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<全文公開>勝谷誠彦「日本人の正気と意気地を発露せよ!」

『メルマガNEWSポストセブン』では、ビートたけし、櫻井よしこ、森永卓郎、勝谷誠彦、吉田豪、山田美保子…など、様々なジャンルで活躍する論客が、毎号書き下ろしで時事批評を展開している。本サイトでは7月6日に配信された22号より「勝谷誠彦の今週のオピニオン」の一部を先日公開したが、反響が大きいため公開済みの部分を含めここで一挙全文をお届けする。

 * * *
 かつて私は『偽装国家』という本を正続2冊、上梓した。国軍を自衛隊と言いくるめ、暴行窃盗恐喝をいじめと言い換えるようなこの国の虚妄を暴いたのである。しかし、今思えばまだしもそこには「民を騙す」というそれなりのテクニックがあった。今、日本国政府はそうした遠慮もかなぐり捨てて、文字通りの暴力装置と化しつつある。その手法は、国民に対する恫喝と、弱きもの貧しきものを「棄てる」ことだ。いくつもの現象面から、私はもはやこの国を『棄民国家』と呼ぶほかはない。

 人々はどう「棄てられて」いるのか。まず思い浮かぶのが、福島の原発事故であり、大震災の被災地であり、再稼働を強行される原発を持つ地元だろう。低所得層や中小企業に「死ね」という消費税増税もまたそのひとつに違いない。これらに共通しているのは、さきほど触れたような「恫喝統治」だ。原発を巡っては「この夏、大規模な停電が起きる」と脅した。その数字的な根拠はついに示されずじまいだった。何よりも、もっとも停電などの可能性が高いと言われている関西の住民たちはある程度「覚悟」していた。これはいくつも番組を持っている私が皮膚感覚で知っている。原発の事故で命や故郷を失う危険性と、ひと夏暑さを我慢する努力とを天秤にかければ、子どもでもわかる理屈だろう。

 消費税増税については「ギリシャになる」を野田佳彦首相は連発した。ならないことをもっとも知っているのはドジョウを踊らせている財務官僚であり、世界の市場だ。破綻が近づいている国の国債や貨幣をどこの馬鹿が買うのか。一方で円高でウンウンと苦しみながら、一方でデフォルトが起きるという。これまた子どもすら騙すことはできまい。

 要するに道理をひっこめて無理を通しているのがドジョウ一派である。それにガマンできなくなって小沢一郎元民主党代表などが離党すると除名処分にした。これまた同調者が出ないための恫喝にほかならない。

 こうした「棄民」と「恫喝」の文脈の中で、もうひとつ注視したいことが起きている。今触れたようなことは、いずれも最近の出来事だ。しかし戦後の日本国の「原罪」のひとつに対しても、今の政治は同様な仕打ちをしようとしているのだ。水俣病である。

 水俣病の患者認定の申請を、7月いっぱいで打ち切ると政府は決めた。これに対して在野の医師たちなどが検診を繰り広げると、新たな患者が大変に高い確率で見つかり始めた。なぜか。ここに福島原発事故から私たちが苦しみながら学んだことが生きてくる。「最初の汚染地域の線引き」が間違っていたのだ。当然、その外にも被害者はいるものだという想像力を働かせるべきだった。

 もうひとつは流通だ。当時は今ほど流通が発達していなかっただろうが、魚介類が必ずしも地元で消費されるばかりでないことを、風評被害などを含めた、福島での苦い体験で私たちは学んだ。それらをもとに、水俣病について、むしろ新たに範囲を見直すべきだろう。しかし逆に打ち切るのだという。

 これに対する環境省の役人のセリフも「恫喝統治」を象徴していた。「7月で打ち切ると言ったので、むしろ申請を迷っていた人たちが申し出てきた」と言い放ったのだ。どうしてこの発言が問題にならないのか私はわからない。要するに、締め切りを示して恫喝したからあぶり出せたと言っているのである。潜在的患者の方々が、差別や理不尽な視線に耐えて、どれほど言いだせずに我慢してきたかということへの心遣いなどどこにもない。むしろ、被害を増幅させた国や企業こそが草の根をわけてでも、被害者を探し出すべきだったのではないのか。

 ここまでコケにされて黙っている大和民族ではない。高杉晋作が言ったように、日本人はとことん追い詰められると「狂を発する」のである。あの時の長州がそうだった。日露戦争の、大東亜戦争の時の私たちがそうだった。まず原発の再稼働を巡って、人々は立ち上がり始めた。膨大な数の群衆が首相官邸をとりまいた光景は、安保闘争を彷彿とさせる。しかし、大きな違いがひとつある。あの時は「命はかかっていなかった」「国土もかかっていなかった」。しかし今回は、ひとりひとりの命と、故郷が担保となっている。こうなると日本人は「狂を発する」ことをドジョウは知ることになるだろう。

 比較的若い人々が官邸をとりまく横で、水俣病のお年寄りの患者の方々が、議員会館の前で雨に打たれて座り込みをしていた。

 気がつこう! この方々も「棄てられし民」なのだ。原発によって棄てられつつあることに怒る人々と、心の底ではつながるべき人々なのだ。

 いや、それだけではない。東日本大震災の被災地で、今なお復興から「棄てられている被災者」、福島の地に帰ることができず、各地に「棄てられている避難民」、更に言えば消費税増税によって生活や経営が破綻し「人生を棄てざるをえなくなるかも知れない貧しき人々」。

 すべての棄民よ、団結せよ!
 首相官邸を、国会を包囲せよ!
 それぞれの選挙区で、国会議員を、地方議員を問いつめよ!
 恫喝統治に加担して嘘八百を垂れ流す大マスコミを信用するな!
 原発の維持推進に安易に加担して、電力各社の株主総会で賛成票を投じた大企業をあぶり出せ!
 そいつらの製品を買うな!
 もちろん決戦の場は選挙だ。それまでこの怒りを忘れてはいけない。
 日本人の正気(せいき)と意気地(いきじ)を、今こそ発露せよ!

※メルマガNEWSポストセブン22号

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