面倒くさがりだと自称する兄者、とにかく苦労はしたくないと言う。だから地元に住み続けるし実家にも居続けるというのだが、交通が不便なことと高齢化の加速で限界集落状態の地域も多いため仕事が少なく、県内でもせめて横浜まで出ないとまともな仕事は見つからない。通勤そのものは大学にも通っていたくらいなので隣市くらいなら苦ではないそうだ。また、これまでバイト先で社員に誘われることもあったが、「外食や小売はバイトのほうが楽だしフルで入れば金は変わらなかった」そうだ。確かに若いうちならそうだろう。実家住まいなら福利厚生の良し悪しも、それほど考える必要はなかったかもしれない。それでも不思議なのは、プライドもあるのになぜ望んで非正規なのか。
「ただ自分の楽な方向で生きてきただけなんですよ。地元でバイトして、いつのまにかずっと食って来れた。だから変える気もないし、変える必要もなかった。人間らしく生きたいんです。責任ないとこで適当に生きていたい。まあ、放蕩息子でしょうね」
もちろん甘えている自覚はあるようだ。金持ちだから働かなくてもいいだろうが、もう40歳を過ぎたおじさんである。
◆親子だって合う、合わないはあると思う
「父親とは何度も喧嘩しましたよ。いまは諦めているのかなにも言いません」
父親は東北から出て、一代で豪邸を建てた苦労人だそうだ。いまはリタイアして悠々自適の毎日、家にずっといるのでウザいという。
「前は日本中あちこち旅行や釣りに行ってたけど、コロナのせいで家にいるんです。だからスロ(パチスロ)やネカフェに行くしかない」
とにかく父親が嫌いだという。もう45歳にもなれば父親もなにもないのではと言うと、「歳は関係ないでしょ」と言われてしまったが、40歳も過ぎたらそんなわだかまりは無くしてよいのでは。
「ずっと気に入らないんですよね、親子だって生まれてから知り合うわけで、合う合わないはあると思うんですよ。親子だからなんて信じられませんね」
父親の話になると語気が強くなる。弟者のほうはあいかわらずスマホのゲームとにらめっこだ。「煙草いいですか?」と兄者に聞かれたのでどうぞと促す。
「母親は優しいですよ。うるさいことも言いません。仲はいいです」
一転して母親の話になると優しい顔に戻る。そんな話の間も弟者はひたすらゲーム。だが、ふてくされるわけでもなくインタビューの場所にはいてくれるわけで、兄者と一緒にいるのが好きなのだろう。人見知りするタイプだと言うのに、良い子だ。40歳過ぎのおじさんをつかまえて良い子もないものだが、これが中高年の態度ではないことも事実だ。
「メシはそれぞれ外食とか、コンビニとか。母親がラップして作り置きしてくれてますが、あんまり食べないですね」
40歳も過ぎた息子二人の食事を作る母親、もう60代後半だが、息子とはいくつになってもかわいいものなのか、父親の事なかれと母親の溺愛こそが彼らの気楽な人生を支えている。何と兄者は車も買ってもらっている。
「国産の中古ですけど、今日もそれで来ました。弟者は免許持ってるけど運転しないんで、もっぱら運転手は俺です。ガソリンは自腹ですよ。税金とか保険は親が払ってるけど」
車だけでなく年金も親がずっと払っているという。以前は父親がうるさいので月に3万円ほど家に入れていたが、最近はうやむやになったそうだ。バイト代は全部小遣いで、そんな家庭でのらりくらりと今に至る。
「役には立ってますよ。限定のマスクとかトイレットペーパーとか、朝一で買い占める係は俺たちですもん」
昨今のコロナ騒動の買い出しも親の代わりに兄弟で行くこともあるという。無職の強みというべきか。それにしても、男の兄弟なら反発したりライバル心を燃やしたりもありそうなものだが、兄者弟者は本当に仲良しだ。
「そう、仲はいいですね。一緒にスロ行ったり、家でゲームやったり」