ライフ

YouTubeで尊厳死を宣言 29歳米人女性の死の瞬間

亡き妻の写真を持つ夫のダン

 ジャーナリスト、宮下洋一氏によるSAPIO連載「世界安楽死を巡る旅 私、死んでもいいですか」。スイスから始まった「安楽死を巡る旅」は、オランダ、ベルギーを経由していよいよ海を渡ろうとしている。アメリカは世界をリードする超大国である。一方、キリスト教信仰が厚く、「神の国」という顔を持つ同国で、安楽死を巡る議論が進んでいるとは言い難い。そんなアメリカで一昨年末、ある女性の死が衝撃的に報じられ、事態が急展開した。

 * * *
〈親愛なる友人と家族よ、さようなら。末期の病気により、私は今日、尊厳死します。(中略)世界は美しい場所。旅は、偉大なる私の教師。友人や家族は、偉大なる提供者。今でも、これを書いているベッドの周りで、私を支えてくれている。さようなら、世界のみんな〉

 2014年11月1日、世界中で報じられたある女性のフェイスブック上の書き込みである。死の直前に自らキーボードをたたき、投稿したものだ。

 ブリタニー・メイナード、享年29。美貌を持って生まれたこの女性が脳腫瘍に冒され、尊厳死を遂げたという物語は、死の1か月前にネット上で尊厳死を宣言するという衝撃的な手法をとったことで全米で大きく報じられ、死の1年半後、カリフォルニア州議会での尊厳死法制定にも繋がっていく。

 ブリタニーの夫、ダン・ディアス(43)を説得し、ここまでやって来るのは簡単ではなかった。交渉過程を記すことは省くが、私はどうしてもこのタイミングでダンに会いたかった。

 私が訪れる直前の6月9日、カリフォルニア州で、尊厳死法─正確には、End of Life Option Act(人生終結の選択法)─がついに施行されようとしていた。それは夫のダンが、同州議会を駆け巡り、勝ち取った賜物だった。おめでとう、ダン。私は、まずその出来事を祝福した。

「いや、私のではない。彼女の法です」

 笑顔で喜びを表そうとするように見えたが、顔つきはすぐに険しくなった。

「彼女の願いを何が何でも叶えると誓っていました。約束が2日前、ようやく果たせました」

 29歳でこの世を去った若きアメリカ人女性の願いとは、一体何だったのか。死の1か月前に投稿された動画では、彼女はこんな言葉を綴っている。

「アメリカ国民全員が、同じ医療制度(尊厳死)を受けられることを望んでいます……」

 前述したが、アメリカでは、一部の州を除き、医師の処方した薬物を使用した尊厳死が法制化されていなかった。カリフォルニア州在住のブリタニーが、当時、尊厳死を実現するためには、別の州に引っ越さなくてはならなかった。そうした医療制度への疑問を訴えたこの動画は1時間で10万アクセスを記録し、2日間で800万人が視聴した。

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
乱戦の東京15区補選を制した酒井菜摘候補(撮影:小川裕夫)
東京15区で注目を浴びた選挙「妨害」 果たして、公職選挙法改正で取り締まるべきなのか
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
成田きんさんの息子・幸男さん
【きんさん・ぎんさん】成田きんさんの息子・幸男さんは93歳 長寿の秘訣は「洒落っ気、色っ気、食いっ気です」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン