東西スポーツと東西新聞ではフロアも本紙が上なら、配送時の新聞の積み方まで本紙が上。そこには格差が存在し、かつて常勝球団・東都ジェッツ担当キャップとして鳴らした鳥飼はある誤報の責任を問われ、畑違いの本紙社会部に飛ばされたりもした。
ただし誤報といっても彼がジェッツの次期監督を大阪ジャガーズ元監督〈桐生〉と書いた時点で話は桐生で固まっていたのだ。しかし東都新聞オーナーの〈京極〉は他紙に抜かれたことを嫌い、一転して生え抜きの〈東郷和義〉を抜擢した。つまり鳥飼のスクープは京極の鶴の一声で誤報にされたのである。
「実際、スクープに潰された人事は少なくない。記事を出すタイミングが大きく現実に作用するわけです」
が、そこで終わる鳥飼ではない。社会部でも人脈を開拓し、古巣に返り咲いた彼に一目置く社会部の精鋭〈工藤〉は自ら転属を志願したほど。そんな鳥飼の下に香織や工藤や、プロ野球投手から鳥飼の勧めで転身した〈笠原〉がいて、鳥飼に因縁をもつ遊軍キャップ〈江田島〉もいる職場には日夜怒声が飛び交い、殴り合いさえ珍しくなかった。
笠原がドラフトの目玉でメジャー志望とも言われる高校No.1投手〈唐沢涼〉と接触し、彼が練習スパイクに〈ピー革を貼らずにタフトゥーを塗る〉、つまり日本の補強革ではなくメジャー愛用の硬化剤を塗っていたことから本人の第一希望を見抜く「勝ち投手」などは著者の長年の現場経験が生きる。
中でも山場は記者の勝負処であるストーブリーグ。日本シリーズ出場を逃したジェッツ東郷監督の去就と新監督人事を巡り、鳥飼らは不眠不休で取材に励むが、最大の敵はジェッツの系列紙・スポーツ東都だ。特にキャップの〈紀野〉は東郷監督から信頼も篤く、同じグループだけに情報は早いはず。しかし紀野の視点で綴られる第六話「三勝三敗」は、むしろ書けないことの方が多い紀野の立場の複雑さを滲ませ、実に興味深い。