国際情報

日本は地元の意思尊重し過ぎる過剰コンセンサス社会との指摘

米軍の普天間基地移設問題が迷走を続けている。「沖縄はゆすりの名人」などと発言したと一部で報じられ、米国務省日本部長を解任されたケビン・メア氏は「あれは事実ではない」と報道を否定した上で、「普天間基地問題で日米関係が揺らげば、中国につけ入る隙を与える。野田総理はリーダーシップを発揮して早期に問題を解決すべきだ」と説く。メア氏が問題の核心を衝く。

* * *
沖縄に駐屯している第三海兵遠征軍は、米本国以外で展開している唯一の海兵隊である。海兵隊は航空部隊(ヘリ部隊)と陸上部隊、支援部隊が一緒に展開する統合部隊で、有事の際にはもっとも迅速に動く。その機動力は東日本大震災の救援活動「トモダチ作戦」でも十二分に発揮された。

扇の要である沖縄にこの海兵隊が駐屯していることが、日本防衛とアジア・太平洋地域の安定化をはかる重要な重しになっているのである。

それゆえ現実に選択肢として存在するのは「辺野古への移設」か「普天間の固定化」の2つしかない。同じ沖縄本島の米空軍嘉手納基地に移すという「嘉手納統合案」は、日米政府間協議で廃案になっている。仮に「普天間の固定化」でも、アメリカとしては“現状維持”なので軍事戦略上の齟齬は生じないが、私自身は騒音問題などを鑑みて、やはり辺野古への移設が最善策だと考えている。

しかし、現実にはアメリカ側がしびれを切らし始めている。12月、米議会の上下両院は、海兵隊の一部(8000人)をグアムに移転する計画について、12年度の予算1億5000万ドルを認めないことで合意した。海兵隊の一部移転は辺野古への基地移設が前提であり、先行きが不透明である以上、予算は認められないとの立場を示した。

このまま具体的な進展がなければ、田中前局長が言った通り、いよいよアメリカは「普天間の固定化」を決断すると私は予測している。それも“遅くとも2012年夏まで”である。時間的な猶予はほとんど残されていない。

今の日本は、原発の再稼働問題も同根だが、「地元の意思」を尊重するあまり「過剰なまでのコンセンサス社会」になりつつある。しかし、国家のエネルギー政策や安全保障政策について、地方自治体の首長に決定を委ねるのはどう考えてもおかしい。民意をはかるといいながら、その実、政治家は責任を取りたくないだけなのだ。

どんな結果になろうとも、重要なのは、中国に対して「日米同盟がグラついている」という誤ったメッセージを伝えないことである。

相手が一線を踏み越える誘惑にかられないような軍事力を整備するのが国防の大原則であり、仮に「普天間の固定化」で終わったとしても、日米両国がそれに納得し、禍根を残さなければ、日米同盟は盤石であることを示すことができ、中国に隙を見せることはない。現実に軍事戦略の面でも、従来と何ら変わりはないのである。

しかし、この問題をグズグズと引きずり続けて、日米間の関係が揺らぐようであれば、中国につけ入る隙を与えることになる。私が心配しているのはその一点である。

「過剰なまでのコンセンサス社会」は、危機の時代にその恐るべき弱点をさらけ出す。危機を解決できないばかりか、危機を増幅させ、国家を存亡の危機に追いつめることさえもあるのだ。

この問題に決着をつけられるかどうかが12年、ひいては将来の日米関係を占う上で大きな意味を持つことは言うまでもない。意外にも野田総理は今までの民主党の総理と異なり、決断ができる人のようである。辺野古への基地移設はできるかどうかではなく、日本政府に本当に実行に移す意思があるかどうかである。移設計画を実行するか、普天間を固定化するか、どちらかを決断する時期である。

野田総理には、国益のために必要であれば地元の反対を押し切っても決断する、強いリーダーシップを期待したい。

※2012年1月18日号

関連キーワード

トピックス

ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン