日本にも「ディープステート」が存在すると指摘する佐藤優氏
“政府を裏で操る秘密の組織が存在する”“国家がワクチンによって遺伝子を操作しようとしている”――ネットを中心に流布されるそうした言説は「陰謀論」の一言で片付けられることも多い。しかし、その狭間に“真実”が埋もれていることを見逃してはならない――そう喝破するのは、インテリジェンスの専門家である作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏だ。【第1回】
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世界を牛耳るディープステート(闇の政府)が存在し、トランプはそれと戦う救世主だ……。米国大統領選ではそんな主張が展開され、対立する陣営からは「陰謀論」だと一蹴された。だが、本当にディープステートは存在しないのか。筆者はそうは思わない。日本にもディープステートは実在している。
代議制民主主義の国家で政治を運営していい人間は、本来、2種類しかいない。選挙によって国民に選ばれた政治家と、資格試験によって選抜され、登用された官僚だ。
ただ、実際にはいずれにもあたらないのに政府の重要な意思決定に深く関わる人々がいる。まさに、「陰謀」に携わる者たちである。
ロシアなら諜報機関出身のビジネスマンや大統領の同郷者で政府に影響力を持つ者がいた。イスラエルはモサド(諜報特務庁)出身の大学教授や企業顧問がそれにあたる。
日本で多いのは、開成や筑波大附属駒場など中高一貫の進学校出身者のネットワークだ。とりわけ男子校出身者はホモソーシャルな人間関係を社会人になった後も保つ例が目立ち、官邸や政府から相談を受けるかたちで国家の意思形成に参与している。
一部大学のゼミや慶應大学出身者の三田会など特殊な例を除けば、大学からのつながりは希薄だ。中高生の頃に先生に告げ口をする人間は、大人になっても口が軽い。権力の中枢にいる政治家や官僚は秘密保持を何より重視するから、“告げ口をしない奴”だとわかっている中高校時代のネットワークが非公式なかたちで重用されるのだろう。
政府中枢から非公式に相談を受けて意思決定に影響を与えるという意味では、筆者も日本版ディープステートをなすひとりと言えるかもしれない。2018年、北方領土返還を前に進めない外務省に苛立った安倍官邸から相談を受け、二島返還案を具申してこれが政府の方針となった。この陰謀の顛末は、元朝日新聞主筆・船橋洋一氏の著書『宿命の子』の第11章に詳しく書かれている。
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【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞受賞。『国家の罠』『獄中記』など著書多数。近著に片山杜秀氏との対談本『生き延びるための昭和100年史』がある。
※週刊ポスト2025年12月26日号
