それがどのように日本に伝わり、多くの人に信じられていったのか。追跡した浦上氏が語る。
「この日本語版を見た人を辿っていくと、私が確認した中で一番早かったのは2月20日、佐賀県の男性が機械翻訳されてどうにか意味がわかる文面をLINEで受け取っていたことがわかった。それ以降のものは、日本語が少しずつブラッシュアップされていくつものバージョンに分かれていた」
拙い日本語が混ざっていることも、もとが機械翻訳されたものであれば腑に落ちる。デマの“スーパー・スプレッダー”もいた。
「著名なブロガーなど発信力のあるインフルエンサーがSNSやブログにあげて急速に広がっていた。情報を受け取って自分でも拡散した人に取材すると、病院の院長の奥さんやPTAの会長夫人、薬剤師など、社会的地位のある人から送られてきたから信用してグループLINEなどで他にも伝えたというケースが多かった」(浦上氏)
この偽情報を信じた1人に世界を相手にビジネスをしてきた経済人がいた。彼は知人や家族に情報を回してお湯を持ち歩くように呼びかけた。国際人で情報リテラシーが高く、一般人が知ることができない高度な情報に接してきた人物までが善意で偽情報の中継者になっていることが、今回のデマの怖いところである。
新型コロナウイルスの感染力は「1人から2~3人に感染」と推定されているが、SNSを通じたデマの感染力ははるかに強力だ。とくにグループLINEの場合、1人が情報をアップすると、10人や20人のグループメンバー全員に瞬時に共有され、「他の人にも知らせておこう」と考えたメンバーたちからそれぞれが参加する別グループへと爆発的に拡散していく。
※週刊ポスト2020年3月20日号