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歌舞伎町便り【3】「放射能怖くないヨーわたしニホンジンだから」

夜の歌舞伎町

震災後、人がめっきり減ったとされる新宿・歌舞伎町。これまで2回「歌舞伎町便り」と題して現在の歌舞伎町の景気・街で活動している人の実態を探ったが今回はディスコ。ライターの神田憲行氏がレポートする。

* * *

李小牧さん(作家・ジャーナリストで歌舞伎町で中国料理店「湖南菜館」を経営)、頼朝さん(元カリスマホストでホストクラブ「R-shanguli-la」のオーナー)の取材を終えて、久しぶりに終電後の歌舞伎町区役所通り界隈を流し歩いた。驚いたのはキャッチ・客引きの数である。かき分けないと前に進めない感じだ。

「震災で景気が悪くなってみんな生きるのに必死なんですよ。だから警察も見て見ぬふりしている」というキャッチの言い分が当たっているのかわからないが、たしかに御法度のホストクラブのキャッチまでいる。

震災前はホスクラのキャッチがばれると問答無用に営業停止になったものだが。

「さて、誰に捕まろうか」

どうせここまで来たのなら、キャッチに捕まってみて未知の扉を開けてみたい。ダブルのスーツを着た男、ジャンパー姿の男、蝶ネクタイを締めているのはどこかのボーイか。通りを眺めて決めたのは、黒人だった。理由はいちばん怖そうだったから(笑)。

「ヘイ!マイフレンド!」

いきなり客の方から声をかけられて一瞬戸惑った顔を見せたものの、すぐに黒人キャッチは馴れ馴れしさを取り戻して、私の手を絞るように痛い握手してきた。

「女?マッサージ?なに?」「いや女はいらない」「じゃ踊る?」「ああ、それいいね」

連れだって歩き始める。「あなた何人?」「ジャマイカ」「帰らないの?みんな帰ってるでしょう」「結婚して三ヶ月の子どもいるから、帰れないねー」「奥さん日本人?」「そうそう」

着いたのは地下に行くディスコだった。「ワンドリンク、2000円よ」。ほんまかいな。むかーし、そうやって中国人ディスコに案内されて「揺頭」(中国の覚醒剤)を勧められて往生したんだから。

ドアをパッと開けて踏み出して、ちょっと後悔した。店内に黒人しかいない。階段に近いカウンターのストールに腰を落ち着けると、中東風の女性がメニューを広げて「なに飲む?」。ビールを注文して彼女が熱心に見ている天井からつり下がったテレビを見れば、CNNの映像にアラビア文字が躍っていて、ああやはり。

二千円と交換でビールを受け取ると、カウンターの向こうにいた黒人がするすると寄ってきた。「ヘイ、マイフレンド」。また握手させられる。

「あなたは何人?」「わたし?ニホンジンよ。千葉県から来ました」「放射能とか怖くないの?」「怖くないヨーわたしニホンジンだから」

男は白い歯を光らせてそういうと、ブルーライトを浴びながら、長い両手を広げてゆっくり踊り始めた。青い光が彼の肌と白いシャツを染めていく。

地震も放射能も関係ない全くいつもと同じ刹那的な歌舞伎町だった。だがそれを笑えるだろうか。私自身、メルトダウンのニュースが流れてきても、どこか遠い国の出来事のように感じている。

地震が起きても、原発がメルトダウンしても自分の明日は変わらない。ふと、故・開高健が好んで色紙に書いたという言葉が頭に浮かんだ。

「明日地球が滅びても、今日、君は林檎の木を植える」

だからこうして黒人の踊りをみながら酒を飲む。李さんのいうように、この街は「死んでいない」し、頼朝さんがいうように「震災前の日常の楽しさ」がここにはある。

本当に2000円で返してくれるかなーと思いつつストールから降りて店の扉を開けて階段を上ったが、誰も追いかけてこなかった。地上ではまた別の黒人男性が「ヘイ、マイフレンド!」と握手してきた。

「楽しかった?」「うん」「そう、ヨカッタねー」。闇夜に男の白い歯が浮かぶ。私は深夜の道を再び歩き始めた。


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