国際情報

世界の工場・中国 世界各国の基幹システムに罠仕掛けている説

 世界を覆うサイバー戦争の中心にいるのは米国、そして中国だ。実は水面下で両者の攻防は激化している。その最前線を、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が報告する。

 * * *
 今や世界のどの国でも、海外の工場で作られたチップ、あるいは海外の企業や研究所で開発されたソフトウェアが使用された機器を取り入れている。逆に言えば、そうした部品やソフトウェアを開発している国には、いくらでもトラップドア(秘密の抜け道)やロジックボム(不正プログラムのひとつ)を仕込むチャンスがある(チップに不正プログラムを仕込むことをチッピングという)。

 したがって、世界の工場である中国は、まず間違いなく世界中の国々の基幹システムに無数のトラップを仕掛けているはずだ。

 もっとも、サイバー戦では攻撃だけではなく、防御も重要だ。防御力という観点からみると、ネットワーク化が遅れている国、あるいは政府が強力な規制を敷いてネットワークを管理している国が絶対的に有利になる。

 たとえば、北朝鮮では軍も民間インフラもネットワーク化がほとんどされていないので、外国からサイバー攻撃を受けても、ダメージは少ない。中国はネットワーク化が近年進んでいるが、大規模にインターネット規制をしており、外国から持ち込まれた不正プログラムの検出能力が高い。その上、いざ有事の際には、いつでも国内のネットワークを国外ネットワークから遮断できる。

 こうしてみると、ネットワーク化が圧倒的に進んでいるアメリカが、サイバー戦の防御に関しては、もっとも脆弱ということになる。アメリカもそれは自覚しており、サイバー攻撃の脅威に対しては非常に真剣に取り組んでいる。

 ロバート・ゲーツ米国防長官は2011年6月4日、「サイバー攻撃は戦争とみなす」と発言した。しかし、サイバー戦の最大の特徴のひとつは、サイバー攻撃を行なったのが誰なのかを特定することが非常に困難なことだ。

 仮に中国のサーバーが発信源だったとわかったとしても、それが中国政府・軍による攻撃なのか、あるいは同国内のハッカーによる犯罪なのかどうかはわからない。また、他国から中国のサーバーを介して行なわれた攻撃である可能性も排除できない。つまり、サイバー戦は犯人を特定することがきわめて難しく、したがって「戦争と見なす」と脅しをかけても、抑止力になりづらいのだ。

 いくら軍備の増強が著しい中国でも、通常戦力で世界最強の米軍に太刀打ちできないことは明白だ。しかし、サイバー戦においては、実際に戦ってみなければどちらが勝つかはわからないのが現状である。

※SAPIO 2011年7月20日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
宗田理先生
《『ぼくらの七日間戦争』宗田理さん95歳死去》10日前、最期のインタビューで語っていたこと「戦争反対」の信念
NEWSポストセブン
JALの元社長・伊藤淳二氏が逝去していた
『沈まぬ太陽』モデルの伊藤淳二JAL元会長・鐘紡元会長が逝去していた
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン