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馬場が猪木とのコンビ復活 背景に「東スポへの恩義」あった

 1979年8月、「日本プロレス史上もっとも盛り上がった大会」と評されるビッグイベントがあった。それが、「夢のオールスター戦」だ。新日本プロレスと全日本プロレスの興行戦争が激化するなか、東京スポーツの主催でジャイアント馬場とアントニオ猪木の“BI砲”が再結成されたこの大会の背景を解説する。

 * * *
 8月26日には日本武道館で、国際、新日本、全日本の全選手が出場した『夢のオールスター戦』が、東京スポーツ新聞社の創立20周年記念行事として開催され、馬場はアントニオ猪木と8年8か月ぶりにコンビを結成してメーンイベントに出場、ブッチャー&タイガー・ジェット・シン組を下したが、馬場にとっては何とも釈然としない大会だった。

 東スポから『夢のオールスター戦』開催の打診があったのはこの年の5月。馬場は、「喧嘩をしている状態のまま“一緒にやれ”というのは無茶な話。3団体が協定を結んで初めて実現出来る。まず3社協定を作って、それからやりましょう」と主張した。実は馬場は、日本プロレス・コミッショナーの推戴に関して、新日本プロレスのやり方にカチンと来ていたのだ。

 統一コミッション機構の設立は、3団体の悲願だった。馬場は、「業界のルールを成文化し、それを破った場合には制裁を加えるだけの権限を持つコミッショナーが必要だ。だがルールも協定も作らず、団体の言いなりになるようなコミッショナーなら、推戴しても意味がない」と以前から主張していた。

 だが、新日プロはこの年2月5日、電撃的に二階堂進自民党副総裁をコミッショナーに推戴し、このころから新日プロ寄りとなっていた国際プロレスもこれに同調した。馬場は、自分のシカゴ遠征中に独断でコミッショナーを推戴した新日プロのやり方が許せなかったのである。

 だが馬場の「業界ルールの成文化などの諸問題をクリアーした上で」という主張は無視されたまま、『夢のオールスター戦』は実現に向けてドンドン進行していった。当初、東スポ側が望んだBI対決が、BIコンビの復活に変ったのが、馬場の唯一の抵抗だった。馬場は、日ごろからプロレス繁栄のために尽力してくれる東スポには、恩義を感じていた。その東スポのたっての要請には、「長い物には巻かれろ、か」という心境になって、妥協したのだった。

 馬場の救いは、国際プロレス吉原功代表の存在だった。このころすでに国際プロはマイナー視されていたが、吉原代表の誠実な人柄を信頼していた馬場は、猪木との会談に当たっては、必ず吉原代表の同席を求めた。

 馬場と猪木の日本プロレス時代の先輩である吉原は、喧嘩腰となりがちな両者の間のクッションとなり、会談の証人となってくれたのである。吉原というクッションが無かったら、馬場は『夢のオールスター戦』出場を拒絶していたかもしれないのだ。

『夢のオールスター戦』のフィナーレでは、BIコンビがメーンで勝利を収めた直後、猪木がマイクをつかんで、「馬場さん、次はシングル対決だ」と迫り、馬場も「よし、やろう」と答えた。

 馬場はこの時、猪木が業界ルールなどの諸問題のクリアーを前提としての要求だと思い、「やろう」と答えたのだが、猪木には全くその気は無かったのだ。馬場は猪木の勢いに乗せられ、ファンの前で言質を取られた格好となったのである。それやこれやで、『夢のオールスター戦』は、馬場にとっては後味の悪い大会だった。

文■菊池孝

※DVD付きマガジン『ジャイアント馬場 甦る16文キック』第4巻より

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