リクルートホールディングスの4月24日の発表によれば、2015年春の大卒求人倍率は1.61倍となり、前年の1.28倍から大きく上昇した。しかし学生にとって内定獲得は大変な難関であり、間違っても「内定取り消し」などという事態だけは避けたいはず。電車内でのトラブルを目撃され内定取り消しになった場合、撤回を求めることは出来るのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
昨年、ある企業から就職内定の通知を受けました。ですが先日、電車内で見知らぬ男性とトラブルになったところを面接担当の役員が目撃していたらしく内定が取り消しになりました。口論の原因は些細なことであり、取り消しを撤回してもらいたいと願っているのですが、どうすればよいですか。
【回答】
内定で本採用の日を始期とする雇用契約が成立します。しかし内定の時点では、会社は働かせる職種に必要な資質や能力、あるいは性格など適格性の有無について適切な判定が下せるだけの十分な資料を入手できないのが普通です。
そこで採用内定は、会社が解約権を留保した契約(始期付解約権留保付労働契約)と解され、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」で、採用内定を取り消しても「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当」であれば認められます。取り消せるのは、能力、性格、識見等に問題があることが採用内定後に新たにわかった場合です。
さて口論ですが、相手の非違行為を指摘して正当な批判をすることは、いたずらに感情的にならなければ、勇気のある立派な行為と評価できます。事情を説明すれば、納得してもらえるはずです。
ただ、「口論の原因は些細なこと」であっても、公衆の前の口論がマイナス評価を受けることは間違いないでしょう。内定時には不明だったあなたの性格の一面がわかったことになり、就職先が接客や職場の人間関係に特に配慮が必要な業種であれば、不向きと判断した内定取り消しも理解できます。
とはいえ、せっかくの就職先を失うことは大問題です。上記のとおり解約権が留保されていても、客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由がない限り、内定は取り消せません。
外でトラブルに遭う可能性は誰にでもあり、結局は程度問題になります。会社に反省の念を真摯に伝えても内定取り消しの撤回に応じてもらえないとき、また、それほどのことではないといえるのであれば、労働事件として、各都道府県の労働局長に相談するのがよいでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号