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福島の被災地で高齢者の安否確認する「黄色いハンカチ運動」

 冬の東北は寒さが厳しい。標高1700mの安達太良山のすそ野、福島県大玉村に建設された670戸の仮設団地。降り積もった雪が、ザラメ状となって辺り一面を覆っている。その白銀一面の光景に、玄関先で黄色い旗をはためかせている仮設住宅があった。

「これは、お年寄りが“元気に暮らしていますよー”っていうサインなんですよ」

 そういって笑顔を見せるのは、この仮設団地に暮らし、「黄色いハンカチ運動」に参加している主婦、佐藤浩子さん(52才)。黄色い旗を掲げる玄関から、佐藤トメさん(94才)が顔を出した。

「トメさん、お元気ですかー」と浩子さんが明るく声をかけると、「元気だよ! うちはみんながお茶飲みにくるの。だから寂しくなんかないんだよ」と、トメさんが、にっこりと白い歯を見せた。

 福島県や宮城県の仮設住宅で「黄色いハンカチ運動」が広がっている。黄色いハンカチ運動は、1995年の阪神・淡路大震災で、仮設住宅の高齢者が相次いで孤独死した教訓から生まれた運動だ。入居する高齢者が「今日も元気だよ」と知らせるため、朝に黄色い旗を玄関先に掲げ、夕方になると下げる。

 運動の担い手は、ボランティアのケースもあるが、多くは同じ仮設団地で暮らしている被災者の人たち。浩子さんは黄色い旗を確認する「見守り隊」の一員として、週に3回、大玉村の仮設住宅を回っている。

 浩子さん一家は、自営業の夫・洋さん(47才)と、長女の小学6年生、夢叶(ゆめか)ちゃん(12才)の3人。自らも原発事故で自宅を追われた被災者である。

「もともと住んでいた富岡町は原発20km圏内です。3月12日に家を離れてから、避難所を4つ転々とし、6月にようやくここの仮設住宅にはいることができました」(浩子さん)

 夢叶ちゃんの友達が大玉村の仮設住宅に避難していたことから、ここに入居を決めたという。洋さんはいわき市内で働くことになり、現在は単身赴任。週末だけ仮設に帰る。夢叶ちゃんとふたり暮らしになった仮設住宅で、浩子さんはこんな生活を送っている。

 毎朝6時に起床すると、畳敷きの4畳半の4隅をティッシュで拭く。冬は結露がひどくなるため、カビないように水気をとっているのだ。部屋を暖め、朝食の支度をしていると、6時半ごろ、夢叶ちゃんが起きてくる。この日の朝食は、小さく切ったお餅とハンバーグだった。

 夢叶ちゃんはスクールバスで学校まで通う。娘を送ると、家事の時間だ。仮設住宅の室内には、日本赤十字社から提供された家電5点セット(冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、電気ポット、薄型テレビ)が備え付けられている。浩子さんは、洗濯機の横にあるドラム式の乾燥機に目をやり、胸を張った。

「これ、うちの人がプレゼントしてくれたんです! 大変そうだからって」

 仮設住宅には、ベランダがない。窓の外に洗濯物を干すのだが、雪が積もると、屋根からぶら下がったつららからしずくが垂れ、洗濯物を濡らした。

「でも全部乾燥機で乾かすのは電気代がもったいないから、まずは室内の窓辺に干して少しでも乾燥させてから乾燥機にかけます。そうすれば1時間で乾いてくれるから、節約できるんですよ」(浩子さん)

※女性セブン2012年3月22日号

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