国際情報

日給8万円の傭兵 バイアグラ与えられ結婚相手も紹介される

 紛争当事国の国民ではないのに、金銭で雇われ、戦場に繰り出す傭兵たち。祖国を離れて戦う彼ら傭兵たちの日常はどんなものか。ジャーナリストの宮下洋一氏が現在内戦が続くリビアの傭兵事情を解説する。

 * * *
 カダフィ大佐を支える傭兵は、主にマリ、ジンバブエ、チャド、ニジェール、コートジボワール、モーリタニアといったアフリカ諸国の出身者で構成されている。彼らの報酬は1日1000ドル(約8万円)とも言われている。

「月給100ドル」以下の国が珍しくないアフリカ人にとっては、目がくらむ金額だ。さらに入隊時にはボーナスも支給される。傭兵は一攫千金の“ビッグビジネス”なのである。

 なぜ、リビアにアフリカ中の傭兵たちが集まったのか。この国の歴史をざっと振り返る必要がある。

 1970年代から1980年代、大量の移民、主にサハラ砂漠の遊牧民であるトゥアレグ族がリビアに流入した。当時、リビアの実権を掌握、西アフリカのイスラム統一を目指していたカダフィ大佐は、フランスの外人部隊を模倣し、彼らを金で雇い、“イスラム外人部隊”として傭兵組織を作り上げた。

 しかし、容赦なく人を殺すなど残忍な行為を繰り返したことから、単なる民兵組織ではなく、ならずもの集団と見なされていた。チャド、スーダン、レバノンなどで戦闘に明け暮れた彼らは、カダフィ大佐にとって重要な戦闘要員になっていった。

 カダフィ大佐は、アフリカ統一機構(OAU)を改組したアフリカ連合(AU)の“生みの親”を自任。2009年から1年間、議長を務め、「アフリカ統一国家」を作り上げようとした。すなわち、アフリカ全体を自らの影響下に置くことで、アフリカ大陸の“大統領”の地位を獲得しようと夢見たのである。

 その目的のために、莫大なオイルマネーをちらつかせ、リビアを訪れるアフリカ諸国の首脳らに50万ドルから100万ドルをばら撒いたと報じられている。アフリカ諸国からかき集めた傭兵は、こうした現金接待の見返りだったとの指摘もある。

 リビアが内戦状態になって間もない2月下旬、首都トリポリの西約50キロメートルの要衝ザウィーヤで、傭兵は正規軍とともに機関銃と対空砲で反体制派に攻撃を仕掛けた。

 傭兵は米、ロシア製の銃器やイスラエルが改造したカラシニコフ新型銃で武装。これに対して反体制派は戦術に長けたリーダーが不在の上、小銃程度しか持っておらず、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 ところが3月19日、NATO軍が軍事介入し、空爆を開始すると情勢は一変。間一髪で難を逃れたカダフィ大佐は、反転攻勢のために思いもよらない“奇襲”を指示する。

 英デイリーメール紙によると、傭兵たちにバイアグラを与えたというのだ。その上で反体制派の女性たちへの性的暴行を許可することで、弾圧と同時に傭兵たちの性的欲求を解消させた。

 さらには女性や子供たちの目の前で反体制派の父親を虐殺したという。傭兵たちはこうした残虐行為をあちこちで繰り返したため、リビア情勢はますます混沌としていった。

 中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、トリポリのホテルに逃げ込んできた25歳の女性が、2日間にわたって15人の傭兵たちから性的暴行を受けたと叫んでいる映像を流した。しかし、カダフィ派の親衛隊らが、彼女をインタビューしようとする外国報道関係者に暴行を加えるなどして威嚇。

 女性も警察に拘束される事態となった。これに対して、リビア政府のスポークスマンは、酔っぱらった女性の妄想にすぎないと主張、傭兵の性的虐待を否定している。

 カダフィ大佐に雇われる傭兵たちの中には、「戦争が終わった暁には、結婚相手を紹介する」といった甘言に踊らされた者が少なくない。

「戦う相手はリビア人じゃない。アルジェリアやフランスから来た傭兵、それにアルカイダなどの外国人部隊だ。敵のレベルが高い分、報酬も弾む。見つけ次第、殺せ」

 と言われて連れてこられ、実際には4輪駆動のジープで町を走り回り、目についた反体制派のリビア人を次から次へと殺す仕事に就いた傭兵もいる。

 マリの当局者は、3月上旬に300人ほどのトゥアレグ族がアルジェリア南部から砂漠を越えてリビアに入ったと指摘する。

「傭兵になるだけで1万ドル、さらに報酬として1日1000ドル与えられると聞いた」

 その報酬の一部は、マリの首都バマコにあるリビア大使館から支払われていたという。同国の政治家、イブラヒム・モハメド氏によると、トリポリと中部のセブハにはいまだ1万6000人のトゥアレグ傭兵が待機しており、

「カダフィ大佐を守る命令が下され、死ぬまで戦うという彼らの報告を電話で受けている」と語った。

※SAPIO 2011年6月29日号

関連キーワード

トピックス

麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
人気格闘技イベント「Breaking Down」に出場した格闘家のキム・ジェフン容疑者(35)が関税法違反などの疑いで逮捕、送検されていた(本人SNSより)
《3.5キロの“金メダル”密輸》全身タトゥーの巨漢…“元ヤクザ格闘家”キムジェフン容疑者の意外な素顔、犯行2か月前には〈娘のために一生懸命生きないと〉投稿も
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン