このニュース自体は9月8日にひっそりと報じられたものだが、この手の話題が大盛り上がりとなったのは2011年のことである。サントリーが発売する韓国焼酎「鏡月」のHPが大炎上したのである。原因は以下の記述にある。
〈「鏡月」というその名前は韓国/東海(日本海)に隣接した湖「鏡浦湖」(キョンポホ)のほとりにある古い楼閣「鏡浦台」(キョンポデ)で、恋人と酒を酌み交わしながら、そこから見える5つの月を愛でた詩に由来しています。〉
この時、サントリーに批判が殺到したのである。まさに5000人がフジテレビに対して「韓国偏向の番組づくりはやめろー!」とシュプレヒコールを上げた8月21日の直前で、ネット上は空前の嫌韓ブームが到来していた。
「東海(日本海)」と、あたかも韓国の言い分に従ったかのような記述だったと解釈され、同社に対する批判の書き込みがネットに殺到するとともに、同社にも電凸(電話突撃)が相次いだ。中には「チョントリーに電凸してみた」という動画もYouTubeに公開され、ネチネチとクレームをつける男性と困る女性のやり取りが残っている。
さらには、アマゾンの鏡月のカスタマーレビューは「★1つ」だらけに。現在も平均は「★1つ」で「韓国産=今話題のウンコ酒の亜種と思われますので、長生きしたければ買うような代物ではありません」といった嫌がらせの書き込みが並ぶ。
サントリーはこの件についてお詫びページをつくり、「この地名表記については、弊社の内容確認の不備によるもので、特別な意図をもったものではございません」と説明し、当該記述は削除された。
うっかりミスであろうとも、盲信的な嫌韓の人々によって「反日企業」扱いされることがいかに煩わしいかを示す“墓標”が今もこうして残っているのである。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。
※週刊ポスト2017年9月29日号