの小川裕夫氏が、渋谷から秋田へ引っ越した「青ガエル」や、お色直しをせずに地方を走る鉄道車両の事情についてレポートする。 * * * 秋田県大館市は、東京・渋谷駅前広場に設置され、観光案内所としても使われていた東急電鉄5000形を2020年に譲り受けた。5000形は前から独特な外観で人気が高く、そのカラーリングと前から見ると丸みを帯びた下ぶくれ顔をしていることから”青ガエル”との愛称で呼ばれた。 大館市は大館駅前にある観光交流施設「秋田犬の里」に、引き取った青ガエルを展示。観光案内や秋田犬の情報発信拠点として活用していた。 秋田県は毎冬に多量の積雪を観測する。秋田犬の里に展示されている青ガエルは、冬眠という名目で一般公開を休止。今年は4月8日に冬眠から目覚め、一般公開を再開した。「秋田犬の里は、市が整備した観光・交流施設です。大館市が青ガエルを引き取ったのは、もともと渋谷区と自治体間交流があったからです」と説明するのは、秋田犬の里の担当者だ。 2001年、大館市と渋谷区は防災協定を締結。翌年、渋谷区は学校給食で大館市産のコメを使用開始している。 こうした縁から渋谷駅前にある5000形が大館市へと引き取られることになったわけだが、「大館市民にとって、東急電鉄と言われてもピンとこないのが実情かもしれません。しかし、秋田犬の里は小坂鉄道の大館駅跡地を整備したものです。だから、鉄道とまったく無関係ではありません。青ガエルに会いに来た鉄道ファンが、小坂鉄道の史跡にも触れていくといった観光効果を生み出しています」(秋田犬の里の担当者) 小坂鉄道は小坂鉱山で採掘された鉱石を運搬する貨物輸送がメインで、1994年に旅客輸送を終了。しかし、その後も貨物輸送は2009年まで続けられた。 大館市に引き取られた青ガエルは、実際に営業運転していない。それでも一般公開されているため、昔を懐かしんで訪問する旧沿線住民や鉄道ファンがいる。熊本電鉄が車体カラーを変えない理由 大館市のほかにも、過去に青ガエルを引き取って実際に営業運転していた鉄道会社もある。それが熊本電気鉄道(熊本電鉄)だ。「わずかな期間ですが、熊本電鉄で引き取った青ガエルを当社独自のカラーで走らせていたことがあります。しかし、車体を塗り替える際に東急時代の緑色に戻したら、思いのほか好評でした。わざわざ東京から乗りに来てくださるお客さんもいました」と懐古するのは熊本電鉄運輸課の担当者だ。 熊本電鉄を走っていた青ガエルは2016年に運行を終了したが、熊本電鉄は2015年に東京メトロ銀座線から退役した中古車両を購入している。熊本電鉄に譲渡された東京メトロ銀座線の車両は、車体カラーを当時のままで運行をしている。 銀座線のほかにも、熊本電鉄は2019年に東京メトロから日比谷線の車両を購入している。東京メトロの鉄道車両を続けて購入したのは偶然に過ぎず、「特に東京から鉄道ファンなどを呼び寄せる観光コンテンツにする目的ではありません。また、今後も観光の目玉にすることは考えていません」(熊本電鉄運輸課の担当者)という。 そして、このほど熊本電鉄は静岡鉄道から古い車両を引き取った。静岡鉄道から引き取った車両も塗り替えずに運行を開始している。「車体カラーを変えないのは、単純に経費を少しでも抑えるためです。鉄道車両は帯だけを塗り替えても、一編成で約200万円かかります。車体全体を塗り替えることになったら、費用はもっと高くなるのです。利用者の少ないローカル線は、少しでも経費を切り詰めなければなりません」(熊本電鉄運輸課の担当者) あちこちの鉄道事業者から鉄道車両を購入すると、熊本電鉄の車両から統一性が失われてしまう。それは鉄道会社としてのアイデンティティを喪失することにもつながりかねない。「そうした懸念はありますが、まずは鉄道を存続させることが大事です。地方のローカル線は常に赤字です。少しでも経費を削減しなければならないのです」(熊本電鉄運輸課の担当者) 熊本電鉄は観光の目玉にすることは否定したが、車体カラーをそのままにすることで沿線外需要を呼び込もうとする鉄道事業者もある。少なからず幼少期や青春時代に利用していた車両に会いたいと遠くまで足を運ぶファンがいるからだ。クラウドファンディングで「キハ40」譲渡費用を調達 例えば、兵庫県小野市の粟生駅から加西市の北条町駅を結ぶ北条鉄道は、JR東日本からキハ40形を購入した。キハ40は、以前に青森県と秋田県を結ぶ五能線を走っていた。 北条鉄道は、キハ40を譲り受けるための費用をクラウドファンディングで調達。目標は1000万円だったが、1300万円を超える支援が集まった。クラウドファンディングに応じた人の多くは、北条鉄道の沿線に住んでいる住民や以前に住んでいた旧住民だが、「新天地でキハ40が走る姿を見たい」と期待した東北にゆかりのある人もいる。 北条鉄道に活躍の場を移したキハ40は、当時のままの車体カラーリングで走っている。クラウドファンディングという手法を使って多くの人と縁を深めたこともあり、古参の鉄道ファンや五能線沿線に在住者たちなどが北条鉄道を訪問するという地域間交流も生まれている。 近年、映画やアニメのファンが作品の舞台を旅行する現象が生まれた。これは聖地巡礼と呼ばれる。 譲渡車が当時のカラーリングのまま走ることで、ファンや旧沿線住民が乗りに訪問する。その現象は、鉄道版の聖地巡礼といえかもしれない。 いくら沿線外からの利用者を呼び込んでも、それによって経営を劇的に好転させることはないだろう。中古車両は、あくまでも鉄道事業者が沿線住民の足として使うために購入したに過ぎない。 しかし、鉄道事業者は余分な手間や費用をかけているわけではないのに、中古車両を購入したことで沿線外から利用者を呼ぶ効果を期待できる。沿線外需要といっても微々たるものかもしれない。それでも、座して死を待つわけにはいかない。生き残りのために、できることはやる。そんな気概も感じられる。 コロナ禍や少子高齢化で苦しむローカル線の先行きは決して明るいとは言えないが、譲渡車が地方で奮闘を続けることは微かな光明なのかもしれない。
2022.04.17 07:00
NEWSポストセブン
ANA芝田浩二新社長は、今後の戦略をどう見据えているのか
ANA芝田浩二新社長が宣言「需要の増減に対応し、黒字化を目指せる」
 コロナ禍で世界中の旅客需要が瞬く間に蒸発した。以来2年、航空業界もまた、回復途上にある。そうしたなか、2大エアラインのひとつであるANAホールディングスではこの4月にトップが交代し、芝田浩二社長(64)の新体制が始動―─どのような反転攻勢を見据えているのか。 2021年3月期のANAホールディングスの決算は、コロナ前(2019年3月期)に比べ売上高は約3分の1弱まで縮小し、1650億円あった営業利益は一気に4600億円超の赤字に沈んだ。2022年3月期も、第3四半期に黒字まで漕ぎつけたが、第4四半期はオミクロン株蔓延で再び苦戦、通期での赤字は避けられない。芝田新社長にとってはまず、年間での黒字達成が大きな課題となる。そこで同氏に、難局をいかに打破し、必達目標の黒字化を実現するのか取材した。──3年目に入ったコロナ禍にロシアのウクライナ侵攻という地政学リスクも加わり、難しい舵取りでの船出となりました。芝田:社長指名を受けた時、この先も二難、三難という思いでしたが、2月末にウクライナ戦争が起きて八難ぐらいになったような、非常に厳しい環境認識は持っています。ただ、航空業界には様々なリスクが付きもので、古くは中国の天安門事件しかり、その後もアメリカの同時多発テロ、SARS、リーマン・ショック、東日本大震災などの逆境に遭遇しましたが、その都度、我々は自分の足でしっかり立って克服してきた歴史があります。──黒字化に向けて足元の手応えは。芝田:国内線に関してはかなり需要が戻りつつあり、このままいけば夏にはコロナ前の需要水準にほぼ戻るのではないかと見ています。国際線も、向こう2年ぐらいかけてコロナ前に戻るのではないか。ただ国際線の需要回復は少し読みづらい。日本の入国緩和政策だけでなく、外国の政策も揃わないと本格的な回復軌道に乗ってこないからです。需要の戻り方も、ビジネスとレジャー、インバウンドとアウトバウンドとがあるなかで、現状では訪日のインバウンド需要の戻りが一番早いという仮説を立てています。 この2年のコロナ禍で学習し、機材手当てを中心に供給調整にグリップを利かせてきました。需要の増減に柔軟に対応すれば、国際線の収益も十分に担保していけるはず。新たな問題はロシアのウクライナ侵攻です。我々もロシアの領空を飛ばない迂回ルートを採っているため、飛行距離が伸び燃料費が高くなります。この状況が続くようであれば、お客様に運賃値上げのご負担をお願いすることになる可能性もある。 目下、我々のビジネスを下支えしているのが貨物事業で、2021年度の第3四半期までの実績で言えば、航空事業全体で貨物が占める割合は51%に達しています。今後の中期的な戦略上も重要なビジネスになる。──キャビンアテンダント(CA)を中心に現在、異業種約300社に1700人が出向しています。今後の出向者の復帰や採用の予定は。芝田:まず、受け入れ先の企業様と、出向者のがんばりに感謝したい。そして出向者には、“新しい風“を吸収して帰ってきてほしいと願っている。外部で得た知見やスキルは復帰した際に当社の業務にも反映できるでしょう。 出向者は、誤解を恐れずに言えば“出稼ぎ”により生産力の調整をしてもらっているわけですから、機材のやりくり同様、人材面の需給調整も需要回復が本格化し次第、呼び戻していきたい。そのためにも、しっかり黒字を見据えた予算を作り上げます。ただ、現状ではまだCAの余剰感が若干あるので、新規採用のほうはもう1年見送ることにしました。3ブランドでニーズを総取り 芝田新社長は東京外国語大学出身で、在学中に2年間休学して北京の日本大使館で働いた経験もあり、英語、中国語を自在に操る。全日本空輸(以下ANA)が国際線の定期便を就航させたのは1986年だが、芝田氏は就航先となるワシントンD.C.や北京の支店開設準備、交渉などに奔走。その後も海外エアラインとのアライアンス業務、ロンドン支店長やアジア戦略部長などを歴任し、「入社以来、何かしら国際線に関わる仕事にずっと携わってきた」という社内きっての国際派である。──去る3月8日、ANAやLCC(格安航空)のPeach Aviation(以下Peach)に続く、第3のエアラインブランド、Air Japan(以下AJ)を発表した。3社の連携や棲み分けはどうなりますか。芝田:就航は事業環境を鑑みて2023年の後半と当初の構想より後ろ倒しにしました。Peachは香港など3~4時間圏内の都市をカバーしますが、今後は東南アジアやオセアニアなど7~8時間圏内の訪日需要をさらに喚起したい。そのために、従来から中距離路線向きのボーイング787型機を運航していたAJを活用することにしたのです。 PeachとAJは完全に棲み分けできますが、フルサービスキャリアのANAとAJは切磋琢磨して、お客様の選択肢を広げてほしい。多様化しているニーズを、ANA、AJ、Peachの3ブランドで総取りするつもりで各社、踏ん張ってもらいたいと思います。 AJは、できるだけPeachに近い価格設定をしたうえで、食事をはじめとした有料機内サービスは、お客様にトッピング式に選択していただくような尖ったサービスを考えています。 一番こだわったのが座席仕様で、東南アジアに就航しているエアライン各社の状況や搭乗されたお客様の声を、つぶさに調査してきました。一度乗ったらまた乗りたくなる、そんな座席の仕上がりになると思いますので、ぜひご期待ください。一方で、コストセーブに関してはPeachが培ったノウハウを活用していきます。──今後は3社で共同運航(コードシェア)していくケースも増えていく?芝田:今後検討していく内容になるものの、必ずしもコードシェアをしていく必要はないでしょう。何より、お客様に自由に3ブランドから選んでいただくことが大事です。例えば、若年世代で元気がいい時は多少、座席が狭くとも低価格のPeachを選び、その分、渡航先のホテルやアクティビティに回したいという方もいるでしょう。 一方、シニア世代でお金にも時間にも少し余裕がある方は、ゆったりとANAのフルサービスで寛いでいただく選択肢があります。3社をTPOで使い分けていただく。そうして航空・非航空事業を含めたトータルサービスの横串となるマイルをフックに、各シーンに応じてANA経済圏で回遊していただきたい。──コロナ禍以降は、非航空事業を拡大する必要にも迫られました。芝田:2013年に持ち株会社体制に移行したのは、新規事業を本格的に育成していくことが主眼でした。以来約10年、正直遅れは感じていますが五合目ぐらいまでは来ているのかなと。展開の順番で言いますと、分身ロボットのアバター事業、メタバースの仮想空間旅行、次いでドローンや空飛ぶクルマの事業になります。 仮想空間旅行で期待するのは、実は国内より海外のお客様です。例えば、東南アジア・欧州ではまだ足りないANAのブランドバリューや認知度を、さらに上げていきたい。このメタバースビジネスは、今年度中にも正式なサービスインにもっていく予定です。JALとの切磋琢磨 旅客需要蒸発の大打撃は世界の航空再編にも繋がった。韓国で大韓航空がアシアナ航空を吸収合併したのが一例で、公正取引委員会も条件付きながら認めている。翻って日本では、アメリカの同時多発テロ勃発翌年の2002年、日本航空(JAL)が日本エアシステム(JAS)と経営統合したことで大手3社体制が崩れ、2010年にJALが破綻した時に続き、今回のコロナ禍でも再編論議が再燃した。──将来的な日本の空の競争環境はどう考えるか。芝田:お客様の立場からすれば当然、選択肢があったほうがいいわけで、大手2社が併存していくべきだと思います。韓国のような再編事例もありますが、アメリカもヨーロッパも大手エアラインは3社ありますし、日本の空も2社を許容できる余力は十分にあるんじゃないでしょうか。 少なくとも現在の環境下では、我々とJALさんとで切磋琢磨し、お客様に利便性を提供していきたいというのが私の思いです。特に国際線を考えますと、1社体制で世界中にネットワークを展開することは難しい。現在は海外エアラインとのアライアンスの勝負にもなっているからです。 目下グローバルな航空アライアンスは、当社が所属するスターアライアンス、JALさんが加盟するワンワールド、それにスカイチームの3つがあります。仮に日本の航空会社が1社体制になった場合、少なくとも短期的にはアライアンスの強みが活かせません。 今年で創業70周年。ヘリコプター2機の小さな会社でスタートしたANAグループの中には、逆境下でも知恵を絞り、創意工夫して単独で解決策を見出していくDNAや精神が、まだまだ脈々と生きていると思っています。皆様にとってなくてはならないエアライングループという存在になれるように頑張ってまいります。聞き手/河野圭祐(ジャーナリスト)※週刊ポスト2022年4月22日号
2022.04.12 11:00
週刊ポスト
韓国・水原にあるサムスン電子の半導体工場。2007年(AFP=時事)
70代元家電メーカー技術者の悔恨「メイド・イン・ジャパンを放棄してはいけなかった」
「ものづくり」という言葉が日本の製造業の強さとして、さかんに世の中で言われるようになったのは1990年代後半のこと。団塊の世代がいっせいに定年を迎える「2007年問題」が取り上げられ、技術の継承が危ぶまれたこともあって注目をあびるキーワードとして浮上した。だが世間の耳目を集めたときにはすでに遅かったらしく、そのとき技術者たちは日本の製造業の隅へと追いやられた後だった。俳人で著作家の日野百草氏が、日本の「ものづくり」がどのようにして弱体化させられたのか、製造業の技術者として働いていた人たちが現場で見たことを聞いた。 * * *「よいものを作れば評価される時代がありました。それが儲かるだけのものに変わり、インチキしか作れなくなり、最後は関係ない仕事をしていました」 筆者が教えるシニア向けの趣味サークルで語ってくれたのは70代の元技術者、出会った当時、といっても4、5年前だが「あの製品は私も手掛けてましたよ」と聞いて筆者は色めき立ったものだ。彼は家電メーカーの技術者だった。そう、かつての日本はあらゆる「ものづくり」で世界のトップに立っていた。「あの時代、現場の技術者は次々とリストラされました。業界そのものを見限ってビルメンテナンスとかタクシー運転手とか別の分野に行ったのもいましたが、運良く腕を買われて中国や韓国の企業に手を貸した技術者もいましたね」 柔和に笑う元技術者、70代は逃げ切りのように思われるかもしれないが、理系技術者に限れば、決してそうではなかったという。「1980年代まではよい製品を作ればいい、ただそれだけでした。でも技術屋なんて本来そんなものです。会社が権力争い、出世競争をしていても私たちは蚊帳の外で、むしろそれでいいと思ってました。技術畑で出世する人なんて少ないし、まして一般(家電)でしょう、上が変な投資をしたって、技術を切り売りしたって止めようもない」 詳細な経緯は本旨ではないため割愛するが、彼が工学の知識と経験で技術者として食ってきたことは確かだ。それは1990年を過ぎたあたりから怪しくなったという。「多くのメーカーに銀行が介入してくるようになりました。うちもそうです」 経営立て直しの名目で銀行から出向してきた連中はもちろん、よくわからない経営コンサルタントも送り込まれてきた。「銀行から来た連中はコストカットが目的、よい物を作らなければいけないのに、よい物を作るなと言ってくる。とにかく金をかけずに、よい物でなくてもいいから売れるものを作れと。また営業は消費者の声ではなく大手家電量販チェーンの声を聞くようになりました。お金を調達するために銀行の言いなり、作ったものを置いてもらうために家電量販店のいいなり、それでうまくいくならともかく、ジリ貧になりました。コンサルも高い金をとって引っ掻き回すだけ、いよいよというときにはちゃっかり逃げてました」 もちろんそれだけが原因ではないかもしれない。時代の変遷もあるだろうし、そもそも会社の経営ミスも重なっただろう、しかし彼は納得できないと語る。「元はと言えば出世した営業や事務方がよくわからない投資や多角経営を繰り返したあげくの経営難でしたから、それで最初に詰め腹を切らされるのが技術屋って、納得できるわけがありません。海外生産、資金調達も含めた合弁という名目で中国や韓国といった当時の途上国に技術提供もしました。私も実際、教えに行きましたよ」隙間家電が多かったサムスンもLGも今や世界企業 思えば日本企業は高度成長期以降、韓国や中国に技術を提供し続けた。冷戦下の1970年代、韓国のサムスン電子は五流企業で簡易な半導体すらまともに作れず、LSIは不良品ばかりだった。「日本を目指したんですよ、VLSIを日本に学び、日本を抜くってね」 そんなサムスンに1970年代から1980年代にかけてNECとシャープが協力したことは歴史上の事実である。世界の半導体メーカー上位10社中6社が日本企業だった時代もあったが、いまやサムスンは半導体メーカーとして世界一、コロナ禍にあっても2022年1~3月期の連結営業利益は世界的な半導体需要で前年同期比50%増となった。 また1990年代に入ると韓国だけでなく中国にも工業技術や生産システムを教えた。三洋電機はいち早く安寧省の合肥市と合弁事業を展開、その三洋は東芝とともに、当時は得意な製品が電機扇風機、というレベルでしかなかった中国の美的集団(ミデア)にも協力した。「個人的には不安でした。日本企業は1970年代から韓国に協力していましたが、1980年代には韓国もそれなりのものを作れるようになってました。たとえばゴールドスターの再生専用機とかテレビデオとか、なるほど値段なりとはいえよく作ってると思いましたよ」 ゴールドスターといっても若い人は知らないだろうが、現在のLG(LGエレクトロニクス)である。いまや世界に100以上の拠点を持つ多国籍企業だが、当時は「ラッキーゴールドスター(金星社)」という社名だった。LGはそのラッキーのLとゴールドスターのGである。いまはなき第一家電(2002年経営破綻)や新栄電機産業(2003年破産)といった家電量販店のはしりともいえるチェーン店でよく見かけたものだ。「メーカーを追い出されたり、独立して小さな工場を経営したりの技術者が中韓の仕事を請けてましたね。隙間家電(ジェネリック家電とも)が多かった。テレビデオとか1ドア冷蔵庫とか。それがいまやサムスンもLGも世界企業ですからね」 そんな1970年代から1990年代に現役技術者としてものづくりをしてきた彼にとって韓国はもちろん、とくに中国の躍進は感慨深いと話す。「あんなに繁栄するなんてね。私が中国に初めて仕事で行ったときなんて本当に貧しくて、みんなボロボロの自転車を漕いでましたよ。人民服はもちろん下着でウロウロしているお爺さんとか普通で、電機やガスすら通ってないような集落とかありました。着の身着のまま、畑で取れたものを食べるだけの家族とかね。それがコロナ前に旅行したら未来都市みたいになってるんですから、たった30年であんな風になるとは想像しませんでした」 深センなどまさにそれだろう。世界的なメガシティをいくつも抱えるまでになった中国、いまや日本の新幹線が中国の新幹線として走り、日本の造船は中国のコンテナ船となって世界を駆け巡る。それらは輸出もされている。家電にいたってはハイアール(海爾集団)が三洋電機を吸収して「アクア」ブランドとして世界最大の白物家電メーカーとなり(旧三洋電機の海外工場の一部はTCL集団が買収)、東芝の白物家電はマイディア(美的集団)、映像部門はハイセンス(海信集団)に、NECと富士通のパソコン部門はレノボ(聯想集団)、パイオニアはBPEA(中国の投資ファンド)にそれぞれ吸収、あるいは傘下となった。教えていたはずが、立場が逆転してしまった。「ハイアールなんて1980年代はいつ潰れてもおかしくない会社だった。共産主義しか知らない人たちでしたから、会社経営とか資本主義をよく知らないわけで、全部日本が教えたようなものです。それがいまや世界企業、中国も超大国ですからね」 たった30年で逆転した。国際的な信用はともかく政治力、経済力、国際競争力のすべてにおいて最強、世界経済は米中二大国によるパワーゲームとなった。「メイド・イン・ジャパンを放棄してはいけなかったんです」孫に工学部なんて私は勧められません「メイド・イン・ジャパンは誇りでした。それがコストに見合わないから手を抜けとなり、手を抜きたくないのに予算を削られて、目をつけられれば営業にまわされる。営業も立派な仕事ですが、技術者にやらせるべきことは他にもあるでしょう。海外生産は仕方ないにしても、メイド・イン・ジャパンの技術だけは守らなければならなかった。それなのに、目先の利益と老後の逃げ切りだけを考えた経営陣や事務屋に滅茶苦茶にされたのです」 こうした技術者の受難は1990年代以降、日本の「ものづくり」衰退と比例するかのように繰り返されてきた。「飛ばされた先の若い上司に『みなさんパソコンを学ぶように』って言われたときはさすがに苦笑しました。なにを偉そうに、俺たちはパソコンどころかマイコンそのものを一からはんだで作ってたぞ、って。まあ、リストラのための嫌がらせなのでしょうが」 もちろんパソコンが得意どころか黎明期から仕事道具でもあり趣味でもあった技術者ばかり、年齢だけでこうした判断をすることはエイジズムと呼ばれるが、これはおっしゃる通りの嫌がらせだろう。日本企業は失われた30年、まるで粛清のように「追い出し部屋」と呼ばれる部署に追いやったりもした。日本IBMやリコーなど名だたる企業がこの件で敗訴したが、研究者や技術者も無縁でなかった。ものづくりのプライドをズタズタにされた。それでうまくいったのなら構わないが、その場しのぎのリストラに過ぎなかった。多くのメーカーが中台韓の傘下、もしくは事業そのものの切り売りを続ける羽目となった。「孫は国立の医学部に行きました。工学部なんて勧められません。それでも工学やりたいのなら日本なんて早めに脱出したほうがいいですね。いや、医療以外の理系全般かな」 ものづくりの大先輩からこうした声を聞くのは悲しいが、現実であり実感なのだろう。ノーベル物理学賞の眞鍋淑郎博士に「I don’t want to go back to Japan(私は日本に戻りたくありません)」とまで言われてしまった日本。本稿はただ一人の技術者の話かもしれないが、現に日本の理系の現場が蔑ろにされ続けてきたことは事実。蔑ろといえば理研が600人の研究関係者を雇い止めにする、事実上のリストラをすることについてはどうか。「驚きません。日本はそういう国ですよ。私もそうでしたから」 メーカーがわかってしまうため詳しくは書けないが、研究所と企業の違いはあるにせよ、彼もそうした目に遭ってきた。「理研に入れるってすごいことですよ。私の大学の出身者にもいますが頭の作りが全然違う。研究主宰も(雇い止めの中に)いるのでしょう? その下の研究者も含めて海外に出るでしょうね、日本企業は年食った研究者や技術者、とくに基礎(科学・研究)は雇いませんから。日本が心配ですよ」 彼の部下にも海外に出てヒット製品を手掛けた技術者がいたという。その方にとっては生活のためだがリベンジマッチの意味もあったのかもしれない。それにしても、これが理研クラスの研究者で、時間は掛かるが世界を覆すような研究をしていた研究者だったら、と想像すると恐ろしい。「私の話は小さな話かもしれませんが、そういうことをするから他国に技術が流れるんですよ。そんなことを国や(日本の)企業が30年間繰り返した結果が、いまの日本です」 4月6日、日本の半導体を中心とした基幹インフラの供給、先端技術、機微技術を保護する経済安全保障推進法案が与野党賛成多数で可決された。この件に右も左も関係ないという点で危機感は感じられるが、案の定「事業者の事業活動における自主性を尊重」という横槍によるエクスキューズがついてしまった。「待遇が悪いのですから流出は止まりませんよ。ずっとそうなのですから。大手だって技術部門の待遇は酷いものです。事務方にすれば『好きなことやってるんだからいいだろ』って感覚です。それで逃げられて、裏切られたとか、何をいまさらですよ」 彼にすればまさしく「何をいまさら」なのだろう。「今だけ金だけ自分だけ」が跋扈して久しい日本、個々人はそれで構わないが、企業や研究機関、ましてや政府がそれでは衰退もやむなし、いまや日本の技術革新力は13位(WIPO・2021年)、科学技術指標によれば主要論文数は10位(文部科学省・2021年)、競争力ランキングに至っては31位(IMD・2021年)である。かつて世界の科学技術を牽引してきた日本が、GAFAMに代表されるような新世代をリードする先端・先進技術どころか旧世代の技術すら世界から取り残されようとしている。日本の宝である技術や研究を売り渡し、冷遇し続けた末路と言われても仕方がない。そもそも経済安全保障を謳いながら理研の600人を雇い止めにしようとしている。以前、拙筆『「理研600人リストラ」に中国人ITエンジニアは「不思議です」と繰り返した』でも書いたが、まったく意味不明である。「現役時代から意味不明でしたよ、経営陣はもちろん、営業や事務方が何をしたいのか私たち技術屋にはさっぱりわかりませんでした。理研の研究者も同じじゃないですかね。それでうまくいってるなら私たちが悪いのでしょうが、傾くばかりだったのですから。ほんと、何がしたかったんでしょうね」 韓非子の「千丈之堤以螻蟻之穴潰」(千丈の堤も螻蟻の穴に潰ゆ)ではないが、彼のような技術者はもちろん研究者、クリエイターといった個々の現場を軽視し続ける愚行、その積み重ねもまた「失われた30年」、日本衰退の一因である。資源大国でも食料輸出大国でもない日本が頭脳を冷遇し、放棄する。それも現在進行形である。本当に何をしたいのか、さっぱりわからない。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.04.11 16:00
NEWSポストセブン
ホテル業界のコロナ禍からの反転攻勢 インバウンドから国内需要に大転換
ホテル業界のコロナ禍からの反転攻勢 インバウンドから国内需要に大転換
 コロナ禍によって大きな打撃を受けたのが、全国に多数点在し、施設維持費や人件費もかかる「ホテル」業界だ。コロナ前は外国人観光客によるインバウンドの恩恵で活況を呈した上に、2020年の東京五輪に向けて「客室不足」が指摘され、大手チェーンを中心に新規開業がどんどん進められていた。それがコロナ禍で水泡に帰した。 海外からはもちろん国内の観光客数も激減。観光庁の統計によると、国内及び海外からの宿泊者数は2020年5月にマイナス85%(2019年同月比)を記録するなど一気に落ち込み、2021年は年間で同5割減(2019年比)だった。 経営維持のために60~80%が必要とされる客室稼働率は軒並み低下。力尽き倒産するホテルは多く、東京商工リサーチの調査によると2020年、2021年に倒産した宿泊業は合わせて200件超。大半がコロナ禍による「販売不振」を原因としている。「厳しかったですね。一番大変な時は前期比で売り上げが8~9割減ということもありました」 そうコロナ発生当時を振り返るのは、「星のや京都」の前支配人で、星野リゾートの都市ホテル「OMO(おも)」京都総支配人の唐澤武彦氏だ。 とはいえ、苦境にただ喘いでいたわけではない。海外からの客がいなくなり、国内観光客も激減した状況を乗り越えるために、感染防止と地域経済を両立する「マイクロツーリズム(自宅から1~2時間以内の旅行)」の推奨へと転換を図った。「例えば星のや京都は首都圏からのお客さまが多かったのですが、コロナ禍で集客は難しい。そこで大阪や兵庫など近隣からのお客さま獲得にシフトしました」(唐澤氏) グループとしては日本全体を11の商圏に分け、ホテルが立地するエリア内に絞った宣伝活動を行なって集客したという。「地方紙などの地元媒体に特化して特別な価格帯での宿泊プランをご案内したほか、ネットでも都道府県名を入力しないと情報が見られないなど、あえてエリア外の方に対してクローズドになるようにお値引き情報を提供しました」(唐澤氏) 料理では地元食材を使うだけでは近隣県からの客へのウリにならないため、調理法を大胆にアレンジするなど工夫を重ねた。その結果、2020年夏頃には危機を脱するまでに客足が戻ったという。「以前はインバウンドで埋まっていた需要がマイクロツーリズムに入れ替わった印象です」(唐澤氏) 今後、期待されるリベンジ消費についてはこう自信を覗かせる。「かなり見込めるのではないかと。弊社としては“明けの贅沢”をテーマに、これまで我慢を強いられてきた分、お金をしっかり使って贅沢に滞在を楽しんでもらえるよう、施設ごとの魅力づくりを考えているところです」 ホテル評論家の瀧澤沢信秋氏はアフターコロナのホテル業界について、「回復しても状況はまるで違う」と指摘する。「仮にインバウンド需要が戻ってきても限定的でしょう。『生き残れるかどうか』が主題となり、各ホテルは万人受けするプランではなく、ターゲットをかなり絞っています。 例えば帝国ホテルは2021年2月、格式の高さを逆手に取るような価格(30泊36万円~)の『サービスアパートメント』を100室で開始、即完売の大ヒットとなりました。現在はタワー館全体(349室)がサービスアパートメントに変貌しました。ホテルニューオータニは家族でのプール利用を意識したプランを打ち出したほか、『鬼滅の刃』とのコラボキャンペーンも注目されています」 新たに長期滞在型プランを打ち出すホテルは多く、テレワークや子供の受験対策向けなどのほか、介護施設と連携し「ホテルリハビリ」(3か月)を売り出したリーガロイヤルホテル大阪の例もある。※週刊ポスト2022年4月22日号
2022.04.11 07:00
週刊ポスト
6年7カ月ぶりに1ドル=124円台を付けた円相場を示す電光ボード。2022年03月28日(時事通信フォト)
悪しき円安と値上げの春 日本の「買い負け」はどこまで続くのか
 2022年の春はau携帯の3G停波、18歳成人など様々なトピックスがあるが、誰にでも関わりがあるのは「値上げの春」だろうか。パンやパスタ、ハム、ソーセージに油、文具やトイレットペーパーなど様々な分野で大手メーカーが値上げを発表している。公正取引委員会は、下請けなどに対して価格転嫁が適正に行われているか緊急調査を始めると発表した。俳人で著作家の日野百草氏が、商社マンに「悪しき円安」で買い負けがつづく日本の弱さについて聞いた。 * * *「悪しき円安を本当になんとかしないと、日本の一般国民は値上げで大変なことになりますよ」 円安を憂い続ける筆者旧知の商社マンA氏(40代)、中堅専門商社のバイヤーだけに、日々の円安と日本の買い負けがダイレクトに響いてくる。最初に円安の被害に遭う立場と言ってもいい。そんな彼が訴えたいのはまさにその「悪しき円安」のこと。「一部のアナリストが『戦争でドルと円が高くなる』なんて言ってましたけど、見事に外してます。現場も知らずに数字の羅列ばかり。それに『有事の円買い』なん今や昔ですよ」 確かに、筆者の知るアナリストやら○○総研やらの一部は、ロシアのウクライナ侵略により3月はドル高、円高になると予想していた。「1ドル116円台に上昇する可能性」なんてリリース資料も虚しい限り、結果でとやかく言うつもりはないが、現実は3月28日に東京外国為替市場で一時、1ドル125円台をつけた。以降も120円台で推移している。1ドル=125円前後は、2015年に日銀の黒田東彦総裁が「ここからさらに円安に振れることは、普通に考えるとなかなかありそうにない」と発言したことから市場関係者の間で「黒田ライン」と呼ばれてきた。それが常態化しつつあるのだ。「そもそも円安は対ドルだけではないんです。当時と違うのはそこですね」 125円といえば1992年の円相場と同じ、30年間賃金の上がらない日本は、ついに円相場も30年前に戻ってしまった。主因は日銀が長期金利上昇を嫌って10年物国債利回りを誘導する買い入れ「指し値オペ」を繰り返したことによるものだが、その是非はともかく円は1990年前後の水準まで(短期的にはそれ以降も別の要因で円安はあったが)戻ってしまった。また対米ドルだけでなく円は軒並み(ユーロは弱含みだが)安くつけている。買い負ける円安です「同じ額でも当時の円安とは違います。物価も違いますしね。国の実力、衰退そのままに円の価値が下がっている今は悪しき円安でしょう。買い負ける円安です」 これについては『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』『なぜポテトはSのままなのか 日本の港がコンテナ船にスルーされる現実も』『ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ』と昨年末からこれまで一貫して取り上げてきたが、すべての元凶は「悪しき円安」にあり、それによる「買い負け」と国力の衰退にある、という論は互いに一致している。「自動車を輸出しているのだから円安歓迎なんてとんでもない。日本はその自動車すら部品も、その資材や素材も輸入しているのですから。日本は輸入大国なんです。海外でノックダウン生産するにしても同じことです。一から自国で調達できないのですから」 米を除く主要穀物(大豆、小麦、トウモロコシ)の90%、主要エネルギー資源(石油、石炭、天然ガス)および鉱物資源(銅、亜鉛、ニッケル、ベースメタル、レアメタルなど)のほぼ100%を輸入に依存する日本で円安が進めば、それはみなさん肌身で感じている通りの物価高に直結するのは自明の理である。物価高どころか半導体や電子部品のようになれば「欲しい物が手に入らない」状態に陥る。現に納期遅延、受注中止とそうなりつつある。「経常収支が赤字なんです。つまり日本自体の力がない。アメリカとの金利格差もありますが、かつての円安とは違うんです。まさに、買い負ける円安です」 2月の貿易統計は6683億円の赤字だった。思えばこの「買い負け」、筆者もこれまで日本が「買い負け」するとは夢にも思わなかった。日本は経済大国で、円安だろうと円高だろうと景気がよかろうと悪かろうと欲しい物を市場で手に入れられると当たり前のように思ってきた。買ったものを日本に運んできてもらうこともまた、当たり前のように思ってきた。それがいまや他国に買い負け、船すら他国に取り負けるどころか港に寄り渋られて、予定した寄港を取りやめる「抜港」までされる体たらくだ。「昔は『1ドル200円とかだった』って言う年寄りもいますけど、国内製造中心で冷戦下の環境とは違いますからね。東側諸国が最初から経済競争を放棄しているような時代の日本とは違いますよ」 冷戦崩壊後、イデオロギーによるディスアドバンテージを負っていた旧東側の国々も資本の国際競争に参入してきた。もちろん最大の勝ち組は中国、13億の人口と圧倒的な資源、高い自給率を誇る豊富な食料、300発の核兵器、その上で積極的に日本から資本や技術を取り入れて21世紀の新大国に名乗りを上げた。日本はその中国を下請けに使いながらも買い負け続けるという不思議な負け戦にハマってきた。その立場もいまや逆転しかけている。「企業はコロナ禍もあって生産の一部を国内回帰に転換し始めています。農業も輸出を奨励するようになりました。しかし工業も農業も、まず作るためには輸入しなければならない。いますぐ物が不足するとか飢えるとかの話ではありませんが家計は直撃します。少数の大金持ちはいいんです。どうなったって大金持ちは強い。でも日本の一般国民の大半は私も含めて庶民でしょう。庶民の家計は直撃します。食料はもちろん、電気やガソリンだって為替相場と無縁ではありません」対ドル150円になったらギブアップする企業も続出するでしょう 21世紀に入ってしばらく、激安に慣らされた日本人にとって近年は経験したことのない値上げの嵐、そしてそれは現在も進行中である。「たとえばゴムなんかも顕著ですね、10%くらい上がってるんじゃないですか」 ゴムというと車のタイヤをすぐに思い浮かべるが、シリコンやバイトン(フッ素ゴム)などもあり、たとえば弁当のパッキンや食品のゴム容器(食品衛生法適合材に限る)もゴムである。「食品そのものの値上げもそうですが、容器もコストがかかるんです。ナフサなんかも高いですね」 ナフサとは合成樹脂の原料で、これも石油製品である。牛乳パックは紙だから関係ない(紙も高騰しているが)と思いがちだが、パッケージには合成樹脂が使われている。私たちの生活、そのほとんどは海外に依存している。日本がロシアのような制裁を受ければ半年持たないだろう。「そんな日本が円安容認ですよ。まして戦争でも円が高くならない。いままでと違う『悪しき円安』なんです。これから何もかも値上げするでしょうし、うちも買い勝つためにはそれなりの値で買いつけるしかありません。事業参入先も新規開拓が必要でしょう。最近は値上げ基調からか顧客の理解も得られるようになりました」 より安く、より良いものを、という一般客に対して企業は安売りをするしかなかった。そのために中間業者はもちろん生産者に無理を頼むしかなかった。それがコロナ禍と戦争、そして日本そのものの円安も含めた弱体化により値上げをするしかなくなった。この流れは止まらないだろう。「いまは120円台ですが、私は対ドルで150円くらいの円安はあると踏んでいます。そうなったらギブアップする企業も続出するでしょうね」 1ドル150円は内外の投資家も警鐘を鳴らしはじめている。先の円安予想のように逆の意味で外れてくれればありがたいが、悪い方の予想は得てして当たるもの。国力が衰え、賃金が上がらぬままにインフレが進めば、景気停滞と物価上昇が同時に進行するスタグフレーションが起きかねない。スタグフレーションといえばアルゼンチン、知らない人は笑うだろうが、かつてアルゼンチンは欧米が警戒するほどに裕福な経済立国だった。重度のスタグフレーションに陥れば、資源も食料も他国頼みの日本はアルゼンチンのように凋落する可能性がある。軽度ならかつてのイギリスだろうか、凋落は仕方がないが、せめてこの程度にはとどめたい。 黒田東彦日銀総裁は3月25日の委員会答弁で「円に対する信頼」は失われていないと述べた。円安が日本経済にプラスという姿勢もいまだ崩していない。かつて円安は「125円まで」とそれ以上の円安はありえないと語った総裁の手腕やいかにだが、大本営発表とは裏腹に、私たち一般国民の生活は円安と買い負け、物価高とそれを無視するかのような増税で厳しくなるばかりだ。 総裁、この円安、本当に容認していいのだろうか。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.04.09 07:00
NEWSポストセブン
熱弁をふるったアパホテルの元谷芙美子社長
アパホテル元谷芙美子社長が語る「コロナ禍で10億円黒字達成」の経営手法
「GWは全国どこのホテルも予約でいっぱいやわ。嬉しいわ~」と、満面の笑みで語るのはアパホテルの元谷芙美子社長。ビジネスホテル最大手のアパもコロナ禍で新規戦略を次々と打ち出した。2020年には、約2か月の期間限定で「1泊2500円」という破格プランを提供した。 最大手の一角であるアパも、2020年11月期の経常利益は前期比97%減という大打撃を被った。それでも約10億円の黒字という業績をあげたのは、創業者である元谷夫妻が続けてきた独自の経営手法によるものかもしれない。その一端は、コロナ感染者のホテル療養のため、進んで施設を貸し出した話にも表われている。 夫で会長の外志雄氏のもとに、政府から宿泊療養受け入れ依頼が来たのは2020年4月2日だった。「私は自宅で横にいましたが、即断即決しました。業界をリードする者の矜持というか、『協力させてほしい』、と。それからは数万室もある予約済みのお客さまに他所にお移りいただく手続きをし、受け入れ施設周辺の住民の方々の不安解消のために私やホテル支配人、建築士まで表に出て説明したりと、やることが山積みでした」(元谷氏) 当初はワクチンもない頃で「未知の感染症」のイメージが強く、周辺住民などからの反対の声や風評被害は大きかったという。しかし、最終的にはその決断が、経営的にもプラスになったと元谷氏は言う。「オープン前の新築ホテルを貸し出したことで、療養者の皆さんに喜んでいただけた。特にこれまで泊まったことがない20代の若い方が宿泊療養をきっかけに新たにリピーターになってくれました。この間、新規会員は20万人増えたんです」 客数が増えただけではない。コロナ禍を奇貨とし、非接触型の「1秒チェックイン機」の全館導入、自社予約サイト・アプリ「アパ直」のサービス拡充など、運営面の効率化が進んだ。 今年だけで東京や大阪、新潟などを中心に計17棟のホテルの開業が予定され、来年以降も新規開業が続く見込みだ。これらはコロナ前からの計画通りだという。「『どうしよう』と言っていたら座して死を待つだけ。手を打ち、明るい方針で頑張らないと。こういう時こそ社長としての器が試されるので、どんどん攻めていかなければと思います」(元谷氏) すでに15道県で実施されていた都道府県版Go Toトラベル「県民割」は「地域ブロック割」に対象が拡大された。大型連休を前に全国で本格実施となれば、予約が取れない日はすぐそこに来ているのかもしれない。※週刊ポスト2022年4月22日号
2022.04.08 19:00
週刊ポスト
ANAホールディングス新社長に就任した芝田浩二氏
ANAHD芝田浩二新社長「最も印象深かった仕事は天安門事件の邦人救出」
 航空会社のANA(全日本空輸)などを傘下にもつANAホールディングスの新社長に、代表取締役専務執行役員だった芝田浩二氏(64)が4月1日付で就任した。コロナ禍とウクライナ危機による向かい風を受けるなかでANAホールディングスを率いることになった新社長が自身のこれまでのキャリアで印象深かった経験を振り返った。 東京外国語大学に進学し、在学中に北京の日本大使館に勤務した経験もある芝田氏。4月8日発売の本誌・週刊ポストでは、コロナで大打撃を受けた企業の復活への取り組みを特集し、そのなかで芝田氏がインタビューに応じた。取材現場では、入社後の自身のキャリアについて「ずっと何かしら国際線に関わるような仕事をやってきた」と振り返った。 「1983年から1990年まで営業本部国際部に所属していたのですが、自分にとってそこでの7年間は非常に思い出に残る時代でしたね。国際定期便を飛ばす前の下ごしらえなどをやっている部署なんですが、チャーター便で起きるいろんな課題を1つ1つ解決していくのが主な仕事でした。 1986年にはワシントンD.C.への定期便の就航が始まったわけですけれども、その時は実際にワシントンに出向いて支店の設営を現地の人と一緒にやりましたね。事務仕事だけではなく、本当にフィジカルな仕事を2か月ぐらい、やらせてもらったりもしました」 その翌年の1987年にANAは、中国路線の就航を開始した。「前年の1986年から、定期便の就航に向けて着々と準備を進めておりました。当時、中国の副首相だった李鵬さんのところにも、弊社は陳情に行ったりしているんですよね。そのときも通訳兼事務方として同行しました。会談の様子や内容について、今日はこうだったとか、細かな点まで毎日レポートを書いていました」(芝田氏) ANAの中国路線が始動してからわずか2年後の1989年に、天安門事件が起きる。その翌日には、日本政府が北京に滞在する日本人を救出するために救援機を出すことになり、ANAもチャーター便を手配することになった。 芝田氏は「このときの仕事が一番思い出深い」と話す。「あの時、ANAもJALも北京に救援機を飛ばすわけです。私はその迎えに行く飛行機に羽田から乗って行きました。今までにも数々の出張を経験していましたが、これが一番、ある意味、緊張しました」 その後も、同時多発テロ、SARSの流行、リーマン・ショック、東日本大震災と、数々の困難に直面し、乗り切ってきた。「自分たちの脚でしっかり立って、壁をひとつずつ乗り越えてきた。そういうANAのDNAっていうのは、社員一人ひとりの中に根付いていると思っています。工夫を凝らして、なんとか解決策を見いだしていくという気持ちは、脈々と受け継がれているはず」 新社長芝田氏はANAのDNAを存分に開花させることができるのか。重責を担うことになる。
2022.04.08 07:00
NEWSポストセブン
スーパコンピューター「富岳」で知られる理化学研究所計算科学研究センター(時事通信フォト)
「理研600人リストラ」に中国人ITエンジニアは「不思議です」と繰り返した
 国立研究開発法人の理化学研究所の労働組合などが、約600人の研究者が雇い止めとなる可能性があるとして、文部科学相と厚生労働相あてに要望書を提出した。近年は、日本人のノーベル賞受賞者がまるで口をそろえたように、日本の科学力の低迷と研究環境の悪化を訴えてきたが、歯止めどころか拍車がかかっているような出来事だ。俳人で著作家の日野百草氏が、中国人技術者が日本の研究者や技術者の環境をどう見ているのか聞いた。 * * *「日本は優秀な人がとても安いと思います。なぜ辞めさせるのですか」 筆者の旧知の中国人技術者から話を伺う。ITエンジニアでゲーム開発にも精通している。中国人のエリートならごく当たり前だが4ヶ国語を話せて日本語も堪能だ。しかし本稿、それでも文章化する際にそのままでは差し障るため逐次こちらで改めている。「優秀でない人が安いのは当たり前ですが、日本は優秀な人も安い」 話は理化学研究所(理研)の研究系職員が組合などの試算で2022年度末に600人雇い止めになる件、労組が理研および文部科学相と厚生労働相に撤回を求めているが先行きは厳しい。理研に限らず、日本が国際的に見ても研究者、技術者、クリエイターといった立場を冷遇し続けていることは周知の事実だ。「とくに日本人は安い。技術も経験もあるのに安くて、何にもない若い人を欲しがりますね、不思議です」 彼はずっと不思議だったと話す。これは中国人だけでなく海外の技術者、クリエイターも筆者の聞く限りは日本に対して同様の感想だ。筆者は昨年『アニメやゲーム業界「日本人は安くて助かります」その由々しき事態』で主にエンタメを中心にした日本人クリエイターの賃金の安さとその実態を書いたが、これは技術者や研究者にも当てはまる。「優秀な人が安かったり辞めさせられたり。とても不思議だと思っています」 なぜ辞めさせるのか、これは筆者も不思議で、せっかく育てた技術者や研究者をいとも簡単に辞めさせる、辞めさせなくとも専門技術と関係ない部門に追いやり、辞めるように仕向ける。これは30年上がらない平均賃金と平行して理系専門職に繰り返されてきた。「そんなことはない」という組織の方々は幸せな話で結構だが、現実には日本の名だたる大手企業や研究施設、大学といった「技術者・研究者こそ宝」の現場に続く現実である。そして新卒至上主義もまた「新陳代謝」の名のもとに経験豊富なベテランを追いやり続けた。「不思議なのです。欲張りな中国なら放っておきません。それだけの技術や研究の蓄積が一個人にあるのは、まさに宝です」日本は研究者もエンジニアも人権ないですね 大学、大学院、そして研究機関や企業と歩む中で、技術者や研究者はクリエイターと同様に技術や経験、そして実績を蓄積してゆく。そうでない者もいるだろうが、企業や研究機関でそれなりのベテランになった者のほとんどはまさに「宝」だろう。日本はそうした「宝」をこの30年間、合理化とリストラの下に切り捨ててきた。それを欧米やアジア諸国、とくに中国が拾っていった。いまや日中の経済力はもちろん、技術力すら逆転され始めている。「私は門外漢ですが、日本はまた何百人も研究者を辞めさせる。それを中国が手に入れるなんて申し訳なく思います」 少し皮肉交じりで笑う。彼は日本のこういう姿勢が気に入らないとも言っていた。国同士の話ではなく同じ技術者(研究者も含むだろう)として納得できないという。不思議と同時に、怒りもあると。「日本は研究者もエンジニアも人権ないですね」 まさか中国人に「人権」を持ち出されるとは思わなかったが言い返せない。筆者もアニメやゲームに関係していた経験上、現場、とくに日本のアニメの現場がアニメーターに代表されるクリエイターの権利を尊重しているとは思えないからだ。そして現実に、今度は理研という日本を代表する国策研究所の研究者が大量に切られ、おそらくは海外に流出するのだろう。「中国は日本人研究者や技術者のおかげで大国です。本当にありがたい話です」 筆者との仲とはいえ「言ってくれるなあ」と苦々しく思うが、これまでも自動車、精密機械、重電、通信、鉄道、鉄鋼、農業、エンタメ、ありとあらゆる技術や研究は中国に渡った。それは日本で「不要」とされた日本人研究者や技術者が食ってくためはもちろん、それは彼らのリベンジマッチでもあった。たとえば今や世界的家電メーカーである中国ハイアール(海爾集団)の「アクア」ブランド(旧三洋電機)などまさに井植兄弟につながる「三洋魂」の発露だろう。アクアには多くの「三洋魂」の継承者も携わってきた。2000年代、そうした彼らを「使い捨てられるだけ」と嘲笑する向きもあったが必ずしもそうではなかった。「日本はどうかしてます。優秀な研究者をクビにすることは、他国に渡すのと同じです」 中国ではクビのことを「イカ炒め」と揶揄するのだが、彼の言葉もそうした中国語由来のスラングが混じっているため平易に改めている。その「イカ炒め」状態になりかねない理研の研究者、技術者たち600人、その中には多数の研究主宰も含まれている。研究主宰といえばその下で働くスタッフも含めてまさに国の「宝」、いま研究成果が出てなくとも、いずれ日本を救う結果を出すかもしれない。「日本人はノーベル賞受賞を誇りますが、最近は日本国内で研究したわけではないのでは。お金も出さないし大事にされない、みんな日本から脱出してる」井戸だって時間がかかる 資源も乏しく経済的に厳しい日本だからこそ頭脳で食べていかなければならないし、頭脳で食べてきたはずだ。しかし技術は先に書いたように他国に流出し、中国で挙げるなら先に書いたようにハイアールが三洋電機を吸収して世界最大の白物家電メーカーとなり、マイディア(美的集団)は東芝の家電事業を、レノボ(聯想集団)はNECや富士通のパソコン部門を吸収して成長した。日本の新幹線は中国の新幹線として走り、日本の造船技術は中国のコンテナ船となって世界を駆け巡る。誰が売ったのか、誰が教えたのか、怒ったところでそれをしたのは私たちの国、日本である。「はっきりいって、間抜けだと思います」 これも「idiot」という言葉を使っていたが柔らかく「間抜け」と訳させてもらった(本来はもっと酷い)。実際そうだろう、中国や他国が悪いのではなく、日本が技術者や研究者、クリエイターを大事にすれば済む話だった。冷遇したあげくが、いまの体たらくである。筆者が貿易のルポルタージュで常に言及する「中国が気に入らないなら中国より金を出せばいい」と同様である。「中国(この場合は欧米も入るか)に手を貸してほしくなければ、中国(欧米)より厚遇すればいい」という単純な話だ。日中間の話になると愛国云々と威勢のいい方からご意見をいただくこともあるが、現実を直視しなければ差は広がるばかり、現に日本が理研から600人もの頭脳を流出させようとしているのだから。「それにしてもなぜケチるのですか、優秀な人を安く使っているのだからそのまま使えばいいのに、辞めさせたりもする。優秀なんですから、いつ復活するかわかりませんし」 素朴な疑問だがもっともな話、アメリカや中国は優秀な研究者なら金も環境も惜しまない。アメリカはともかく、中国は優秀でない人にはとことん冷たいが、優秀な人には十分な額と待遇を用意する。それが中共の手口だなんだと言う向きもあるだろうが、技術者、研究者、クリエイターからすれば金もケチれば待遇も環境もしょぼいところで成果を求められるよりはマシだ。理研の8割は非正規、もちろんフリーランス研究者の集合体と考えれば非正規でも構わないし、それをあえて選ぶ研究者もいるだろうが、仮に「いらなくなったら捨てられる」は中国も同じというなら、それこそ高額報酬のほうがいいのは当たり前だ。「研究は結果がすぐ出るわけではありません。とくに基礎研究は百年かかるかもしれません。それでも国のためになるなら続けるべきでしょうし、必要な人はとっておくものです。井戸だって時間がかかるのです」 中国人はよくこの井戸のたとえを出す。この「飲水思源」は漢詩の一節だが、確かに井戸はその位置を探して、掘って、古代中国なら何代にも渡ってようやく掘り当てることもあっただろう。しかしそれにより土地の人々は水に困らなくなる。それを忘れるな、と。もちろん解釈はさまざまだが、古くは日本人も長い年月をかけて現在の科学立国、技術立国を築いてきた。それがいつのまにか研究やものづくり、創作の現場に携わる人々がないがしろにされ、誰だかわからない何者かがその成果も利益もかすめ取るようになった。あげくにそれこそ現場が「idiot」(間抜け)呼ばわりされ、かすめ取る者はもちろん現場を操る立場の連中が賢いという扱いになってしまった。極端な言い方かもしれないが、日本の多くの現場に携わる最前線の人たちにとってこの言い方、それほど極端ではないだろう。「雇うお金は安いのにお金を出さないで損をする。不思議です」 筆者も常々思う。日本の人件費および対価など世界的に見ればすこぶる安い。ましてや日本の優秀な研究者や技術者、クリエイターなど世界的には本当に安い。日本がまともに賃金すら払えないような貧国なら別だが、日本政府、研究機関、会社組織はそこまで余裕がないのだろうか。切るということは、他に行くということ、それは敵に渡るかもしれないのに。「やっぱりidiotです」 ちょっと煽り過ぎたか。お酒が入り過ぎたのもあるのだろうしこの辺で制したが、中国人に限らず他国の研究者、技術関係者も日本のこうした研究、ものづくり、クリエイティブに関する信じられないほどの冷遇を不思議がる。資源大国でもなければ食料輸出大国でもない国が頭脳を放棄し続ける、今回の理研600人の雇い止めは、本格的な亡国への道を辿ろうとしているのではないか。 彼と同様に筆者も不思議だ。そして日本の頭脳がまた大量に海外へ流出するであろうことが、本当に恐ろしい。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2022.04.03 16:00
NEWSポストセブン
広島電鉄のグリーンムーバーLEX(左)。超低床車で全扉にICリーダーがある(時事通信フォト)
改札なしの「信用乗車」は広がるか 広島電鉄はICリーダー活用で全扉乗降も
 ヨーロッパ旅行で鉄道を利用したとき、改札がないことに驚いた経験がある人もいるだろう。それでも皆が切符をきちんと購入しており、乗客が乗車券を自己管理するこの方式は「信用乗車」と呼ばれる。ライターの小川裕夫氏が、ICリーダーの積極的導入で事実上の信用乗車での運用が広まりつつある広島電鉄についてレポートする。 * * * 東京都を走る都電荒川線や東急世田谷線、熊本県熊本市を走る熊本市電などは均一運賃制を採用している。つまり、一駅の移動だけでも、端から端まで乗り通しても一乗車分の運賃だけを支払う。 こうした均一運賃制のメリットは、乗車時に運賃の支払いを済ませるので降車時に運賃を精算する必要がないことだ。運賃を先払いすれば、どの扉からでも降車できる。これなら通勤・通学のラッシュの時間帯でも乗降がスムーズになり、それが駅での停車時間を短縮させる。 一方、乗車する距離に応じて運賃が高くなる距離制、乗車した区間に応じて運賃が変動する区間制といった運賃制度もある。そうした距離制・区間制を採用している鉄道で、駅で改札業務・運賃収受をしていない場合は、一般的に後ろから乗車して前から降車する際に運賃を支払うシステムを採用していることが多い。 広島電鉄(広電)は、広島県の広島市・廿日市市を中心に路面電車やバスを運行する事業者として知られる。広電は約19.0キロメートルの軌道線と呼ばれる区間と、路面電車がそのまま乗り入れる約16.1キロメートルの鉄道線があり、これらを合わせると国内最大の路面電車ネットワークを有する。 広電は単に広大な路線網を有するというだけではなく、先取的な取り組みで国内の路面電車事業者をリードしてきた存在でもある。 例えば、広電は定時運行を確保するために広島県警と協力。県警は軌道内の自動車走行を禁じているほか、右折できる場所を限定。これらの施策により、路面電車の運行を阻害しない道路・交通のルールづくりが広まった。それまで道路(自動車)の邪魔者とされてきた路面電車だったが、広島では「路面電車が主役」という概念が定着する。 また、広電は車両の改良にも積極的で、一昔前の「のんびり走る」といったイメージを覆した5000形を1999年に登場させている。 5000形はグリーンムーバーという呼び名で市民に親しまれ、そのスタイリッシュでスピード感のある外観は鉄道ファンや観光客を魅了した。好評な声を集めたことを追い風に、2004年には後継車となる5100形が登場。5100形はグリーンムーバーmaxと呼ばれた。全扉乗降方式を拡大する広島電鉄 広電は軌道線の区間では均一運賃制を採用しているが、鉄道線の区間では距離制を採用している。つまり、ふたつの運賃制を併用しているので、これまでは原則として降車は前方の扉に限られていた。「広電ではグリーンムーバーLEXと呼ばれる1000形のみ、どこの扉からも乗降車できる全扉乗降方式を採用していました。グリーンムーバーLEXは、すべての乗降扉にICリーダーが設置されていたからです。今年3月12日からは、ほかの車両にも全扉乗降方式を採用していくことになりました。少しずつ全扉乗降方式へと切り替えていき、11月には全車が全扉乗降方式になる予定です」と話すのは広島電鉄運行計画課の担当者だ。 グリーンムーバーLEXは2013年に登場した広電の新型車両で、名前からもわかるようにグリーンムーバーの新型後継車だ。 すべての乗降扉にICリーダーが設置されていれば、IC乗車券の利用者はどこから乗り降りしても運賃を支払うことができる。 鉄道の運賃は券売機できっぷを買い、下車駅で自動改札や駅改札員によって収受される。もしくは、利用者が運賃箱に投入するなどして精算する。 ICリーダーの設置によって、利用者が運賃を精算する方式へと切り替わった。これは、利用者に運賃収受業務を委ねたことを意味する。こうした乗車方式だと、無賃乗車や不正乗車が発生する可能性が高くなると言われる。 しかし、鉄道事業者は利用者の良心に全幅の信頼を置き、無賃・不正乗車が起きないことを前提にしてICリーダーの設置を進める。そして、電車の運行に専念する。こうした方式は、信用乗車と呼ばれる。海外の路面電車で、信用乗車は決して珍しくない。広電が導入を進めている全扉乗降方式は、信用乗車に近いシステムといえるだろう。 全乗降扉にICリーダーを設置すれば、当然ながら多額の設置費用が発生する。また、メンテナンス費用も増えるだろう。それにも関わらず、なぜ広電は全扉乗降方式を拡大させるのか?「広電は電車・バスを運行しています。そのほかにも市内でバスを運行している事業者はあります。バスも広島県民・市民にとって重要な足です。しかし、今後は輸送力の高い路面電車が基幹交通を担うことになると考えています。広電は運行している全電車を3両編成もしくは5両編成へと切り替えていく予定です。そのため、スムーズに乗り降りできる全扉乗降方式を全電車で導入することになったのです」(同) 先述したように、これまでの広電の電車は後方もしくは中央から乗車し、前方から下車する方式だった。この方式だと、車内での移動を伴う。車イスの利用者や足の悪い高齢者などにとって、それら車内の移動は多少なりとも負担になる。全扉乗降方式へと切り替われば、こうした負担はなくなる。路面電車はバリアフリーな公共交通と謳われるが、全扉乗降方式によって路面電車のバリアフリー化はいっそう促進される。 さらに、これまではスムーズに下車したいという乗客心理が働くため、電車前方にある降車口に乗客が偏重する傾向が強かった。これでは、それほど客が乗っていない電車でも前方に乗客が固まるという状況が生まれる。それは、トラブルを誘発する原因にもなる。 そして降車口が前方だけに限定されると、どうしても降車時間が長くなる。一方、全扉乗降方式だと降車時間を短くできる。これは、定時運行にも寄与する。 昨今の鉄道業界は、人手不足が深刻化している。鉄道各社はあの手この手で省人化に取り組む。山手線ではドライバーレスと呼ばれる運転士を必要としない自動運転の試験が繰り返されている。全扉乗降方式へと切り替えると、これまで乗務してきた車掌が不要になる。広電は人手不足を解消すること見越して、全扉乗降方式を進めているのだろうか?「すでに全扉乗降方式に切り替えた電車もありますが、これまで通りに車掌は乗務しています。全扉乗降方式は、人手不足を見越した取り組みではありません」(同) いまだ日本国内では馴染みの薄い信用乗車だが、2023年3月に一部区間が開業予定の宇都宮ライトレール(栃木県)は、乗車方式に信用乗車を採用するという。今後は新しい乗車方式として広がっていくかもしれない。
2022.03.27 07:00
NEWSポストセブン
サイレントセレモニーでJR東日本から完全引退した115系。かつて信越本線、青海川駅付近を走行していた当時の様子(時事通信フォト)
鉄道車両の引退セレモニー減 「サイレントラストラン」が増加する背景
 かつて芸能人の結婚報告といえば、ホテルの宴会場を借り切って金屏風の前に2人がそろい、満面の笑みでカメラのフラッシュの放列を浴びる、といった賑やかなものだったが、最近は、それぞれの公式SNSで発表して終わり、あらためて会見をするということは減っている。鉄道車両や列車の引退についても、華々しくセレモニーを開催するよりも、地味に行われることが増えている。ライターの小川裕夫氏が、近ごろ増えている鉄道車両の「サイレントラストラン」についてレポートする。 * * * 昨年末、小田急電鉄が誇る「白いロマンスカー」ことロマンスカー50000形VSEの定期運行終了が発表された。VSEは2005年に登場。シルキーホワイトの車体カラーは小田急沿線住民や鉄道ファンのみならず、箱根の観光客など幅広い層を虜にした。 VSEは登場から17年で定期運行から姿を消した。これは歴代のロマンスカーと比べても、短い活躍期間だった。絶大な人気を誇るVSEが短命で幕を閉じるというニュースが流れると、あちこちから惜しむ声が漏れた。 3月12日にダイヤ改正が実施されたため、前日の夕刻には多くの鉄道ファンが最後の勇姿を見納めるために新宿駅のホームに大集結。新宿駅ホームの先頭車両の位置には、駅員が手づくりしたと思われるメッセージボードやVSEの模型などが置かれるという一幕も見られた。「VSEは定期運用から離脱するわけですが、まだ不定期列車としての運行は続きます。そのため、今回の新宿駅ホームでの一連のイベントは引退式典ではありません」と話すのは、小田急電鉄CSR・広報部の担当者だ。 今回、新宿駅をはじめVSEのお見送りをした各駅では規模の大小こそあるものの独自のセレモニーが実施された。それらは、あくまでも現場の判断によるイベントという位置付けになるとのこと。小田急はVSEの引退を2023年秋頃と発表しているが、そのときに改めて公式の引退セレモニーを実施するということだろうか?「小田急社員の間ではVSEの引退式を実施したいという気持ちは強くありますが、今後のことに関しては決まったくまっていません。公式的な式典は、実施が決まり次第アナウンスする予定です」(同)車両の引退セレモニーやイベントは減少 小田急の白いロマンスカー以外にも、今春のダイヤ改正で引退した車両や運行を終了した列車はある。例えば、JR西日本管内では1963年に山手線で運行を開始した103系が走っていた。103系は今春のダイヤ改正で、奈良線での定期運行を終了。これに関してもセレモニーやイベントは実施されていない。 これまでのラストランは鉄道会社が大々的にセレモニーを挙行してきた。しかし、最近は様子が異なる。車両や列車が静かに姿を消していく。その様子は、鉄道ファンから「サイレントラストラン」と形容される。一部のファンからは、「これまで応援してきたのに、何も知らせないで引退させることは、ファンを軽視している」という怒りの声も出る。 これは、言外に「応援してきたファンに対する感謝が足りない」という思いの裏返しともいえるが、JR西日本近畿統括本部の担当者は「奈良線における運行は終わりましたが、103系が引退するわけではないので、特にセレモニーはしませんでした」と説明した。 同じく今春のダイヤ改正で、115系が定期運用を終了した。国鉄時代の1967年から走り始めた115系は、新潟の顔とも言える車両でもあった。しかし、こちらも引退セレモニーは実施されていない。 JR東日本新潟支社の担当者は「引退車両すべてでセレモニーをするわけではありません。やる・やらないの基準は明確ではありませんが、115系はやろうという意見が出ませんでした」と引退セレモニー非開催の理由を説明した。 鉄道各社の話を聞いてみると、決して意図的にラストランのセレモニーを非開催にしているわけではないようだ。しかし、開催に積極的とも言い難い。その背景には、少なからずコロナ禍という世相が関係していることは間違いない。 ラストランはその列車に乗る乗客だけではなく、最後の勇姿を見ようと足を運ぶ鉄道ファンが多く集まる。決して広くないホームに、鉄道ファンが押しかけることで大混雑となる。今回、ほかの鉄道会社にもラストラン対策を問い合わせたが、各社の担当者たちは一様に「コロナ禍なので…」と密をつくらない工夫に頭を悩ませていた。 また、コロナ禍でなくても、ラストランは多くの人たちがホームに結集する。そのような事態は事故発生のリスクが高まる。鉄道事業者にとって、そうした状況は回避したい。前出の115系は、定期運行終了後の3月26、27日に撮影会の開催が発表されている。ラストランのセレモニーは非開催なのに、有料の撮影会を実施するのはなぜなのか?「115系の撮影会・見学会は、以前から実施されています。撮影会・見学会はファンの方々からリクエストをいただいて開催していますが、今回はたまたま引退後の実施になりました。ラストランだから開催したというわけではありません」(JR東日本新潟支社広報担当) ラストランや記念列車の運行は、少数ながらも周囲を顧みずに暴走する鉄道ファンが現れる。それらを防止する対策として、昨今の鉄道会社は撮影会・見学会などを有料化する傾向にある。これなら参加人数を絞れて安全を確保しやすくなる。 また、参加者は申し込み時に住所・電話番号などを鉄道事業者に通知しなければならない。下手なことをすれば、出入り禁止になるかもしれない。そんな心理が暴走行為に歯止めをかける。 また、鉄道会社もラストランについて工夫を凝らしてもいる。近年は、いきなり引退させるのではなく、”定期運行の終了”というクッションを挟む。定期運行は終了しても、その後も引き続き不定期で運行させる。こうした手順を踏むことで、少しでも混乱を抑えようとしているようだ。 当たり前のことだが、鉄道事業者はトラブルを発生させたくない。だから混雑を避けるために、サイレントラストランを実施する鉄道事業者の心理は十分に理解できる。 とはいえ、サイレントラストランや撮影会・見学会の有料化に釈然としない鉄道ファンも少なからずいる。 しかし、コロナ禍でテレワークやソーシャルディスタンスなど、暮らしや社会は大きく変わった。コロナが収束しても、以前のような社会に戻ることはないだろう。 同様に、鉄道を取り巻く環境もコロナ禍で大きく変化した。混乱を最小限に抑えるサイレントラストランや撮影会・見学会の有料化が、早くもスタンダードとして定着している。 結局のところ、ラストランだからといって急に慌てて乗ったり撮ったりするのではなく、日頃から乗る・撮ることが肝要なのかもしれない。
2022.03.21 07:00
NEWSポストセブン
賢く保険を見直すには?(イメージ)
保険の見直し「月3万円→1万円」の例も、FPが語る負担額減のコツ
 生命保険文化センターの実態調査(2021年)によれば、約9割(89.8%)の世帯が生命保険に加入し、年間に支払う保険料は平均37.1万円。月に3万円を超え、これを30年間払い続ければ1113万円にのぼる。マイホームに次いで「人生で2番目に高い買い物」と言われるのが、生命保険なのだ。とはいえ、それぞれの事情に応じた見直しを進めていけば、「月1万円」程度の保険料負担でも十分な保障となることは珍しくない。 たとえば妻と大学生の長女と暮らす会社員のA氏(58)は、終身保険300万円+定期保険特約1700万円の死亡保障に医療特約などを加えた「定期保険特約付終身保険」に加入し月2万8150円の保険料を払ってきた。 だが、あと2年で長女は独立。A氏が死亡しても妻に65歳まで年間120万円の遺族年金が支払われる。そこで定期保険特約を500万円に減額、医療特約などを解約したところ、保険料を月約9000円まで減らせた。 こうした見直しの際には「保険を販売しているところに相談してはいけない」とファイナンシャルプランナーの横川由理氏は言う。「無料相談所が増えていますが、保険の販売もしているので“タダほど高いものはない”と肝に銘じたい。お金を払ってでも、保険販売していない中立的なファイナンシャルプランナーなどに相談したほうが結果的には安くなるはず」 ファイナンシャルプランナーの長尾義弘氏が言う。「保険は年齢を重ねる過程で保障額を減らしていくのがコツ。子育ての負担が大きい40代で備えた保険を子供が大きくなってきた50代で見直し、子供が独立した60代でさらに保障額を減らせば保険料の負担も軽くなります」“転ばぬ先の杖”が家計を圧迫しては本末転倒だ。賢く保険を見直したい。※週刊ポスト2022年3月18・25日号
2022.03.17 07:00
週刊ポスト

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