クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
人の居住地域への熊の出没事件が相次いでいる昨今。今年度の熊による死亡者数は、過去最悪レベルに達している。今年度の死者数は11月7日時点ですでに13人。最多だった2023年度の6人と比べても、異常な数だ。
11月7日朝には、山形県米沢市の温泉旅館に熊による“立てこもり”が発生。市の判断により「緊急銃猟」で駆除されたが、一時は旅館内に経営者らが取り残されており、周囲は緊迫した空気で張り詰めた。
かつては「性格はおとなしく怖がり」だと言われていたツキノワグマも、現在は人間をエサとしてみなして襲撃するなど、凶暴化が進んでいるという。
そんなツキノワグマによる熊害(ゆうがい)の中で、本州最悪の出来事とされているのが、2016年に発生した「十和利山(とわりさん)熊襲撃事件」だ。複数の熊が人間を襲ったこの事件はどんなものだったのか。その全貌を別冊宝島編集部編『アーバン熊の脅威』から、一部抜粋・再構成して紹介する。
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人肉の味を覚え餌として人間を襲う
発生年月日:2016年5~6月
発生場所:秋田県鹿角市十和田大湯・十和利山
犠牲者数」死者4名、重軽傷者多数
熊種:ツキノワグマ
日本列島全体では史上3番目、本州のツキノワグマによる人的被害としては最悪の事態が、2016年5月から6月にかけて秋田県鹿角市の十和利山で発生した。十和利山は十和田湖を囲む外輪山のひとつで標高990.9メートル。山麓一帯は自然休養林(レクリエーション用の施設を備えた森林)に指定されている。そこにタケノコ掘りや山菜採りに来ていた人たちが、次々と熊の襲撃を受けることになってしまう。5月の終わりから6月にかけて、わずか半月ほどの間で合わせて4人が熊害によって死亡。他にも多数の重軽傷者が発生している。
当初はタケノコ目的で事件地域に来ていた熊だが、一度、人肉の味を覚えてからは 人を餌とみなし襲うようになった
最初の犠牲者は地元の男性で、5月20日に行方不明になると翌朝、遺体となって発見される。顔面や左半身に多数の咬み傷や爪痕が残されていた。22日には、最初の遺体発見現場から500メートルほど離れた場所で秋田市からタケノコ掘りに来ていた夫妻が襲われ、妻は逃げ出したものの夫は頭部や腹部に多数の爪痕、咬み傷のついた状態で死亡している。
事件を受けて現場周辺は通行止めとされたが、もともと人気のレジャースポットだったため、タケノコ掘り目的で入山する者は後を絶たなかった。
そうして新たに男性一人、女性一人が熊に襲われ、殺されてしまう。タケノコは熊からしても好物であり、当初はそれを奪う人間たちを敵とみなしての攻撃とみられていた。だが4人の遺体は、いずれも熊に餌として喰われた痕跡が確認された。
6月10日になってようやく地元猟友会によって雌のツキノワグマが射殺される。この熊の胃の内容物の多くは人肉だった。初夏のさほど餌に困らない時期であったにもかかわらず、それだけの人肉を食べていたということは、人肉の味を覚え、それを目的として襲っていたということに違いない。

