国際情報

上野千鶴子氏 米国スーパーお姉さんからけんもほろろの過去

 今、国際舞台で活躍している人たちも、最初から英語“ペラペラ”だったわけではない。皆、英語と格闘し、悩み、苦しんだ過去がある。英語を操る多くの日本人研究者に、彼らが体験した「英語の壁」についてインタビューした英文校正サービス会社代表の古屋裕子氏が、その秘話を公開する。

* * *
彼らが本当に苦しんだのは、「話す、聞く」ことだったようです。

『おひとりさまの老後』などで有名な社会学者の上野千鶴子さんは、英語の読み書き能力は自信があり、大学院生時代は仲間の論文を英訳するアルバイトをするくらいでした。
 
 そんな上野さんでさえ、「話す、聞く」の壁は高かったらしく、「英語圏で勝負するのを断念した」と仰っていました。
 
 上野さんは、初めて海外に出たのが、33歳からの米国留学でした。いわく、「日常的な会話が全くできなかったんです。私は一生懸命しゃべっているのに、たとえば、スーパーマーケットのレジのお姉さんがけんもほろろな扱いをするんです。

『Pardon, me? (なんですか?)』、『Say it again(もう一度言ってください)』『I can not hear you(聞き取れませんでした)』、これを1日に1回は必ず言われる。1回ならまだ許容限度でしたが、3回言われたら、精神的に参ります。毎日つらい思いをしました。本気で泣きました」
 
 それでも、さすがは上野さん。「腹をくくって自分をさらけだす」「開き直ってしまえば赤ん坊と同じで『口写し』。相手の言う通りに言う」という方法で耳が慣れると、留学先の環境を物足りなく感じ、ご自身の研究活動にさらなる刺激を求めて、ノースウエスタン大学からシカゴ大学への移籍を自ら願い出ました。
 
 ところがシカゴ大学では、新たな壁に直面したと言います。同大学では、全米から研究者が招かれてスピーチする「マンデー・コロキアム」という公開講演会があり、これが大学の空きポストの教員採用試験になっているそうです。ですから、真剣勝負。

「スピーチが終わるとディスカッションがあり、そのあとの質問タイムも壮絶。大学院生や若手研究者が、先輩格のスピーカーの揚げ足を取るような意地の悪い質問をする。いかに相手のスキをつくか、虎視眈々と狙って。そういう時に、一流の研究者は、真正面から受けてロジカルに答える場合もあれば、フェイントをかけたり、逆襲したり、わざと答えなかったりとか」
 
 それを間近で見ていた上野さんは「これは、英語では太刀打ちできない」とつくづく感じたそうです。

「日本語だったら絶対に負けないのにという自信があったから悔しかった」という思いをバネに、帰国後の上野さんが八面六臂の活躍をされているのはご存じの通りです。

※SAPIO2011年4月20日号

関連記事

トピックス

所属事務所は不倫を否定(時事通信フォト)
《星野源と新垣結衣が完全否定》「ネカフェ生活」NHK・林田理沙アナとの疑惑拡散の背景「事務所が異例の高速対応」をした理由
NEWSポストセブン
幼稚園をご訪問され、子供たちに声を掛けられた天皇陛下
天皇皇后両陛下が幼稚園をご訪問 工作の様子を見守られ「どんなものができるのかな」と笑顔で声をかけられる場面も
女性セブン
杉咲花と若葉竜也に熱愛が発覚
【初ロマンススクープ】杉咲花が若葉竜也と交際!自宅でお泊り 『アンメット』での共演を機に距離縮まる
女性セブン
5月に入り病状が急変し、帰らぬ人となった中尾彬さん
【中尾彬さん逝去】数か月体調優れず、5月に入って容体が急変 葬儀は近親者のみ、妻・池波志乃さんは憔悴しながらも参列者に感謝
女性セブン
スキャンダル写真で芸能界を震撼させた『BUBKA』
《90年代アイドルを震撼させた月刊誌『BUBKA(ブブカ)』》の創刊編集長が急死していた スキャンダル写真で物議「スクープ100万円」「複数訴訟」の全盛期
NEWSポストセブン
新しいヘアースタイルの大谷翔平
《大谷翔平の新ヘアスタイル》“切ってもらうと成績が向上する”と評判の美容師が担当 ソウルで水原被告と一緒にカット、料金は大谷が支払う
女性セブン
全国赤十字大会ではスピーチに目を潤ませる場面もあった(4月、東京・千代田区。写真/JMPA)
『虎に翼』を楽しんでいらっしゃる雅子さまと愛子さま 女性天皇への期待高まるなか、揺れるお立場に「日本初の女性弁護士の物語」を重ねられて
女性セブン
女子ゴルフ界の新星として注目を集める清本美波
【プロテストでトップ合格】女子ゴルフ界の新星・清本美波、女子大生と二足のわらじを履く18歳「目標はタイガー・ウッズ」
週刊ポスト
フリーになるも苦戦が続く上重聡アナ
《超大型連休続く?》元日テレ・上重聡アナ、「交渉しまして」古巣復帰の苦境 根強い“利益供与問題”のイメージ、自虐ネタに活路か
NEWSポストセブン
詐取の疑いで逮捕された元宝塚“大滝子”こと光原エミカ(HPより)
《『水ダウ』ざます企画に出演》元宝塚・月組トップスターが現金1000万円詐取の疑いで逮捕「ディナーショーが8万円に値上がり」ファンが察知した違和感
NEWSポストセブン
亡くなったシャニさん
《7か月を経て…》ハマスに半裸で連行された22歳女性が無言の帰宅、公表された最期の姿「遺体の状態は良好」「肌もタトゥーもきれいに見える」
NEWSポストセブン
中尾彬さん(時事通信フォト)
《“ねじねじ”で愛された中尾彬さん(81)が急逝》大病を機に始めていた“終活”、コワモテ俳優からコメンテーターとして人気を博した晩年
NEWSポストセブン