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元甲子園準優勝投手大越基氏「プロで7勝できる自信あった」

 かつての「悪童」が甲子園に帰ってくる、今度は「監督」として――。大越基氏、40歳。仙台育英時代に甲子園で準優勝投手となりながら、進学した早大野球部をわずか半年で退部。その後、メジャー傘下の1Aサリナスを経て、1993年にドラフト1位でダイエー(現・福岡ソフトバンク)入団。
 
 だが、投手としての活躍は果たせず、野手転向後、2003年に解雇を宣告された。選手として頂点を迎えることなく現役を終えた大越氏だったが、度重なる苦境は氏の指導者としての「才」を育んだ。ノンフィクションライターの柳川悠二氏が、選抜出場を決めた山口県の私立早鞆高校野球部監督を務める、大越氏を訪ねた。(文中敬称略)

 * * *
 早大退部後は、パチンコや競馬に明け暮れ、不摂生がたたって体重は75キロから一気に66キロまで落ちた。早稲田にケンカを売った甲子園準優勝投手の凋落ぶりは、世間の耳目を引いた。
 
「天下の早稲田を批判し、敵に回した人間を助けてくれる人はいませんでした。それまで近くにいた人はすべて離れていき、マスコミにもダメ人間というレッテルを貼られた。甲子園で好転した自分の人生は、早稲田で暗転したんです」
 
 大学の授業では白い目で見られ、放蕩生活にも飽きが来て大学2年で中退。「自分には野球しかない」ともう一度野球をやる道を探るも、声をかけてくれるチームはなかった。

「イメージは悪かったでしょうが、実力さえあれば、どこか社会人から話があると高をくくっていたんです。甘かったですね……」
 
 悪童エースの長く伸びた鼻がへし折られた。日本で野球ができる環境がないなら、アメリカに渡るしかなかった。大越はメジャーリーグ傘下の1Aサリナスに入団する。
 
「初球から振ってくるアメリカの野球は、男と男の力勝負で自分の性格には合っていた。アメリカでも、それなりの成績を残せました」
 
 1シーズンの在籍後、大越の元には、オリオールズなどからマイナー契約の話が舞い込む。同時に、日本のふたつの球団からも身分照会があった。大越は両者を天秤にかけて、日本球界を選択する。
 
「アメリカで野球をやるには体のサイズが小さすぎた。高校、大学、そしてアメリカでの実績から、日本のプロ野球なら通用すると思いましたし、年間7勝ぐらいはできる自信があった」
 
 それも甘い考えだった。1993年のダイエー入団直後から大越はストライクゾーンの違いに戸惑った。
 
「高校野球やアメリカと比べて日本のプロ野球のストライクゾーンは狭い。日本ではまずコントロールが求められて、落ちるボールが投げられる投手が勝つ。自分は真っ直ぐをがむしゃらに投げるだけのピッチャーで、スライダーやフォークは不安定だった。球は多少は速かったかもしれないけれど、肩の強さだけで投げていて、理にかなった投げ方とはいえなかった」
 
 当時のダイエー監督の王貞治からは、投手としての信頼を得られなかった。このまま投手を続けても現役生活はすぐに終わる。大越は4年目の96年に外野手へ転向することを決意する。
 
「それまで自分は、ピッチャーに力があれば、野球は勝てると思っていた。ところが、野手の練習に加わるようになり、状況に応じた様々な守備隊形を学ぶうちに、野球というスポーツは、投手を含めた9人が連動しないと勝てないことを知ったんです。わがままや傲慢さが消えて、“協調性”が生まれた。野手転向によって性格が変わりましたし、それがなければ高校野球の監督を務めることもできなかったかもしれません」
 
 打撃に関しては当初、打球が内野手の頭を飛び越えることもなかった。大越は毎日1200から1500スイングを自らに課し、いつしかユーティリティープレーヤーとしての立場を築いていく。ダイエーが日本一になった2003年は、主に試合終盤の代走や守備固め要員として貢献した。ところが、そのオフに解雇通告。突然ではあったが、大越は覚悟していた。
 
「春先に二軍首脳陣とぶつかって、球団とはぎくしゃくしていたんです。納得はできませんでしたし、まだ早稲田を辞めたわがままなヤツというレッテルは、剥がれていないんだなって」
 
 一方で意外にも冷静な自分もいた。現役中から引退後の生活を考えていた。できることなら野球には携わっていきたい。しかし、プロの世界のコーチ業ほど、安定しない職業はない。ならば、高校野球の監督ならどうか。
 
「小学生時代から、自分は高校野球のオタクだった。地方大会の新聞記事をスクラップして、特に東北地方の高校なら今も思い出すことができます。自分の性格的に教師という人たちは嫌いだけど(笑)、監督ならできるかもしれないと思ったんです」

※週刊ポスト2012年2月24日号

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