国内

原子力安全・保安院のストレステスト 2大問題を専門家が指摘

「順を追った中で粛々とやっていく。原子力規制庁ができる前に判断することがあるかもしれない」(野田佳彦首相)

「今の電力需給状況では稼働させていただく必要がある」(枝野幸男経産相)

 春を前に、「再稼働」に前のめりになったような発言が政府から相次ぐ。拙速に見える再稼働論議の背景には、何があるのか。原子力安全・保安院が開くストレステストに関する意見聴取会の専門家委員で、東京大学名誉教授の井野博満氏が解説する。

 * * *
――政府による議論の進め方は初めから「早期の再稼働ありき」に見えます。

井野:まさにその通りでしょう。原子力安全・保安院は大飯原発3・4号機のストレステストに関する意見聴取会を2月8日で打ち切り、報告書を「妥当」とする審査書を原子力安全委員会に提出しました。

 この日の意見聴取会は、私や後藤政志委員(芝浦工業大学非常勤講師)の質問に対する議論がまったく不十分なままで終わりました。私は「次回も議論を続けるのですね」と疑問を提示した上で確認をしましたが、保安院はその場では何も答えず、「打ち切り」を明言しないまま勝手に打ち切りとし、審査書を提出してしまった。その際、私には何の連絡もありませんでした。

――本誌の取材では、今年1月の時点で「春には大飯原発と伊方原発を再稼働させたい」という発言・動きが政府中枢にありました。昨年末の「事故収束宣言」→今回の意見聴取会の「打ち切り」→再稼働というレールが敷かれていたのではないでしょうか。

井野:その発言の内容は知りませんが、再稼働に向けた“スケジュール”があって進められてきたという印象は私にもあります。私は意見聴取会で繰り返し疑問を呈していたので、きっと政府側が考えるスケジュールよりも遅れてしまい、“早く終わらせたい”という気持ちがあったのかもしれません。

 原発推進派の委員は、1回目の委員会から“社会的要請があるのだから、のんびりした議論をやっている場合ではない”という趣旨の発言をしていました。

 昨年『SAPIO』が明らかにしたように、意見聴取会の推進派委員の中に、いわゆる原子力村から多額の研究費や寄付金をもらっている委員がいることも、公正さの面で疑問を感じます。

――井野さんはストレステストのあり方や中身に対して、疑問を提起していますね。

井野:ストレステストの正式名称は、「発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価」で、地震や津波の際に、原発のどこが弱いかを調べて、改善するのが目的です。

 しかし、ここには2つの問題があります。1つは、そもそもストレステストが再稼働の条件として適切かという問題で、2つめは、ストレステストの中身の問題です。

 1点目については、ストレステストはコンピュータ上での計算にすぎない、“机上のもの”だという点が挙げられます。基準地震動(大飯では700ガル)の1.8倍まで耐えられるとしていますが、実際に1.8倍の揺れで実験したわけではない。

 基準地震動(1倍)で計算して、それと機器の耐性の間に、どれだけ余裕があるかを算出しているだけなのです。しかも老朽化した設備・機器の劣化は反映されていませんから、実際にはどの機器がどの振動まで耐えられるかはわかりません。

 2点目のストレステストの中身について一番の問題は、「安全」とされた根拠がいい加減なことです。例えば、大飯原発の津波の想定は11.4mとされています。これは、福島第一原発を襲った津波(14m)より低い。これでは3.11と同規模の津波が来たら浸水してしまいます。

※SAPIO2012年4月4日号

関連キーワード

トピックス

現地取材でわかった容疑者の素顔とは──(勤務先ホームページ/共同通信)
【伊万里市強盗殺人事件】同僚が証言するダム・ズイ・カン容疑者の素顔「無口でかなり大人しく、勤務態度はマジメ」「勤務外では釣りや家庭菜園の活動も」
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《巨人V9の真実》400勝投手・金田正一氏が語っていた「長嶋茂雄のすごいところ」 国鉄から移籍当初は「体の硬さ」に驚くも、トレーニングもケアも「やり始めたら半端じゃない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン
フランクリン・D・ルーズベルト元大統領(写真中央)
【佐藤優氏×片山杜秀氏・知の巨人対談「昭和100年史」】戦後の日米関係を形作った「占領軍による統治」と「安保闘争」を振り返る
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《追突事故から4ヶ月》広末涼子(45)撮影中だった「復帰主演映画」の共演者が困惑「降板か代役か、今も結論が出ていない…」
NEWSポストセブン
江夏豊氏(右)と工藤公康氏のサウスポー師弟対談(撮影/藤岡雅樹)
《サウスポー師弟対談》江夏豊氏×工藤公康氏「坊やと初めて会ったのはいつやった?」「『坊や』と呼ぶのは江夏さんだけですよ」…現役時代のキャンプでは工藤氏が“起床係”を担当
週刊ポスト
殺害された二コーリさん(Facebookより)
《湖の底から15歳少女の遺体発見》両腕両脚が切断、背中には麻薬・武装組織の頭文字“PCC”が刻まれ…身柄を確保された“意外な犯人”【ブラジル・サンパウロ州】
NEWSポストセブン
山本由伸の自宅で強盗未遂事件があったと報じられた(左は共同、右はbackgrid/アフロ)
「31億円豪邸の窓ガラスが破壊され…」山本由伸の自宅で強盗未遂事件、昨年11月には付近で「彼女とツーショット報道」も
NEWSポストセブン
佳子さまも被害にあった「ディープフェイク」問題(時事通信フォト)
《佳子さまも標的にされる“ディープフェイク動画”》各国では対策が強化されるなか、日本国内では直接取り締まる法律がない現状 宮内庁に問う「どう対応するのか」
週刊ポスト
『あんぱん』の「朝田三姉妹」を起用するCMが激増
今田美桜、河合優実、原菜乃華『あんぱん』朝田三姉妹が席巻中 CM界の優等生として活躍する朝ドラヒロインたち
女性セブン