ライフ

被災地の青空書店 6日間で3000人訪れ解雇従業員も手伝う

現在、全国にある書店数は約1万5000軒。1999年のピーク時約2万2000軒から3分の2にまで減少した。ただでさえ出版不況に見舞われている書店に大震災が与えた影響は大きかった。出版社と書店をつなぐ大手取次会社・トーハンの東北支店で市場開発を担当する桑原修さんがいう。

「津波被害の大きかった沿岸部はなかなか元に戻れない状況です。地震で建物が傷んだ地域はだいぶ回復してきましたが、まだ復興は道半ば。私どもの知る範囲でも廃業を決意した書店さんが数軒あります。休業中のお店も多く、長期的にはさらに影響が出るかもしれません」

宮城県気仙沼市にある宮脇書店気仙沼店は、1997年に気仙沼三菱自動車販売社長の千田満穂さん(75才)がオーナーとなり、四国に本店のある宮脇書店のフランチャイズ店として誕生した大型店だ。

1330平方メートルの店舗面積に23万冊の書籍を誇り、敷地内に美容室やコーヒーショップ、旅行代理店などを併設。人口7万3000人の気仙沼市において毎日1000人が集まる人気スポットだった。しかし、津波によって店舗は鉄骨だけを残して消え去った。膨大な書籍もすべて流れてしまった。満穂さんの妻で同書店を経営する千田紘子さん(70才)が振り返る。

「きれいさっぱり何もなくなり、最初は笑うしかなかった。だんだん悔しくなって腹が立ってきましたね(苦笑)」

千田夫妻の損失は数億円に上った。書店の再開が望めない状況で「早く次の職を探したほうがいい」という思いから、小野寺徳行店長を除く従業員13名をやむなく解雇。銀行が業務を停止するなか、満期で戻ってきた満穂さんの生命保険から現金で従業員の給料と退職金を支払った。

震災の傷跡は大きく、気仙沼から書店が消えた。市内の人々は口々に宮脇書店に期待を寄せた。

「会う人みんなが私に『本屋がなくなった』『なんとか再開してほしい』といいました。ちょうどそのころトーハンさんから『応援したい』と連絡をいただいたんです」(満穂さん)

宮脇書店に連絡を入れた前出・トーハン東北支店の桑原さんがいう。

「本を日本の隅々に届けるのが私たち取次の使命です。それで被災地に復興支援をすべく車による移動販売を計画しました。まずは、人口が多いのに書店がなくなった気仙沼で実行しようと、宮脇書店さんに声をかけたんです」

千田夫妻にとっても渡りに船だった。すぐに話が決まり、5月16日から21日まで、気仙沼三菱自動車販売の敷地内で“青空書店”を開くことになった。

初日は朝10時に5000冊の本や雑誌、マンガなどを積んだトーハンの2トントラックが到着。荷降ろしの最中からお客さんが殺到した。

「レジの準備が終わる前にお客さんが本を手に取り始めました。初日からものすごい反応でしたね」(小野寺さん)

避難所から駆けつけた人もあり、「避難所にも本はあるんだけど、やっぱり自分で探した本を読みたい」などと本を買っていったという。

「当日は解雇された元従業員も手伝ってくれました。彼女たちも『久々に本に触れてうれしかった』と、本にかかわれる喜びを感じていたようです」(小野寺さん)

本でつながる人の輪。青空書店には6日間でのべ3000人が集まった。本を待ち望んでいた人々の思いが紘子さんにも強く伝わった。

「最初に瓦礫を見たときは本当に落ち込みました。でも、青空書店でお客さんから『好きな本を読みたい』『自分の本を持ちたい』という活字への思いをたくさん聞き、すごく大きな力になりました」(紘子さん)

宮脇書店は7月中にプレハブ仮店舗の営業開始を目指すという。

※女性セブン2011年7月7日号

関連キーワード

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン