国内

イスラム国邦人人質事件 政府は解放交渉の有力ルートを無視

 1月20日、イスラム過激派組織・イスラム国が拘束しているジャーナリスト・後藤健二氏と民間軍事会社代表・湯川遥菜氏の殺害予告を行ない、2億ドルの身代金支払いを要求した(24日には湯川氏が殺害されたとする映像が公開された)。この件で、本誌は外務省関係者から昨年、後藤氏解放に向けて身代金交渉を行なっていたたものの、不調に終わったとの証言を得た。

 日本政府は、湯川氏の解放交渉でも大失策を犯していた。本誌は昨年11月、日本で唯一、イスラム国の幹部と直接交渉するパイプを持つイスラム法学者の中田考・元同志社大学客員教授への独占インタビューを掲載した(12月5日号)。

 その中で中田氏は、昨年8月、イスラム国司令官から、湯川氏をイスラム法による裁判にかけるために通訳を依頼され、救出するチャンスだと考えて行動したが、外務省の非協力的な姿勢で現地入りに大幅に時間がかかった結果、米国による空爆が開始され、湯川氏に会えないまま帰国せざるを得なかった経緯を証言した。

 しかも、政府(警視庁)は昨年10月、テロリストの協力者という疑い(私戦予備・陰謀容疑)で中田氏の滞在先を重要参考人として家宅捜索した。中田氏はサウジアラビアの日本大使館専門調査員を務めるなど、イスラム諸国との外交に協力してきた人物だ。

「外務省は私にイスラム諸国とのルートがあることを十分に知っています。今までそれを利用しておきながら、今回、湯川さん救出のためにイスラム国に行った私を見捨てたわけで、まったく理解に苦しみます」と中田氏は語った。政府は人質解放交渉の有力なルートを使おうとしなかったばかりか、妨害までしたのである。

 その後、警察から“容疑者扱い”を受けた中田氏はイスラム国司令官との連絡を一切絶っていたが、邦人2人のビデオ公開を見て緊急会見し、「72時間は短いので時間が欲しい。私自身、イスラム国に行く準備がある」と呼びかけた。

 安倍晋三首相は今回の中東訪問でパレスチナ自治政府のアッバス議長に邦人救出への支援を要請したが、なぜ中東諸国への協力要請をもっと早い段階でしなかったのか。今回の歴訪でも、それを言い始めたのは1月20日の殺害予告ビデオ公開の後からである。

 はっきりいえば、これまで救出をサボタージュしてきた関係各省や安倍氏が、最後になって「全力で」「あらゆる手段で」「人命が最優先」などといってみせても白々しく許し難い。

※週刊ポスト2015年2月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン