世の中にない商品で人々を感動させよう――。ソニー社内で脈々と受け継がれてきた開拓者精神。そのスピリットが、また新たな商品を生み出した。あるようでなかった「デジタル録画双眼鏡」。きっかけは子供の運動会だった。
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2008年秋。ソニーで業務用ビデオカメラのマーケティングを担当する西村成志氏(マーケティング部門 B&I MK課 統括課長)は、運動会で我が子が活躍する姿を映像に残すべく、家庭用ビデオカメラ片手に校庭を走り回っていた。
その時、ほかの多くの親たちと同様に、カメラの横に開いたモニターをのぞき込みながら、「運動会といえばいつもモニター越し。本当はじっくりと自分の目線で子供の活躍を観戦したい。双眼鏡型のビデオカメラでもあればいいんだが……」。
その瞬間、西村氏は閃いた。「見た通りの映像がそのまま残せれば、魅力的な商品になるのではないか。目指すのは双眼鏡と融合したビデオカメラだ!」。
初回の評議会では失笑を買った撮影機能付きの双眼鏡だったが、設計やデザインが具現化されるとともに、周囲の見方も変わってきた。その後も続いていた評議会でふるい落とされることもなく、「継続検討」として残されていた。
「周囲もじわじわと気になり始めていたことが手に取るようにわかりました。ここまで来たらより実感できる完成品に近づけて、上層部をうならせようと声を掛け合いました」
2011年になると双眼鏡にはムービーや一眼レフの最新技術、レンズが採用され、いつ商品化してもいいほどに完成度があがっていた。社内の評価も高まり、正式に商品化のGOサインが出た。
「次の子供の運動会ではこれを使います。遠くに離れていても、双眼鏡でリアルに見ることができるし、とっておきのシーンでは即撮影も開始できる。お父さんカメラマンの欲求を満足させられる」と胸を張る。
※週刊ポスト2012年2月3日号