国内

「銀だこ」社長 縁もゆかりもない石巻に本社移転の経緯語る

震災の傷跡がいまだ生々しい宮城県石巻市。冬を迎え、“しゃっこい”空気に包まれた街の中で、「ホット横丁石巻」の看板が掲げられた一帯には活気が溢れていた。

トレーラーハウスで営業する焼きそばやたい焼などの店には行列ができ、傍らに設置されたステージでカラオケを歌う人もいる。まるで縁日のような風景。12月5日、被災地支援のために石巻に本社を移転した、「築地銀だこ」を運営するホットランドが作った“商店街”だ。

同社の代表取締役・佐瀬守男氏は、ここで自らたこ焼を焼くなど陣頭指揮を執っている。石巻には縁もゆかりもなかった同社の「本社移転」までの決断の経緯を佐瀬氏に聞いた。

* * *
――本社移転前から、石巻を毎週訪れているそうですね。

佐瀬:ええ、木曜から日曜までの4日間は石巻で、残りは東京という生活です。石巻では私もユニフォームを着て店頭に立ち、たこ焼を作ります。たこ焼のほか、お好み焼やラーメン店などが軒を連ねる「ホット横丁石巻」は新業態で、私も新鮮な気持ちで楽しくやっています。

――もともと石巻には店舗はなかったとか。

佐瀬:そうなんです。きっかけは今度の大震災でした。3月11日の東日本大震災では、真っ先に社員とパートの安否確認を行ないました。特に東北エリアは連絡が取れず、3日かかってようやく3000人以上の所在が確認できたのですが、社員の一人である伊藤武彦君の宮城の実家で、お父さんが津波で亡くなられたことが判明した。それで、お母さんと妹さんのいる石巻の避難所にしばらく帰すことにしたのです。

その後、伊藤君に、東京の我々にできることはないかと聞いてみたら、「避難所の人たちに温かいものを食べさせてあげたい」と言うので、当社の移動式たこ焼店舗である「銀だこカー」で石巻に行って炊き出しをやることにした。有志が40人集まり、私も一緒に東北の被災地に向かったのです。

――現地の様子や反応は?

佐瀬:避難所では寒い中でも行列ができて、アツアツのたこ焼をとても喜んでいただきました。だけど、瓦礫の町を目にして、「これだけで終わりにして東京に帰っていいのか」という思いに駆られてしまったんですね。

ひとまず伊藤君に「石巻で『銀だこ』をやってはどうか」と提案したら、本人も「やる」と言うので、それを応援しようと思いました。

しかし、現実は「建物なし」「物流なし」のお手上げ状態。製粉・ソース業者など取引先に声をかけて、被災地のために何かしたい、何とか材料を届けたいと相談すると、彼らも思いは同じで「うちも一緒にやりたい」と言うんですね。

それなら、いっそドンと投資して10店くらいまとめて作ったほうが早いんじゃないか。1店なら10人しか雇用できないが、10店なら100人雇用できる。

そう考えて、石巻に資本金1億円の「株式会社ホット横丁」を設立。計11店舗が入った「ホット横丁石巻」を100日でオープンするという“東北応援プロジェクト”を、4月末に立ち上げたのが始まりでした。

津波の押し寄せた更地を借り、イベント用として開発中だったトレーラーハウスを引っ張って行った。現地では、社員とパート含めて100人以上を採用しました。ほとんどの方が被災者でしたので、本社事務所として借りた物件を宿泊所に変えて、東京からの応援メンバーとの共同生活を始めた。そして7月29日のオープンにこぎ着けたのです。

※SAPIO2011年12月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
「全国障害者スポーツ大会」を観戦された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月26日、撮影/JMPA)
《注文が殺到》佳子さま、賛否を呼んだ“クッキリドレス”に合わせたイヤリングに…鮮やかな5万5000円ワンピで魅せたスタイリッシュなコーデ
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
遠藤
人気力士・遠藤の引退で「北陣」を襲名していた元・天鎧鵬が退職 認められないはずの年寄名跡“借株”が残存し、大物引退のたびに玉突きで名跡がコロコロ変わる珍現象が多発
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
相撲協会と白鵬氏の緊張関係は新たなステージに突入
「伝統を前面に打ち出す相撲協会」と「ガチンコ競技化の白鵬」大相撲ロンドン公演で浮き彫りになった両者の隔たり “格闘技”なのか“儀式”なのか…問われる相撲のあり方
週刊ポスト
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン