1997年11月17日、北海道拓殖銀行本店前で「拓銀破たん」の号外を受け取る市民(時事通信フォト)

1997年11月17日、北海道拓殖銀行本店前で「拓銀破たん」の号外を受け取る市民(時事通信フォト)

 丸本さんは60歳で定年となり関連子会社で5年間働き年金暮らしとなった。さすがに定年間際には400万円ではなくもう少し貰っていたようだ。65歳を過ぎても働くつもりはあったが東日本大震災でもういいや、となったそうだ。

「もともと働くのは好きじゃなかったし、ちょうどいいかと思い辞めたんだ。まあ年金と貯金で食べてはいけるしね」

 それでもバブル崩壊と1995年からの住専問題があり、三洋証券、北海道拓殖銀行(拓銀)、山一証券、日本長期信用銀行(長銀)、日本債券信用銀行(日債銀)が立て続けに倒産した1997年から1998年にかけての金融ショックや2000年代初頭のITバブル崩壊などは経験したはずだが、丸本さんはサラリーマンとしてどうやって乗り切ったのか。

「うちはあまり影響なかったね、ただ給料から引かれる分がだんだん大きくなったのはわかった。それなりの昇給はしても手取りがね、不景気なんだなあ、早く逃げ切りたいなあ、その一心だったよ、パソコンも苦手だし」

 総務部でパソコンが必要な仕事は部下や派遣に「よきにはからえ」で任せていたという。丸本さんは社内の人気者だったということで、それも処世術なのだろう。オーナーと趣味を共にしたのもよかったのかもしれない。『釣りバカ日誌』のハマちゃんみたいだ。2代目も気を使ってくれたという。高卒ながら「会社ガチャ」もある意味成功したのかもしれない。

「そういう能力もサラリーマンには必要だよ。若い人は勘違いしてるよね、サラリーマンの実力なんて、そんなものないんだよ、雇われなんだから」

 中堅企業ながら退職金もそれなりに貰い、65歳から年金を受け取り、コロナ禍に難渋しながらも趣味を楽しんでいるという。まさしく団塊世代のサラリーマンならではの羨ましい人生だ。丸本さんには申し訳ない言い方で、この内容で書いてもいいかと聞いたら構わないと了承していただけたので書くが、彼が団塊ジュニア世代から下なら間違いなくこんな人生は送れていない。定年どころか正社員ですらあったかどうか。

「でもね、私のような何の取り柄もない人間が生きていける国がむしろ普通では?」

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