ビジネス

学歴は経営者に重要か? パナ、本田等創業者は大卒ではない

 アベノミクスで日本経済が盛り上がっていると言われても、景気が良いのは一部の業界と企業だけで、多くのサラリーマンには元気がない。日本と日本人が世界と戦うのに必要な原動力とは何かについて、大前研一氏が解説する。

 * * *
 参院選に圧勝した安倍晋三首相は「経済政策を前に進めていけという大きな声をいただいた」と政権運営に自信を深め、「全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻す」と意気込んでいる。

 しかし、アベノミクスで盛り上がっているのは証券、不動産、輸出関連などごく一部の業界と企業だ。多くのサラリーマンは、企業のIT化やグローバル化が進み、大規模リストラの波に脅かされる中、人員削減のシワ寄せで仕事の量だけが増えている。

 このため、職場では「うつ・無気力」「疲弊・燃え尽き」「あきらめ」などメンタル面を病んだ社員が続出し、長引く業績低迷で人間関係がぎすぎすして暗いムードの会社も少なくない。

 消費では、私が7~8年前から指摘し続けている「低欲望」社会が定着し、少子化・高齢化の中で右肩下がりの傾向が続いて、日本という国全体が閉塞感に覆われている。さらには国際的な競争力も低下し、今や「ジャパン・パッシング」が常態化して“落日”“斜陽”の老大国になりつつある。

 かつて「エコノミック・アニマル」と揶揄されるほどの経済成長を実現し、日本製品が世界を席巻して「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「日はまた昇る」と称賛されたのが嘘のようだ。

 なぜ、日本はこんなに落ちぶれてしまったのか? 日本人は、所詮この程度の国民だったのだろうか? いや、それも違うと私は思う。

 なぜなら、今、芸術やスポーツの世界では日本人が大勢活躍しているからだ。たとえば、世界中の有名オーケストラで日本人の弦楽奏者がいないところはないし、チャイコフスキー国際コンクールでは諏訪内晶子さん、佐藤美枝子さん、上原彩子さん、神尾真由子さんが優勝している。

 スポーツでも、サッカーで世界の一流クラブチームに所属している選手や野球のメジャーリーガーは数えきれないし、競泳でもメダルを連発している。スキーのジャンプでは高梨沙羅さんがワールドカップで日本人選手として初めて、しかも史上最年少の16歳4か月で個人総合優勝を達成している。アニメやゲームのクリエイター、建築家などにも、世界的に有名な日本人は数多い。

 彼らに共通しているのは、【1】文部科学省の指導要領に基づいて教育されていないこと、【2】インストラクターなどテーラーメイドの教育・トレーニングを受けていることである。つまり、純粋に「個」の能力とアンビションを原動力に、目線を上げて世界と戦っているのだ。

 戦後第一世代の偉大な日本人経営者たちもまた、文部省教育の埒外で誕生している。

 パナソニック創業者の松下幸之助さん、ソニー創業者の盛田昭夫さん、本田技研工業の本田宗一郎さん、三洋電機創業者の井植歳男さん、シャープ創業者の早川徳次さん、オムロン創業者の立石一真さん、ヤマハ発動機創業者の川上源一さんのうち、盛田さん以外は1人も大学を出ていない(立石さんが卒業した熊本高等工業学校は後に熊本大学工学部、川上さんが卒業した高千穂高等商業は後に高千穂大学となっている)。

 ということは、この人たちがグローバル企業を作り上げ、経営者として大成功した理由もやはり、学校での勉強ではなく、アンビションなのである。

※週刊ポスト2013年8月30日号

関連キーワード

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン