グーグルの携帯電話向けOS(基本ソフト)「アンドロイド(Android)」を搭載したタッチパネル方式のスマートフォン(高機能携帯電話)が続々と登場し、アップルの「iPhone」を追撃している。大前研一氏は、そんな状況を以下のように分析する。
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アップルのCEOのスティーブ・ジョブズは、今まさにパソコンのMac(マッキントッシュ)と同じ失敗を繰り返そうとしているように見える。“Macの失敗”とは、OSを他の企業には売らず、ハードとワンセットで自分で売ろうとしたことである。
その結果、マイクロソフトがIBMと組んでMS/DOS(のちのウィンドウズ)を発売すると、アメリカ、日本、台湾など世界中のパソコンメーカーが雪崩を打ってこれを採用したため、Macは洗練度で高い評価を得ながら、シェア争いで一敗地に塗れ、ジョブズは一時期アップルを追い出された。要するに、OSは搭載されるハードの数を拡大したところが勝つのである。
なぜ未だにジョブズがOSとハードをセット販売し、さらにコンテンツのダウンロードでも儲けるという偏狭な垂直統合モデルに固執するのか理解に苦しむが、おそらく彼は心の奥底ではアップルを“メーカー”と認識しているのだろう。
メーカーだから(実際に製造しているのは世界最大のEMS企業・鴻海精密工業だが)OSとハードをワンセットで設計・製造・販売するのが当たり前と考えているのだと思う。そして彼は商品について非常に強いこだわりがあるので、OSだけでなく細かいハードの見てくれや使い勝手の良さをとことん追求する。
その手法はMacでは失敗したが、iPodとiTunes Store(アップルが運営している音楽、動画、映画などの有料コンテンツ配信サービス)が大成功したことで、ハードで儲けてコンテンツでも儲けるという新しいモデルを構築した、と勘違いしたのではないか。
だからiPhoneではAT&Tやソフトバンクモバイルとだけ組み、そこにハードやコンテンツを乗っけて自分でコントロールしているのだろう。つまり、通信会社の運命さえも支配できる、と考えているに違いない。
だが、そういう強欲な“覇権主義”はスマートフォンでも命取りになる。いま中国では、iPhoneの海賊版がたくさん売られている。通常、iPhoneはSIMカード(電話番号を特定するための固有のID番号が記録されたICカード)がロックされているうえ、筐体を開けることさえできないため、ユーザーは自分でバッテリーも交換できない。
かたや中国のiPhoneもどきはSIMフリー(どのキャリアのSIMカードでも入れ替えて使える)になっている。もちろんバッテリーは自分で交換でき、なかにはSIMカードを3連装できる機種もある。一番安い商品は15ドルくらいだ。しかし、この使われ方こそが「正解」なのである。
つまり、ジョブズがスマートフォンで勝者になりたいなら、iOSをアンドロイドと同じくオープンソース、あるいはそれに近い方式にして誰でも自由に使えるようにし、SIMカードもフリーにしてユーザーがキャリアを自由に選べるようにすべきなのである。
だが、ジョブズは絶対に自分の主張を曲げないので、今回もその頑固さが災いするかもしれない。言い換えれば、まだジョブズには「プラットフォーム」という概念がないと思われるので、そこが彼の死角であり、限界かもしれない。
※週刊ポスト2011年1月7日号