◆「今でも彼女が愛おしい」

 11月1日の朝、ブリタニーは、友人3人とダンの弟を合わせた6人でテーブルを囲んで、普段より遅めの朝食を取った。遅くなったのは、ブリタニーが前夜に軽い発作を起こしたからだった。朝食を終えると、愛犬・チャーリーを連れ、ダンと一緒に1時間半の散歩に出かけた。家に戻ると、ブリタニーは、夫を見つめて言った。

「ダン、時が訪れたようだわ」

 問題なく散歩が出来たブリタニーがなぜ、この日を人生最後の日に選んだのか。それはメディアに事前に報道されていたからではないという。

「その数週間前から、妻の体調はどんどん悪化していきました。彼女がもっとも恐れていたのは、心臓発作を起こした場合、自らの意思で薬を飲むことが出来なくなるということでした」

 ダンはその日、発作を起こす妻の左目が麻痺したようにのっぺりとしていることに気がついていた。「少し休まないかい?」と、彼は尋ねた。彼女の返事は、もはや言葉になっていなかった。

「ダン、ブレ、ブレックファースト、ハ、ハイキング……」

 ブリタニーが伝えたかったのは、「朝食後に一緒にハイキングにでも行きましょう」ということだった。午後3時になると、ダンは弟と一緒に致死薬「セコバルビタール」の用意を始める。致死薬は、合計100個のカプセルで、2人は1個ずつ丁寧に開け、マグカップの中に落としていく。

 母のデビーは、娘の好きなメアリー・オリバーの詩を朗読。これから安らかに死を迎えようとするブリタニーは、友人や母親と過去の幸せだった時の思い出について語り合う。彼女は、最後の最後まで、涙は見せなかった。

 午後3時半、ブリタニーが胃薬を服用した。致死薬による吐き気を阻止するためで、これ自体は死をもたらさない。1時間後の4時半、彼女はマグカップを手に握り、まずは軽くひとすすりした。人によってはヨーグルトに混ぜたりすることもあるというが、彼女は水だけに溶かすことを選んだ。

「うわっ、何これ? まっずい!」

 予想よりも苦みが強く、少し戸惑ったブリタニーだが、オレンジジュースと一緒に喉に流し込んだ。そして、5分もしないうちにまぶたが閉ざされ、ゆっくりと睡眠状態に入っていく。

「私が見てきた何千回もの妻の睡眠となにひとつ変わりがなかった」

 ダンは、まるで数時間後に目覚めそうな彼女の顔を見つめ、枕元で何度も「愛している」と囁いた。呼吸が完全に止まるまで、彼は、結婚式やハネムーンの思い出話を耳元で語りかけ、妻の頬を優しく撫でながらキスをした。

 ブリタニーは午後5時に息を引き取った。致死薬を飲む前に、世界中の人々に向け、フェイスブック上に、冒頭で示した最後の思いを書き記していた。

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