芸能

『潮騒のメモリー』の一節は偶然通りかかった坂本龍一が作曲

 NHKの朝ドラ「あまちゃん」の音楽担当・大友良英(54)。世界的に知られる現代音楽家、ノイズミュージシャンでもある。

 大友自身、学校で音楽を学んだ人ではない。作曲家で、映画史に残る映画音楽の数々を残した武満徹に誘われて一度だけ食事をしたとき、「大友さんは音楽教育を受けてきたんですか」といきなり聞かれた。

「たぶん受けてないと思ったんだろうね。『ゼロです』って言ったら武満さんも『私もそうなんですよ』って」

 高校時代にジャズにはまって以来、ほぼ独学で、いろんなジャンルの音楽を吸収してきた。

「たぶん聞いてきた音楽の幅の広さではだれにも負けないと思う」

 フリージャズや前衛音楽、ノイズミュージックに傾倒する一方、自分をかたちづくった音楽の記憶を探ると山下毅雄に行きついた。「プレイガール」や「スーパージェッター」「ジャイアントロボ」「ルパン三世」など多くのテレビ音楽をつくった作曲家だ。

「いいと思った音楽を探っていくと、山下毅雄っていう名前がいっぱい出てきた。知らずに聞いてたけど影響は大きくて、だからいま『あまちゃん』もできるんだと思うよ」

「あまちゃん」が始まったとき、オープニング曲を、スカだという人、クレージーキャッツ風という人、チャンチキやチンドンだという人、それぞれに言い表された。

「じつはぜんぶ合ってる。いろんな要素が入ってるから。『チャンチキトルネエド』(チンドン音楽のバンドで現在は活動休止中)と出会ったのは大きいね。オープニング曲にはスカのビートと日本のビートをまぜているけど、よく聞くとほんとのスカじゃない。ジャズのビートは入ってないのにクレージーキャッツっぽいのは、『タカラッラララララ』の適当な感じかな」

 懐かしい記憶を引き出され、聴いたことのない新しさを感じる。いまの時代に老若男女みんなが親しめる曲の秘密はこのあたりにあるのだろう。

 ワークショップでは大友手書きの楽譜のコピーが配られた。ほぼ主旋律だけのシンプルな譜面だ。作曲家がすべて決めるのではなく、奏者がそれぞれ工夫してアンサンブルをつくりだす。

「あまちゃん」の準テーマ曲ともいえる「潮騒のメモリー」も、共作曲者のSachiko M、アレンジャーの江藤直子、劇中で歌う小泉今日子と一緒にスタジオに入り、ああでもないこうでもないと言い合ってつくった。

 1980年代に流行ったアイドルの曲という設定なので、当時本物のアイドルだった小泉から、「80年代だったらこうなんじゃない?」と、サビの「♪激しく~」のアイデアが出た。ラストの「♪好きよ嫌いよ」も小泉で、終盤の「♪来てよタクシーつかまえて」の「つかまえて」は、たまたまスタジオを通りかかって演奏に加わった坂本龍一の作曲だ。演歌からモダンなポップスまで様々なコードを採りいれ、チームワークでつくったこの曲を、「自分の最高傑作」だと大友は言う。

「この人をここに置いたら必ず輝くとか、ぱっと出会ったときの勘だけはいい。だからプロデューサーの仕事ができるんだと思う」

取材・文■佐久間文子

※週刊ポスト2013年9月6日号

関連記事

トピックス

野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
8月20日・神戸市のマンションで女性が刺殺される事件が発生した(右/時事通信フォト)
《神戸市・24歳女性刺殺》「エレベーターの前に血溜まり、女性の靴が片方だけ…」オートロックを突破し数分で逃走、片山恵さん(24)を襲った悲劇の“緊迫の一部始終”
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン