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高齢の夫の免許証を自主返納させたい 弁護士の見解

 昨年10月、宮崎市内で軽自動車が歩道を暴走し、多数の死傷者が出た事故をはじめ、高齢者の交通事故が多発している。どうしても車に頼らざるを得ない地域に住んでいる人にとって、免許証の返納は一大事だが、高齢になった家族に車の免許証を自主返納させることはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 夫は78歳。認知症もなく元気です。しかし先日、車で出掛け戻ってくると車体のドア部分に擦れた傷を発見。夫はぶつけた記憶がないといいます。それが逆に心配で、二度と運転をしないように注意しても反発するだけなのです。こういう場合、法的な力で夫に運転免許証を返納させることはできませんか。

【質問】
 認知症でなく、いたって元気なご主人から免許証を取り上げるのは難しいと思います。もっとも、認知症は素人が的確に判断できるものではありません。もし、認知症であれば、道路交通法103条1項により、免許が取り消されます。

 道交法のいう認知症とは、介護保険法の定める「脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」です。医師が免許取得者について認知症と診断すれば、守秘義務を免除されて公安委員会に届け出ることができますから、まずは医師の診察を受けてもらうことです。

 ご主人が診察を受けなければ、何もできません。しかし、75歳以上のドライバーは、免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられ、一定の点数を取らないと認知症の恐れがある「基準該当者」になります。

 基準該当者が過去1年以内に一定の危険運転をしたことがあれば、専門医の臨時適性検査を受けなくてはなりません。臨時適性検査では、認知症かどうかの診断を行ないます。その結果を受けて公安委員会が免許更新の許否を判断します。

 更新時まで時間があれば、免許証の自主返納を勧めるほかありません。高齢者の運転による交通事故が多発していますし、警察では運転免許の自主返納を歓迎しており、これを支援しています。

 運転免許返納者には、そのことがわかる運転経歴証明書などが発行され、身分証明書代わりになるだけでなく、その提示により、いろいろな特典が受けられるように工夫されているようです。

 警察官など専門家に自動車の擦り傷などを見てもらい、事故の可能性についてご主人を説得することも有効と思います。そこでまずは、最寄りの警察署に相談されてはいかがでしょうか。

【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2016年3月18日号

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