ライフ

リアル脱出ゲーム 人気の理由は「部活と同じ達成感」と考案者

『リアル脱出ゲーム』を考案した加藤隆生さん

 野球場、遊園地、競馬場――あらゆる空間を舞台に物語をつけ、数人で協力しあって制限時間内に謎を解き、“脱出”をはかる『リアル脱出ゲーム』。チケット即完売の人気で、2013年は35万人以上を動員した。人気は海外にも広がり、すでにアメリカ、中国、シンガポール、韓国で開催され大きな反響を呼んでいる。その生みの親であるクリエイターの加藤隆生さん(39才)の元には、各企業からのオファーも絶えないという。リピーター続出のこのゲーム。人気の理由は「大人が部活を求めている」と言う加藤さんに、話を聞いた。

――この体験型ゲームの面白さはどういうところでしょうか?

加藤:スマホやテレビに向かってやる通常のゲームと違って、肉体がインターフェイスになるところだと思います。人間に向かって生々しいものを体感する新しい装置といいますか。そこの面白さがいちばん大きいんじゃないでしょうか。

――今、大人が“部活”を求めているとのことですが、これだけ多くの人がリアル脱出ゲームにハマるわけは?

加藤:わかりやすい達成感とプロセスが楽しめることだと思います。仕事をしているとひと山越えたと思う日は来るかもしれないけど、ほとんどの人は5、6本の案件を抱えながら動いていますから、ある日それが全て終わって“やったー!”と大きな達成感を感じる瞬間ってそんなにない。しかも達成のモチベーションとなっているのは、自分の中から沸き上がる気持ちではなく、立場や給料などに縛られていることが多いですよね。でも部活って、チームを組んで、得も言われぬ熱さで動けるじゃないですか。合唱コンクールや文化祭も、理屈なく、みんなでひとつのものを作り上げるという根源的な熱で動けましたよね。そういった姿勢で大人たちが取り組める場所が今、無いからだと思います。

――脱出成功率はひと桁という難易度の謎や、趣向の違う企画を次々と打ち出していますが、一般の会社で企画を生み出す時にも役立つ企画の生み出し方とは?

加藤:基本的には、企画ってひらめくものではなくて、戦略的に作るものだと思うんです。ぼくの場合は、この案件に関して“この時間内に必ず思いついていく”というスケジュールを全て立てています。10~20個の案件を週に1回1時間ずつ自由にアイディアを出し合う。全体設計ができていれば、企画について思いつくこと自体はそんなに難しいことではないんです。パッとひらめくというよりは、思いつくための装置がまずきちんとできているべき。

 ぼくは企画を依頼されると、枠組みから考え始めます。存在の意味と、なぜ成り立っているのか。例えばウェブサイトなら、それがあるおかげでハッピーな気持ちになっている人は誰なのか。誰の心を動かしてるかどうかがいちばん大事だと思うんです。全く感情が動いていない100万人が集まっているサイトもあると思いますが、そうではなく感情を動かす部分をいかに集めて、その感情の揺れ幅をどこまで大きくできるかの企画だと思うので、最初に入れ物について考えなくてはいけないんです。もう少しわかりやすく言うと、自分が好きな物は何か? なぜ好きだったのか? まずは自分の心が動く企画を自分に向かって考えていくことです。世の中に向かって企画を考えても絶対に当たりませんが、自分が本当に感動する企画が10個あれば、そのうちの1個は絶対に当たりますよ。

――今、時代が求める企画とは?

加藤:ぼくが最近強く思うのは、みんながパーソナルなサービスを求めてるということです。みんなが特別扱いされたがっているという感じでしょうか。例えばテレビは、何千万人もの視聴者を特別扱いしないじゃないですか。でもみんな、「○○さんすごいですね」って言ってくれるメディアを求めている気がすごくします。SNSでも、自分が発信したものへのリアクションをみんなが強く求めているのもその一例です。

――リアル脱出ゲームでは、その特別感を体感できる?

加藤:うちのコンテンツは特別で、とてもパーソナルな体験だと思います。なぜかというと、「こういう風に思ってください」と言わないからです。ぼくらは装置だけは用意して、その中で自由に振舞ってもらう。そこで起こったことは全部その人の物語なのです。

――『人狼ゲーム』もブームですが、なぜ今、参加型ゲームが人気?

加藤:これも同じで“体感する”ところだと思います。自分が物語の登場人物になって、自分の頭で考えたことがゲームのツールになることが求められています。それは“特別扱いされる”ことと同じだし、テレビや映画がずっと一方通行でエンターテイメントを与えてきたのに対して、我々も何かを打ち返したくなっているんじゃないですかね。その流れを作ったきっかけは、ウェブだと思います。自分が何か発信したことに対して、リアクションがあることに、ぼくら慣れてきているんですよ。

――人は謎解きが好きですよね。加藤さんにとって謎解きとは?

加藤:ぼくは、謎を解くという行為は、何があるかわからない未来について考えるのとほぼ同じことだと思います。ほとんどの人は、未来に向かって何かを予想して、こんな未来があるといいなと思ってそれに対する勉強したり仕事したり準備をするわけで、謎解きという行為は、未来に備えるシミュレーションであるとぼくは考えています。

【加藤隆生(かとう・たかお)】
1974年9月14日生まれ。京都府出身。『SCRAP』代表。同志社大学心理学部卒業。京都の印刷会社を退職後、プロのバンド『ロボピッチャー』でミュージシャン活動。リクルートでの営業職を経て、2004年にフリーペーパー『SCRAP』を創刊。誌面と連動したイベント企画『リアル脱出ゲーム』が好評を博し、拡大化。2008年『SCRAP』設立。2011年の東京ドーム公演は3日間で1万2245人を動員。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン