国内

君が代条例の背景に“先生の上司が誰だか不明”な無責任体制

 2011年6月、大阪府の橋下徹知事は「大阪維新の会」で過半数を制している府議会で、公立学校の教員に君が代を起立斉唱するよう義務付ける「君が代条例」を可決成立させた。話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)で日本をダメにする役所の「バカなルール」を総覧している元経産省キャリア官僚の原英史氏(現・政策工房社長)がその意味を解説する。

 * * *
 この「君が代条例」について、「そんなことをわざわざ条例で……?」と首をひねる人もいるだろうが、問題を民間企業に置き換えて考えてみるとわかりやすい。
 
 君が代斉唱はあまり聞かないが、例えば朝礼で創業者の遺した社訓を「ひとーつ……、ふたーつ……」とみんなで唱えるなんて会社は今でもある。内心では「勘弁してくれよ」と思っている社員もいるだろう。だが、一人だけ椅子に座ってそっぽを向いたりはしない。そんなことをしたら、上司や人事部ににらまれ、ボーナスを減らされ、昇給・昇進も遅れかねないからだ。
 
 だから、民間企業の場合、「社訓を唱える時は、起立しなければならない」というルールを、わざわざ就業規則で決める必要がない。

 ところが、公立学校の場合は違う。君が代斉唱時になぜか座っている先生が存在する。これは、「公立学校の教員」には特殊な規制制度があって、民間企業の従業員(私立学校の教員も含め)と別世界になっているためだ。

 まず、普通の会社だったら厳しく注意する上司がいるが、公立学校の場合、そもそも誰が“上司”なのかがよくわからない。校長先生だと思う人も多いだろうが、校長先生の定義は、以下の通りである。

 学校の先生たちを「監督」する立場にはあるが(学校教育法37条4項)、「人事権」は与えられていない(地方教育行政の組織及び運営に関する法律34条)。

 校長先生の言うことを聞かない先生が出てくる所以だ。
 
 では、「区市町村立」の学校だから、選挙で選ばれた市長や区長が民間企業で言う“社長”にあたるのでは、と思うかもしれないが、これも違う。教育に関する権限の多くは、市長たちから切り離され、独立した「教育委員会」に与えられる(同法23条)。
 
 しかも、小中学校の場合、「区市町村立」の学校なのに、教員の人事権は「都道府県教育委員会」だったり、ともかく複雑になっている。結局は、誰が責任を取るのだかわからない、もっと言えば、誰も責任を取らなくていいシステム――になってしまっている。
 
 この“無責任体制”が、学校を特殊な世界にしている。普通の会社なら、誰の言うことも聞かず滅茶苦茶を繰り返していたら、最後は懲戒処分が下る。学校の場合も、一応懲戒処分の制度はあって、中には、「君が代斉唱時の起立を命じた職務命令への違反」で懲戒処分が下されたケースもないわけではない。だが、これは、ごくごく例外的なケースにとどまる。
 
 教育基本法9条では、公立学校の教員は「崇高な使命と職責」を負っているとされ、そのため「身分を尊重」される、とある。この“呪縛”があるため、減給・免職などの処分発動は極度に制約されてきたのだ。

 橋下氏は、条例成立後、「(この条例は)学校というものを、校長をトップにした普通の組織にする一歩」と発言したそうだが、これは、問題の本質をとらえている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

妻とは2015年に結婚した国分太一
「“俺はイジる側” “キツいイジリは愛情の裏返し”という意識を感じた」テレビ局関係者が証言する国分太一の「感覚」
NEWSポストセブン
二刀流復活・大谷翔平の「理想のフォーム」は?(時事通信フォト)
二刀流復活・大谷翔平の「理想のフォーム」は?「エンゼルス時代のようなセットポジションからのショートアームが技術的にはベター」とメジャー中継解説者・前田幸長氏
NEWSポストセブン
24時間テレビの募金を不正に着服した日本海テレビ社員の公判が行われた
「募金額をコントロールしたかった」24時間テレビ・チャリティー募金着服男の“身勝手すぎる言い分”「上司に怒られるのも嫌で…」【第2回公判】
NEWSポストセブン
元セクシー女優・早坂ひとみ
元セクシー女優・早坂ひとみがデビュー25周年で再始動「荒れないSNSがあったから、ファンの皆さんにまた会いたいって思えました」
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一
【スタッフ証言】「DASH村で『やっとだよ』と…」収録現場で目撃した国分太一の意外な側面と、城島・松岡との微妙な関係「“みてみぬふり”をしていたのでは…」《TOKIOが即解散に至った「4年間の積み重ね」》
NEWSポストセブン
衝撃を与えた日本テレビ系列局元幹部の寄付金着服(時事通信フォト)
《24時間テレビ寄付金着服男の公判》「小遣いは月に6〜10万円」夫を庇った“妻の言い分”「発覚後、夫は一睡もできないパニックに…」
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国民に愛された『TOKIO』解散》現場騒然の「山口達也ブチギレ事件」、長瀬智也「ヤラセだらけの世界」意味深投稿が示唆する“メンバーの本当の関係”
NEWSポストセブン
漫画家の小林よしのり氏
小林よしのり氏、皇位継承問題に提言「皇室存続のためにはただちに皇室典範を改正し、愛子皇太子殿下の誕生を実現しなければならない」
週刊ポスト
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン