国際情報

ドゥテルテ氏 密売人ら4000人殺しても市民から批判少ない

ダバオ市長時代のドゥルテ氏。イスラエル製短機関銃を携行

 米国に挑戦状を叩きつけ、中国への接近を仄めかしたかと思えば、周囲が火消しに奔走。国内では麻薬撲滅を強行し、国民から喝采を受ける。フィリピンの盟主がここまで注目を浴びたことはあっただろうか。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71)、その原点の地を歩く。

 * * *
 ドゥテルテ大統領と30年近く親交があり、10月下旬の訪日時も随行した側近の一人、中華系フィリピン人男性(60代)は、興奮気味に当時をこう振り返った。

「私の目の前で人が殺害されるのを3回見たことがある。そのうちの1回は車の運転中で、前を走る車が何者かに銃撃されたんだ。ハンドルを握る手が震えたよ」

 マルコス独裁政権下の1970年代半ば以降、ダバオ市内は共産党の軍事部門、新人民軍(NPA)と国軍の交戦現場と化した。これに加え、犯罪組織による身代金誘拐事件も毎日のように発生したという。

「特に誘拐事件は犯罪組織と銀行員が結託し、口座に大金がある中華系フィリピン人が標的にされた。私も持っている口座はすべて偽名を使っていたよ」

 市長に就任したドゥテルテ氏はこの混乱状態を一掃しようと、警察による特殊部隊を編成し、犯罪組織の撲滅に取り組んだ。側近の男性はこう言い切る。

「ドゥテルテ市長の手腕でダバオの治安は劇的に改善した。これが市民から絶対的信頼を得ている理由だ。現在、進めている麻薬撲滅戦争も、一部では批判が挙がっているが、ダバオの当時を知らない彼らに大統領のやり方は理解できない」

 麻薬撲滅戦争によりこれまでに殺害された密売人・中毒者は4千人超とされている。国際社会や国内の人権団体からは非難の集中砲火を浴びているが、一般市民から同じような声はあまり聞こえない。それは麻薬の蔓延だけでなく、政治家の汚職など歴代政権下におけるこの国の腐敗体質を身に沁みて感じているからだ。

 政権発足から半年。まだ時間はかかるかもしれないが、国民たちはこの国に変革が訪れると信じている。

 そして米国の威信が名実ともに失われた現在、ドゥテルテ氏はアジアの安全保障を左右するキーパーソンなのは間違いない。南シナ海の領有権問題がその典型だ。今後も暴言を吐き、発言が二転三転するかもしれない。それでも彼は国内で絶大な支持を集め続けるだろう。その実情を理解した上で、日本は慎重な外交を心掛けるべきだ。

※SAPIO2017年1月号

関連キーワード

トピックス

群馬県前橋市の小川晶前市長(共同通信社)
「再選させるぞ!させるぞ!させるぞ!させるぞ!」前橋市“ラブホ通い詰め”小川前市長が支援者集会に参加して涙の演説、参加者は「市長はバッチバチにやる気満々でしたよ」
NEWSポストセブン
ネットテレビ局「ABEMA」のアナウンサー・瀧山あかね(Instagramより)
〈よく見るとなにか見える…〉〈最高の丸み〉ABEMAアナ・瀧山あかねの”ぴったりニット”に絶賛の声 本人が明かす美ボディ秘訣は「2025年トレンド料理」
NEWSポストセブン
千葉大学看護学部創立50周年の式典に出席された愛子さま(2025年12月14日、撮影/JMPA)
《雅子さまの定番カラーをチョイス》愛子さま、“主役”に寄り添うネイビーとホワイトのバイカラーコーデで式典に出席 ブレードの装飾で立体感も
NEWSポストセブン
審査員として厳しく丁寧な講評をしていた粗品(THE W公式Xより)
《「脳みそが足りてへん」と酷評も》粗品、女性芸人たちへの辛口審査に賛否 臨床心理士が注目した番組冒頭での発言「女やから…」
NEWSポストセブン
12月9日に62歳のお誕生日を迎えられた雅子さま(時事通信フォト)
《メタリックに輝く雅子さま》62歳のお誕生日で見せたペールブルーの「圧巻の装い」、シルバーの輝きが示した“調和”への希い
NEWSポストセブン
宮崎あおい
《主演・大泉洋を食った?》『ちょっとだけエスパー』で13年ぶり民放連ドラ出演の宮崎あおい、芸歴36年目のキャリアと40歳国民的女優の“今” 
NEWSポストセブン
日本にも「ディープステート」が存在すると指摘する佐藤優氏
佐藤優氏が明かす日本における「ディープステート」の存在 政治家でも官僚でもなく政府の意思決定に関わる人たち、自らもその一員として「北方領土二島返還案」に関与と告白
週刊ポスト
大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
会社の事務所内で女性を刺したとして中国籍のリュウ・カ容疑者が逮捕された(右・千葉県警察HPより)
《いすみ市・同僚女性を社内で刺殺》中国籍のリュウ・カ容疑者が起こしていた“近隣刃物トラブル”「ナイフを手に私を見下ろして…」「窓のアルミシート、不気味だよね」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情