おかずやご飯をさまざまなキャラクターに模してデコレートするキャラ弁がブームだ。お弁当は作り手の「心」を映し出しているが、日本説得交渉学会会長で社会心理学者の榊博文さんは、「日本のお弁当には食事以外にも重要な役割がある」と言う。
「視覚と味覚に訴えるお弁当は、時に会話以上の役割を果たす重要なコミュニケーションツールとなります。言葉では簡単に『愛している』と言えますが、お弁当作りは材料選びや買い物から始まって、下ごしらえ、実際の調理など手間暇がかかる分、子供や夫に愛情の『深さ』が伝わりやすい。逆に夫婦げんかの翌日、弁当箱に豆腐1丁しか入ってなかったら、夫は妻の怒りの激しさを知るわけです。お弁当はよくも悪くも人を動かす大きな力を持っています」(榊さん)
同志社女子大学教授の中島純一さんもお弁当の持つ「メッセージ性」に注目する。
「単に絆や愛情を伝えるだけでなく、けんかした夫婦がお互いに謝れずにいて気まずい時、心を込めたお弁当でわだかまりが解消することがあります。叱られてすねた子供も、おいしそうなおかずが満載のお弁当を見れば、母親の愛情を感じて心を開くでしょう。お弁当を介した間接的なコミュニケーションは、直接的な表現を苦手とする日本人にしっくりくるのです」(中島さん)
現在、この特性を生かしたシステムが研究開発中だ。妻や母親がお弁当を作る姿をあらかじめ録画し、夫や子供がお弁当を食べる際に弁当箱に付属するモニターで再生。さらに夫や子供がお弁当を食べる様子を弁当箱のふたに付いたUSBカメラで撮影し、「これはおいしい」などのメッセージとともにリアルタイムで妻や母親に送るという試みだ。
お弁当の未来が広がる一方、現在のキャラ弁ブームには思わぬ落とし穴もある。
「子供は幼稚園や学校でキャラ弁を見せ合い、『このピカチュウはかわいくない』『ウチのはよくできている』と無邪気にランク付けします。また、近頃の母親は手間暇かけて作ったお弁当をスマホで撮影してフェイスブックなどのSNSに投稿し、『いいね』ボタンが押されるかどうかを非常に気にかけます。
子供によるランク付けやSNSへの投稿が母親の虚栄心を刺激し、『あそこのキャラ弁はダサい』『あの家には負けられない』という過剰な競争意識が生まれると、子供のために作ったはずのお弁当がママ友バトルの温床になりかねません」(中島さん)
よくも悪くも、お弁当は作り手の内面心理を映し出す鏡であるようだ。
※女性セブン2014年11月20日号