1980年の渋谷駅前、スクランブル交差点(時事通信フォト)

1980年の渋谷駅前、スクランブル交差点(時事通信フォト)

鉛筆削る係でも正社員でいられた

 丸本さんの20代、30代は主に1970年代と1980年代、日本の黄金期と言ってもよい。国民年金(基礎年金)の掛け金は1970年で月450円、1989年で7700円、およそ20年で20倍近くになったというのも凄いが、いずれも給料は右肩上がりで厚生年金の負担感は少なかったという。ましてその時代は介護分保険料も後期高齢者支援分保険料はなく、消費税すら存在しなかった(※消費税は1989年4月導入)。いま国民が支払っているものの大半は約30年前までは存在しなかったし、あっても著しく安かった。人口ピラミッドの為せる技である。

「いい時代だったよ、物を作れば必ず売れたし、まあたいしたものじゃなくても売れた、仕事も忙しいけど楽だったね」

 丸本さんはマスク越しに目を細める。

「サラリーマンは気楽な稼業で窓際になっちゃえば鉛筆削る係でも正社員でいられたんだよ、ほんとにそんな先輩がいた。出世はないけど辞めろなんて言われなかったし」

 いまや簡易労働のほとんどは非正規となり、非正規すら雇えない企業は各人が簡易なものは自分で、つまり複数の仕事をこなすようになった。筆者の知る大先輩でも窓際族はいて「紙を切る係」「文書を運ぶ係」というのを本当にしていた男性がいる。共に大手海運と大手商社だが、一般職女性の管理係という名のご機嫌取り、というのも存在した。いわばドラマ『ショムニ』の井上課長みたいな人がいたのだ。

「社会がやさしかったからね、会社員だけじゃなくて商店街のおじさんだってスポーツ新聞読んで、すぐ店閉めて呑みに行ってさ、それでみんなやってけたのよ」

 ゆるやかでおおらか、が許された『サザエさん』そのままの時代、夕方に家族全員集まってテレビで歌番組を観た。嗜好の多様化はもちろんだが、いまや多くは家族であってもみな集まれない、年齢問わず家族すらない独居も増えた。

「会社も優しかったね、言い方があれだけどちょっと頭がヘンになったのとか、学歴はいいけど営業がまったくできない、会社に1円も金入れられないとか、そんなのでも同じ会社の家族だからって定年まで面倒みたからね、というか定年まで勤めないほうがおかしな時代だったよ」

 いまでは考えられないが、1980年代くらいまでは転職する者など「前の会社で何かやらかしたのではないか」「使えないから辞めさせられたのではないか」「忠誠心がない」と頭から決めつけられるほどに終身雇用が徹底していた。一度入ったらずっと会社にいられる。その安心感が消費に向かわせた。その最たるものがマイカー、マイホームである。

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