国内

佐野眞一氏 官邸デモの若者や母親の凄まじい切実さを感じる

「原発再稼働反対!」――毎週金曜日の夜、東京・永田町の首相官邸前は、人で埋め尽くされている。ノンフィクション作家の佐野眞一氏は、ツイッターやフェイスブックを通じて集まった若者や子供を抱いた母親たちの声や表情に、「凄まじいまでの切実さ」を感じるという。そして、そこにこそ未来への希望があると指摘する。

 * * *
 首相官邸前から新橋にある東電本社までデモ行進をする人、人、人……。その数は10万とも20万とも言われ、実数は定かではないが、私はこの自然発生的で、生活感に根ざした行動の意義を大いに認めると同時に、その抗議の波は今後ますます広がりを見せるだろうと、肌感覚で確信している。

 参加者の多くは勤め帰りの会社員や学生、なかには子供を抱えた母親や、避難区域に置き去りにされた動物の保護を訴える犬連れの主婦などもいたと聞く。「原発はもう要らない!」などと声は上がるものの、終始穏便に遂行されているデモは、おそらく今までデモになど参加したこともない人々が声を上げた点で画期的と言ってよく、イデオロギーの匂いをほとんど感じさせない。

 例えば「せめてデモに参加する自分の姿を子供に見せたかった」と涙ながらに言う母親は、大飯原発の再稼働を野田首相及び政府がなし崩し的に決定し、7月1日には同3号機が現に動き始めたこの国の現実から我が子を守りたいと思う余り、感極まったのだろう。その涙はあくまで個人的で生理的で切実なものだ。

 従来の「反原発」は、ある特定の思想や主義を掲げる人々が「頭で考えた」言葉だったが、母親たちが語る脱原発は実際に子を産み育てる者の「身体性」に裏打ちされているだけに、心に届くのである。

 対して、私がむしろイデオロギーを感じるのが「原発を再稼働させなければ日本経済は確実に沈没する」と、相も変わらずの脅し文句を振りかざす再稼働支持派や政官財の側だ。

 彼らの言葉は反対派との「切実さをめぐる対立軸」において明らかに見劣りする。仮にイデオロギッシュであっても正当な根拠なり説得力があれば構わないのだが、原発を止めたままだと日本経済がどの程度沈没するのか、私は具体的な数値を伴った説明を聞いた例(ためし)がない。「日本経済の先行きが……」といういかにももっともらしい意見を語る再稼働支持派は、原発事故で故郷を失った何十万もの国民たちに直接、その言葉で説得をできるのか。

 今は亡き吉本隆明は、科学技術の進歩は永遠であり、原子力をやめたら人間はサルになる云々と言って反核議論を退けたとも聞くが、そうした科学技術万能論の限界を、21世紀の母親はほぼ直感的に知っている。

 それに対し、実証的な説明ができないまま空虚な経済優先論を振りかざす財界人や永田町の面々こそ、私の目には現代的センスを欠いているように映る。

 野田首相が「再稼働」を主張する裏には経済界の圧力が露骨に感じられ、「脱原発」を唱える側にしても、離党して新党を結成した時点から急にそう言い出した。こういう輩は、反原発を政争の具にするだけだから信用がおけない。首相官邸前に集まる人々は、そうした政治家たちのいかがわしさにも、怒りをぶつけているのだろう。

※SAPIO2012年8月1・8日号

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
盟友・市川猿之助(左)へ三谷幸喜氏からのエールか(時事通信フォト)
三谷幸喜氏から盟友・市川猿之助へのエールか 新作「三谷かぶき」の最後に猿之助が好きな曲『POP STAR』で出演者が踊った意味を深読みする
週刊ポスト
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
NEWSポストセブン