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軽い不眠症で薬漬けの妻が死亡 夫は薬物中毒死を訴え続ける

日本の精神医療には暗部がある。海外で「自殺の危険性」が警告されている抗うつ薬がいまだに日本では多くのケースで使用されており、医師の安易な診察と処方が自殺を誘発している疑いがある。さらに、世界的に見て非常識極まりない日本の悪弊、「多剤大量処方」の問題を医療ジャーナリストの伊藤隼也氏が報告する。

* * *
都内在住の元会社社長・中川聡さんの妻A子さんは30代前半だった1997年秋、軽い不眠と頭痛で近所の心療内科クリニックを訪れた。当時、中川さんは会社を設立したばかりで多忙を極め、家を空けがちだった。妻の寂しい思いが体調不良につながったという。

初診で「睡眠障害」と診断され、ごく一般的な睡眠導入剤、鎮痛剤と抗不安薬を処方された。しかし、4か月後には1日に服用する薬は10種類18錠にまで増えた。抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬などを大量に処方された。

心療内科の受診を嫌う夫に内緒で通院を続け、初診から1年5か月で薬は1日12種24錠に。その影響でかなり太ったが、夫には「産婦人科でホルモン治療を受けている」と言っていた。

医師の診断内容に疑問を抱いていたのか、一度は別の心療内科へ通院した。だが、そこも合わなかったようで、2004年6月に再び元のクリニックに戻ると処方薬は1日13種類40錠に達した。

「妻は足がふらつき、夜はトイレに行けず、オムツをして寝るようになりました。さすがに心配になり、彼女の両親に相談しました。それでも私は『病院に通っているから大丈夫だろう』と思い込んでいました……」(中川さん)

2005年1月の朝、中川さんが目覚めるとA子さんはすでに息絶えていた。司法解剖で死因は「薬物中毒」と知らされた。妻の死後、薬手帳を見て、処方薬の多さに驚いた。中川さんが事情を聞こうとクリニックを訪れると、担当医が不在なのに職員が患者に薬を処方していた。

不信感が増すなか、再度の訪問で担当医と対面すると「これでも眠れない人がいる」と強く反論された。

納得がいかなかった中川さんはその後も独自に情報を収集して、妻への処方が日本の悪弊である「多剤大量処方」であると知る。日本の精神医療の杜撰さを知り、10年3月に損害賠償を求めて担当医を提訴。今も多剤大量処方が妻の命を奪ったと訴え続ける。

「妻は『軽い不眠』でクリニックを訪れただけなのに薬漬けにされ、薬物中毒で殺されました。これは一部の医者の極端な例ではありません。誰にでも起こることなんです」

中川さんの「医師の処方薬が妻を殺した」という訴えは荒唐無稽ではない。主張を裏付ける強力なデータがある。

東京都監察医務院は、司法警察の検視を経て不審とされた異状死の検案および行政解剖を行なう。

2006年から10年の5年間に同院で行なわれた行政解剖1万3499件において検出された薬物は、覚せい剤等136件に対して医薬品等は3339件だった。死因不明の遺体において違法薬物である覚せい剤より医師に処方された医薬品のほうが約25倍も多く検出されているのだ。こういった現実を多くの医師は全く知らずにいる。

また、医薬品のうち睡眠剤と精神神経用剤(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬など)の増加が近年は著しく、半数以上の遺体の血液及び胃内容物から複数の医薬品が検出された。これらの事実は、多剤大量処方が死と結びつく可能性を示唆している。

※SAPIO2011年10月26日号

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