かくして綾乃さんと真一氏は、“ご飯友だち”となった。時間が経つにつれて知ったのは、真一氏は妻を亡くしていること、子供は独立して、現在は一人暮らしであること、都内にいくつかビルを所有していること等々。
「つまりお金はあるし、まだ元気だし、若い女の子とたまにデートしたい。そういうおじさんなんだと理解したんです。私のほかにも、ご飯友だちがいるようでしたが、それは気にならなかった。少し前に話題になっていた紀州のドン・ファンっていたじゃないですか。資産の額とか実情はぜんぜん違うかもしれないけど、印象としては、彼もそんなおじさんだったのかもしれません。神楽坂のドン・ファン」
行きたいレストランを見つけると真一氏に報告し、連れていってもらう。インスタにのせて、“いいね”をたくさんもらう。それは綾乃さんにとって、若さの特権であり、つかのまの贅沢だった。若い女の子とデートしたいおじさんと、美味しいものを食べたいけれど、贅沢できない30代のOL。win-winの関係だと綾乃さんは満足していた。
◆おじさんって孤独な生きものだから
「男性として好き、という感情はまったくなかったんです。当時は夫がいたから、というのもあったけど、私はこれまで見た目重視だったし、年齢が違いすぎるし、あくまで美味しいものを食べに連れて行ってくれることが彼の最大価値だったから。でもそれこそが、私自身もいちばん大切にしたかったものだったんでしょうね」
月1回の食事はそれほど多い回数ではないかもしれない。だが、定期的に会うことによって、2人が共有する話題は着実に増えていった。仕事、趣味、そして夫婦がうまくいってないことを、綾乃さんは真一氏に相談するようになった。いつしか同世代の男性を異性として見られなくなっていた。ましてや年下の夫は。
「彼は決して離婚をすすめませんでした。でも、万が一、綾ちゃんが一人になったら、僕が迎えにいきたいと、冗談とも本気ともとれない顔で、言うんです」