水面下で繰り広げられる官邸と財界の綱引き。ジャーナリスト・須田慎一郎氏が指摘する。
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財界総本山である経団連の次期会長には、榊原定征氏(東レ会長)が就任することが決定している。去る2月10日、この新体制下における副会長人事が発表された。
「この副会長人事が、財界はもちろんのこと、政界、特に官邸サイドに大きく波紋を投げかけることになったのです。それというのも大方の予想を裏切って中村芳夫副会長が退任することになってしまったからです」(現職の経団連副会長)
そもそも中村氏は、経団連事務局出身で企業経営者ではない。かつて土光敏夫元会長の秘書を務めたことから、政界・官界に太いパイプを築き、以降一貫して経団連の政界・官界対策を担ってきた人物だ。「財界の政治部長」の異名を取る。
「はっきり言って、安倍首相と米倉会長との関係は最悪でした。安倍政権が支持する日銀の金融緩和を『無鉄砲だ』などと批判したことがあったからです。それでも官邸と経団連の関係が極めて良好だったのは、中村副会長がいたからこそです。具体的には、水面下で中村副会長と首相側近が緊密に連絡を取り合うことで関係強化を図っていました」(官邸中枢スタッフ)
そのため榊原新会長、そして出身母体の東レも、中村副会長の留任を強く望んでいたのだという。そうした周囲の期待を裏切る形での退任劇となったのは一体なぜなのか。
経団連の副会長人事は、現職会長の専管事項。つまり米倉会長がクビを縦に振らない限り、中村副会長の留任はかなわなかった。
「米倉会長が留任させなかったのは、確かに中村副会長のおかげで官邸と経団連の関係は良好なものとなったものの、安倍首相と米倉会長との関係は相も変わらず冷戦状態が続いているのが実情で、会見で米倉会長は人事について『経営者として優秀で実績を挙げてきた方々』と、まるで中村氏を不適格と断じるような発言をしたことからも、中村副会長の存在はうっとうしくて仕方がなかったのではないか」(前出の経団連副会長)
結局、最後まで米倉会長は翻意せず、退任は確定してしまった。
しかし、中村氏を評価してきた官邸サイドが動いた。
「官邸サイドからの強い働きかけを受けて、経団連は中村副会長を『参与』もしくは『顧問』で残す方針を固めています」(前出の経団連副会長)
※SAPIO2014年6月号