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朝井リョウ ネットについて考える「無駄な競い合いが増えた」

ネットで「無駄な競い合いが増えた」と朝井リョウ氏

“何者かになろうとする”就活生たちの自意識をリアルにあぶり出した小説『何者』。作家の朝井リョウさん(24才)は、同作で戦後最年少の直木賞受賞者となり、注目を集めた。昨年4月、一般企業に就職し、『何者』は営業職との“兼業作家”として執筆した第1作目でもあった。4月からは会社員生活も2年目になり、7月には、受賞後第1作となる『世界地図の下書き』が刊行される。

――直木賞ご受賞おめでとうございます。お忙しいと思いますが、これまで、作家ひと筋で、とは考えていなかったのでしょうか?

朝井:作家という職業に対してずっと疑いがあるんです。明確なルールの中で勝敗が決まるわけではないし、誰の目にも明らかな、全員が面白いっていう作品なんて絶対ありえない中で、お金が発生し続ける仕組みがよくわからなかった。もしぼくに能力があるとしたら文章を書くことなのに、作家というと、すごく付加価値をつけられやすくて。

「今の社会についてどう思いますか?」という質問をされてしまったりする。でもそんなの答えられないんですよ。作家という付加価値のつきやすい職業で得るものは、“幻の収入”みたいな気がして、それだけで生活していたらいつか罰があたるような感じがしたので、“幻じゃない仕事”、表に出ない仕事もちゃんとやっていこう、と大学生のときから考えていました。

――作家として安定収入を得ても、怠けず書き続ける強い意志の秘訣はなんですか?

朝井:仮想敵がいるんですよ、ぼくの頭の中に常に。「安定収入を得ると小説って書かなくなるんでしょう?」とか言ってくる誰かがいるんです。

――それはもうひとりの朝井さんなのでしょうか?

朝井:そうですね、具体的な誰かのときもありますけど(笑い)。そういう人たちの口を抑えるために頑張っているところもありますね。収入がなくて貧しい中で表現したものにこそ素晴らしいものがある、というような作家に対しての昔からの美学みたいなものについて「それって違うんじゃない?」と思っていました。安定収入を得つつも作品をコンスタントに出す、というケースを、体力が続くうちは自分で作りたいなと。

 作家っていうのは、俗欲とは離れた場所にいて、好きなものを好きなだけ書ければそれでいい、みたいなイメージがいまだにあるような気がするんですよね。表現欲以外の欲がないというか。一方ぼくは俗欲まみれなので、売れたいし、誰かに負けたくないし、宣伝もガンガン自分でします。いただけるものなら、賞は全部欲しいです。ぼくは多分、文学に関する賞を「辞退」ということはこれから先しないんじゃないかな。そんなかっこいいことできない。だって本当に全部ありがたいですもん。

――小説『何者』でSNSを物語にうまく使い、今の時代感と、自意識やエゴ、自己顕示欲など人間の暗部とを見事に描いていました。ご自身の生活で、SNSについて思うことは?

朝井:作品の中でも書いてるんですけど、今、独り言や本の感想なんかも含め、競わなくていいところまで競い始めているような気がするんです。テレビドラマの感想なんてただの独り言だったのに、今では、より鋭く面白い感想を言わなきゃいけない雰囲気になっているというか。まあでも、それが“最高の仲間”自慢でもなんでも、上へ上へ競うならいいと思うんです。いわゆるリア充アピール。

 でも、最近は非リア充アピールが目立ちますよね。自分の非リア充をアピールするだけならまだしも、他人を自分と同じレベルまで引きずりこもうとしているというか。他人を下に見ることによって自分が上に見えるようにする、「下へ下へ」の闘いになっていっている気がして。それはすごく無意味なことだと思っています。あなたの非リア充アピールに他人を巻き込むのはやめようよ、というか。短い言葉で発信されたものをその人の全てだと思って叩いたり、取り上げたりすることには何の意味もないですし、そういうことに体力を使っている場合じゃないとすごく思います。

――エゴサーチをするそうですね。否定的な意見も読むとか。

朝井:ぼくはただ、誰かに褒められたいだけなんですよ。それでハッと気持ち良くなる、例えるなら麻薬みたいな感じで。それを探すときに、否定的な意見も目に入ってきます。否定的な意見に関しては、読もうとして読んでいるわけではないです。

――だけどそれって、胸に突き刺さりませんか?

朝井:正直、朝井リョウの作品に対する批判は特に突き刺さったりはしません。なぜなら、書いてある批判は全て僕の知っていることだから。それに、「若くてリア充ぽい作家・朝井リョウ」をどうにか揶揄することで自分自身を保とうとしている人がとても多くて、そういう人を見ていると、ぼくがオカズになることでその人の精神が少しでも安定するならばそれでもいいのかな、と思ったりもします。そういう人って、「つまらない!」とか「もう読まない!」とか、そういうふうには書かないんですよ。

 批判とか揶揄する文章の中に、どうにかして自分の鋭い着眼点や個性を入れ込んでいるんです。ぼくもデビュー前はそういうことをして精神を保っていたので、気持ち、すごくわかります。だから、ムカー!ってなるよりも、昔の自分を思い出してしまいますね。だけど、全く事実無根のことを書かれているのを見るとやはりすごく気分が悪いです。「就活してないくせにこんな小説書いて」とか書かれていると「ああ、ちょっと待って、しているから」って。

――2ちゃんねるなども見るのですか?

朝井:2ちゃんねるではほとんど褒められないので見ないです。アンチの意見も世間の意見だと思って読んでます、とかそういう建設的な考えは全くなくて。ただ一瞬気持ち良くなりたいだけの一心で検索しているので。他の作家さんで2ちゃんねるも読まれるかたもいらっしゃいますけど、ぼくはできませんね。

――会社へ出勤前と帰宅後、土日も執筆という過密スケジュールですが、執筆を継続する秘訣は?

朝井:“エゴサーチ麻薬”には、かなり支えられてますね(笑い)。あと、小説というのは、一から百まで全部自分で作った文章が認められるわけで、それはものすごく励みになるし、作家というのは映像化だったり賞だったり、そういうプラス面での突然の変化を体験できて、それは普通に生きていたらそんなに出合えないこと。今自分がこういう場所にいることができることを、すごく幸せだと思うので、それを自分にいつも言い聞かせながら頑張っています。読者からの反応はもちろんですよ。

――会社での仕事は営業部ということですが、社会人生活は作家活動といいバランスになっていますか?

朝井:なっていると思います。24時間小説書いていいよって言われても、人間って結局集中できるのは3、4時間だと思うんですよ。だから出勤前と退勤後に2時間ずつというのは意外と集中力をうまく使う事ができて、要領が良くなるかな、と思います。1年続けてみて、体力的に本当に辛いことは身に染みてわかりましたが(笑い)。

【朝井リョウ(あさい・りょう)】
1989年5月31日生まれ。岐阜県出身。早稲田大学文化構想学部在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞、ベストセラーに。『チア男子!!』は第三回高校生が選ぶ天竜文学賞受賞。2012年大学卒業、一般企業に就職。2013年、『何者』(新潮社)で第148回直木賞を受賞。戦後最年少の直木賞受賞者に。

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