ビジネス

超高齢化社会崩壊を防ぐためには介護職の給与増が必要になる

 高齢化社会を迎えながら、日本はその処方箋をまだ見つけることができないでいる。キープレイヤーが期待される介護職で働く人々は薄給で、離職者が後を絶たない。高齢化社会のコストはどうするべきか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。

 * * *
 経済力だけではなく、学力でも幸福度でも、さまざまな世界ランキングでイマイチな順位になることが多い最近の日本。だが、これだけは絶対に世界のトップを走っているといえるのが超高齢化だ。

 日本はどの国よりも先行して高齢化が進む課題先進国である。弱みは強みで、ピンチはチャンスだ。この件に関しては、世界の先陣を切って課題解決のお手本を示してやろうぜ、というポジティブな向き合い方もあるのだが、しかし、実際の高齢化対策はちっともうまくいっていない。

 高齢化社会の基本的な調査研究では、むしろ世界に遅れをとっているようだ。先月の末に慶応大学医学部と厚生労働省の共同研究グループが、「認知症の社会的費用」を日本で初めて明らかにした。これだって、他の多くの先進国はとっくに行っている類のものだという。

 慶應義塾大学のプレスリリースによると、日本の「認知症の社会的費用」は、以下のような数値になっている。

〈推計の結果、2014年の日本における社会的費用は、年間約14.5兆円に上ることが明らかになった〉

 金額が大きすぎてどんだけ凄い数字なのか感覚的に掴みづらいが、たとえば2014年の日本の国家予算(一般会計)は95.9兆円だった。14.5兆円は、とりあえず国家予算と桁が同じである。とんでもない額であることは分かる。そして、その内訳はこうだという。

 1.医療費 1.9兆円(入院費:約9,703億円、外来医療費:約9,412億円)

 2.介護費 6.4兆円(在宅介護費:約3兆5,281兆円、施設介護費:約2兆9160億円)

 3.インフォーマルケアコスト 6.2兆円

 この内訳の中で注目すべきは3番目だ。「インフォーマルケアコスト」とは何か。プレスリリースには〈家族等が無償で実施するケア(介護)のことです〉とある。認知症の家族の介護を介護保険サービスの費用に置き換えたら幾らになるか、あるいは、介護をする代わりに働いていれば幾ら賃金が得られるか、それら2つを組みあわせて算出したものとのことだ。

 計算式はかなりややこしいのだが、これまで「大きな負担」のような言葉でしか表せなかった家族介護者の労力の総量を、数字で可視化したわけだ。 その認知症の「インフォーマルケアコスト」は、2番目の介護保険サービス利用費の合算値とほぼ同じなのである。

 日本の高齢者介護が、いかに家族の「犠牲」のもとでなされているのかが、よく分かる。医療や介護はどんどん「在宅へ」の方向に移行させられているから、今後はもっとこの「インフォーマルケアコスト」が増えるのだろう。でも、そのやり方で日本の高齢者介護は大丈夫なのか?

 認知症をはじめとした高齢者の介護疲れで自殺とか、殺人とか、すでにそういう事件は頻発している。そこまで派手なことにならなくても、たとえば「介護離職」の問題だって深刻だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン