女性の社会進出について語られる時代だ。安倍内閣は、女性が輝ける社会を目指すとしているが、直木賞作家の佐藤愛子氏は、「外で働くことだけが輝く生き方ではないと思う」と語る。
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私なんか大正生まれで、女性の社会進出なんて考えたこともありませんでした。男は偉いもんだと思わせられて育ってますから、どうしても男性に対して一目置くというか、期待を持ってしまいます。
正直言うと、私は小学校の2年生くらいまではお母さんは家にいて子供を育てるという形がいいと思っています。
というのは、そのくらいの年に人間の基礎が出来ると考えるからです。犬猫を虐めてはいけない、嘘をついてはいけない、人にはわからないと思っていても神様はちゃんと人を見ていらっしゃるとか、そういう素朴な教えが人としての基礎を作るんじゃないですか。その基礎なしで知識がどっと入ってくる。するとロボットみたいな人間になってしまうような気がするの。
ただし、子育てというのは、辛気くさいものなんですよね。
昔は女にとって他に楽しいことなんて何にもないし、社会進出なんてしろといわれても出来ないし、貧乏だし、しょうがないからエネルギーを全部子育てに使ってた。女の生き甲斐は子供でした。
今は必ずしも子供ではなくなりました。仕事が生き甲斐という人も増えてきています。家で子供を叱っているよりも外に出て、お金を得る方が楽しい。若々しくて元気でいられる。子供もそれなりに自立して、ききわけがよいので、母親のあとを追ったりしないのですね。保育園で楽しいのか辛いのかわからないけれど、とにかくそこで元気に一日を過ごす。合理的に育った子どもは、知識だけは豊かに育つかもしれないけれど、人間性の豊かさは育ちにくいんです。
もちろんどうしてもやりたいことがあるなら、人はそれに向けて進めばいいです。その代わりしたいことに突進するということには、どこかで何らかの犠牲が伴うということを覚悟するのが必要です。
子を持つ女性が安心して社会進出出来るような世の中にしてくれ、と要求するんじゃなく、どうしても進出したい人は苦労を恐れずにその情熱でやりぬけばいい。「女性が輝く時代を作ろう」と安倍さんはいうけれど、外で働くばかりが輝く生き方ではないと思いますね。お膳立てをしてもらって大臣になっても必ずしも輝けはしないんですからね。
●取材・構成/末並俊司
※SAPIO2015年2月号