アニメ誌やゲーム誌などの「オタク系」(当時のマネージャー氏曰く)というだけで「撮影は許可媒体のみ」とその芸能人だけ載せられなかった経験は私にもある。もちろん当日取材のオタク系すべてである。許可媒体とはもちろん一般誌、そういう現場の空気というか、いまでは考えられない時代はあった。その扱いも酷いものだった。
「ジャニーズ事務所のスタッフの方々も仕事には厳しかったが、他の一部大手事務所のような不遜な態度や、露骨に馬鹿にするような姿勢はなかった。そんなの当たり前と一般の方々は思われるでしょうが、むしろアニメなんて馬鹿にされるのが当たり前だった。多くのクリエイターと当時のファンがそれを変えていったから今があるんです。私だってアニメ(の部署)なんて可哀想、と言われたものです」
彼は「せっかくなので書いてください」と踏み込んだ話もしてくれた。
「昔の芸能事務所なんて大手でも怖くて、恫喝してナンボみたいな社員が普通にいました。『うちの大事な◯◯をマンガ(アニメのこと)に出ろなんてバカにしてるのか』と電話口で怒鳴られるとか、これは私の話ではありませんが『声優なんて顔も出せないブサイクやブスがやる仕事だろ』とか、『(やりたくない仕事だから)ギャラ1000万円よこせ』とか、本当にそんな時代もありましたから」
あえて証言のままに書くが、これは本当の話である。1980年代はもちろん、1990年代でもその残滓として芸能界にこの空気はあったように思う。私の経験でも「オタクが読む雑誌の表紙なんてイメージが悪い」と拒絶する大手芸能事務所はあった。本当に多くのクリエイターや当時のファンの努力、そしてインターネットという大変革と日本社会の価値観のアップデートを経て(それだけが要因ではないにせよ)現在がある。
そして、その「アップデート」は「コンプライアンス」の問題も含まれる。
私にできたことですか……ないでしょうね
「ジャニーズ問題ね、今日はその話ですもんね。大変な時代になりましたね。そりゃ噂では聞いてましたよ。情報の限られた時代でしたけど、週刊誌とか暴露系のアングラ本とかで」
告発はもちろん、ジャニーズの一連の問題、とくにジャニー喜多川氏の噂は古くから一部の出版社や雑誌、ジャーナリストが追っていた。しかしことごとく、巨大な放送メディアと芸能界の権力に潰されてきた歴史がある。
「でも自分ごと、として考えたことはなかったですね。あくまで仕事ですからね。というか、意識することはなかったというか『まあ芸能界だから、仕方ないか』という感じです。それこそ普通に、男女の区別なく、未成年の枕接待だって『それが何か』どころか茶化すような業界、そして時代でしたからね」
過去の話、それでも「確かにあった」話である。
「ジャニーズ問題で私にできたことですか……ないでしょうね。多く業界関係者はそうだったと思います。ジャニーズが怖いとかより、当時はそういう時代で、そういう社会だった、ということでしょうか。駅で煙草を吸えたし、子どもでも自販機で煙草や酒が買えた。ほとんどの人は車でシートベルトなんてしなかったし、犬や猫は放し飼いだった。そんな時代でしたから」