首都圏でわが子に有名私立中学を受験させようとする親たちの間では、すでに知られた存在だった。
「天下無敵の宮本算数教室」の主宰者として語り継がれていた宮本哲也さんが一般に注目されたのは8年前。2006年12月の『情熱大陸』(TBS系)からだ。そして今年3月放送の『全力教室』(フジテレビ系)に出演、大きな反響を呼んだ。
「ひとりで細ぼそと開いている算数塾なので、外部からの連絡はメールだけ。その対応に忙殺されるのがイヤで、ずっとテレビ出演はお断りしていたんですが、出演したとたん、8年前に出版した『賢くなるパズル』(学習研究社)が通販サイト『アマゾン』の本のランキングで1位。私自身、びっくりしました」(宮本さん・以下同)
同書は、シリーズ累計150万部を突破。宮本さんの塾は一風変わっている。
「私の教室は授業開始時間になったら、無言で黒板に問題を書きます。それを子供たちはノートに書き写して、制限時間が来るまで自力で問題に取り組みます。できた子は手を上げる。私が見て正解なら“まる”で次の問題を与える。間違っていたら“ボツ”で、やり直し。それだけです。私は教室で子供たちとまったくしゃべらないし、問題の解説もしません」
講師は宮本さんひとりだけ。事務方も秘書もいない。授業時間は小3から小5までが算数のみで2時間半、6年生は国語が加わり4時間。休憩はない。小学生がそんなに長い時間集中して問題を解き続けることに、まず驚かされる。
教室は各学年20人程度で、開講は土日のみ。入塾は無試験だが、入塾希望者をメールの先着順で受けつけると、親に向け一斉に算数パズルを送る。パズルを返信してきた親の正解順に20名を受け入れる仕組みだ。
「親子とも事前の面接をしないので、入ってくる子供たちのレベルは見事にバラバラ。最初から賢い子供もいますが、“えっ?”と思うような子供もいます」
それでも最終在籍生徒の約85%が難関中学の開成、麻布、栄光、筑駒、桜蔭、フェリスなどに進学していく。
が、彼が目指しているのは、ただ勉強のできる子を増やすことではない。
「このやり方だからこそ、子供の考える力が伸びるのです。考える力は、大手進学塾が鍛える計算力や暗記力では身につきません。付け焼刃ではない、本物の算数に全力で取り組んだ子供たちにとって、中学受験はそれほど難しいことではないんです」
彼が注目を集めたのは、独自のメソッドで、結果を出し続けているからだが、それだけではない。テレビや講演会で親に向けた言葉の数々だ。
「親が何気なく使う“がんばってね”は最悪。子供を追い詰める言葉です。“まだまだね”と言っていることで、それを子供は感じるのです」
その上で子供にとって、ひとつの問題を自分の力で考えて、正解までたどりついた達成感に勝るものはないという。
自分に自信が持てる。親や教師の叱咤激励より、それが子供たちの人生をよい方向に導くと、宮本さんは確信していると話す。
※女性セブン2014年6月19日号